七夕


 男は獲物を求めて街の図書館に来たが、収穫は見込めなかった。

 男が肩を落として出口へ向かい、児童本コーナーの前を通った時だった。

カラフルな短冊に着飾られた、自分くらいの背丈の七夕竹が目に止まった。

男の眉が、わずかに歪む。

 この手のものが、男は大嫌いだった。“願いごと“という名前で個人の

私利私欲を書かせ、それを誰でも見られるような状態に掲示するという

無神経さに心底呆れる。故に、“将来の夢作文“なんかも総じて嫌いだった。

 男は竹に近づいて、願いの綴られた短冊に目を通す。

「〇〇になれますように」

「家ぞくが元気でいれますように」

いかにも小学生らしい単純な願い事ばかりで、退屈を欠伸として吐き出した。

そして、最後に1つだけ読もうと、裏返っていた水色の短冊を表に返した。


「あの子のけしゴムに、ぼくの名まえが書いてありますように」


男は目を丸くした。字のバランスの悪さから、書いたのは小学校低学年の子

だろうと予想できた。しかし、子供にしては知性的なこの表現は、どこで手

に入れたのだろう。自分と相手の名前を書いていないあたりも、彼の気恥ず

かしさを感じられて、興奮する。

「この子だな」

男は呟いて、早足で図書館を出た。

 早速、獲物について調査をするようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超短編 @nylon-tex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ