第14話 ブタです
「戻らなくなっちゃいました……」
さっきまでと同じスウェット姿の羽崎さんだが、明らかに違うのは頭の上から生えた角。
なんか思ってたより小さく、猫耳みたいについた黒い三角は時々本当の耳のようにぴょこぴょこ動く。
なんかかわいい。
「戻らなくなったって……今まででもそういうこと、あったの?」
「いえ、勝手に変身しちゃったことはあっても、落ち着いたら人間の姿には戻れてたんですけど」
「じゃ、じゃあ落ち着いてみたらいいんじゃない?」
「さっきからずっと深呼吸してるんですけど、どうもうまくいかなくて……これだとお外行けないです」
また、耳のように角がぴょこぴょこ。
で、ズボンからはみ出した尻尾もぷらぷら。
なんか可愛いな。
「うーん、確かにこの姿で人前には出れないかなあ。とりあえず今日は暗くなるまで待つしかないんじゃない? どうせ、日中はズル休みしてるから外出れないし」
「そ、そうですね。それじゃ今から何します?」
「勉強の続きとかは?」
「んー、でもサキュバスの姿で勉強しても人間モードの私が成長できるわけじゃないんですよね。だからせっかくなので遊びませんか?」
「遊び? いいけど、大したゲームもないよ?」
うちにあるのはゲーム機が一台。
ソフトも一人用のRPGばかりで、一緒にやれるようなものもない。
あとは……
「トランプとかならあるけど」
「いいですよ。私、トランプとか久しぶりですし」
「そう? なら、やる?」
「はい、ぜひ。こういう何気ないことを通じて仲良くなっていくものだと、母から聞きましたし」
「そ、そんなもんかな。ま、やってみよう」
どうせ夕方まで間がもたないし。
下手に勉強とかさせてムキにさせて再び素っ裸になんかなられたら今度こそ俺も色々と我慢する自信がないし。
今は羽崎さんが落ち着いて元の姿に戻れるのを待とう。
「で、トランプとは言っても何する?」
「ええと、それではまずポーカーでもしませんか?」
「ん、結構渋いね。ええと、役とか覚えてる?」
「はい、父と母と家で結構やってたので得意なんですよ」
「ふーん」
というわけでルール確認。
手札を五枚配ったあと、互いに一度だけ手札交換をして山からカードを引いて勝負、ということにした。
フラッシュとかフルハウスとか、その辺の役はゲームで覚えていたのですぐにカードを混ぜてスタート。
俺に配られたカードはすでにダイヤの三でスリーカードができていた。
「じゃあ、俺から引くね。二枚捨てて……」
二枚捨てて二枚引く。
するとエースが二枚。
フルハウスができてしまった。
「つ、次は私の番ですね。ええと、四枚交換して……あっ」
羽崎さんがカードを四枚捨てて四枚引いた時、なんともバツの悪そうな顔をしていた。
きっと手が悪いのだろう。
ポーカーフェイスとはよく言ったもので、彼女はそれが全くと言っていいほどできていない。
そんな彼女にこんな手をぶつけていいものかと、手を開ける。
「はい、俺はフルハウス」
「……ブタです」
「じゃあ、俺の勝ちでいい、かな?」
「……も、もう一回お願いします! 私、結構運はいい方なんですよ?」
「ま、まあこれは運次第だからね。ええと、それじゃもっかい」
で、もう一度。
今度は手の中ですでにフラッシュが完成していた。
俺って、運がいいのか?
「宗次君は交換は?」
「ええと、俺はなしで」
「え? それじゃ私は……うーん全部交換!」
五枚の手札をバサッと捨てて五枚引く羽崎さん。
で、またしても厳しい顔をしていた。
「……あの、俺はフラッシュなんだけど」
「ブタです……ど、どうなってるんですかこれ!」
「た、たまたまだって。それに遊びなんだから楽しもうよ」
「だ、ダメです! こんなに勝負に負けたの初めてで悔しいです! むー」
羽崎さんはカリカリしていた。
で、イライラが隠せないまま貧乏ゆすりする彼女の足を見ていると。
なんかその足が光った、気がした。
で、次の瞬間。
「……足?」
「もう、今度という今度は絶対に……きゃー! なんで裸なの私!?」
「え……わーっ!」
「み、見ちゃだめ!」
「ぐへえ」
拳一閃。
トランプと一緒に、俺の体は宙に舞った。
バサバサと飛び散るカードの中で、彼女が三回目を始めようと手に持っていたカード五枚がなぜか視界に入った。
バラバラだった。
その時、俺は思った。
この子、絶対にギャンブルとかさせちゃだめだな、と。
いろんな意味で。
負けるし。
文字通り身ぐるみ剝がれるし。
なんて。
そんなことを考えながら俺は、またしても意識を失った。
突然家にやってきたサキュバスちゃんが未経験でウブな女子だった件 天江龍 @daikibarbara1988
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