実家に帰る方法
「俺、明日実家帰ろうと思うんだよ」
「このコロナ禍に?」
「うちの実家『このころ中』なんて地名じゃないぞ?」
「違うわ!コロナウイルス蔓延中いう事だ!」
「そうそう、そのコロコロナウいっていう状況だからどうしようかと」
「コロナウイルス!」
「まあどうやって行こうかと思ってさ」
「うーん、出来れば行かないのが一番だけど…」
「うん、まあ大した用事じゃ無いんだ。親父が危篤なだけで」
「十分大してるぞ!」
「電車とかバスとかいろいろ考えるけど、俺酔いやすいんだよなあ」
「それは体質だからなあ、仕方ないよ」
「うん、つい車内で酒飲みすぎちゃって」
「それアル中!」
「いやあ、どうしたもんかと」
「まず酒を止めろ!取り合えず特急を使えば早そうじゃない?」
「それは悪いよ」
「何が?」
「海上保安庁の『特殊救命隊』だろ、ヘリなら早いけど税金使っちゃまずいよな」
「その『トッキュー』じゃない!じゃあ高速バスはどうだ?」
「うーん、あれってさあ、トイレをサービスエリアまでできないだろ?」
「そうだな」
「いつも備え付けの袋一杯になっちゃてさあ、臭いんだよな」
「あの袋は乗り物酔いした時用だ!小便近すぎ!船は乗らないのか?」
「うーん、見た目より若いけど人妻だしなあ。やっぱり乗るなら二十代の方が」
「サザエさんのお母さんに乗るんかい!しかも下ネタ!で、飛行機はどうなんだ」
「飛行機は怖いなあ」
「まあ嫌いな人いるよな」
「だってさ、船なら沈没しても泳げるじゃない。飛行機は墜落したら俺飛べないからなあ」
「みんな飛べんわ!ところで、お前の実家ってどこ?」
「隣町だけど。自転車で20分ぐらいかな」
「飛行機も船も高速バスもいらんわ!すぐそこだろうが!今までのやり取り何だったんだ!」
「楽していきたいなあと。自転車で20分って結構距離あるんだぞ」
「そんなあるかなあ」
「大体20キロぐらいかな」
「お前の自転車早すぎ!時速60キロって競輪の選手にでもなるんかい!」
「実家に着いたら1日動けん」
「なぜそこまで頑張るのか小一時間問い詰めたい!」
「やっぱり路線バス使おうかなあ」
「まあ一番一般的だよな」
「でもさ、蛭子能収と太川陽介がずっと一緒なんだろ?なんか嫌だなあ、ケンカ止めなきゃならないし」
「全部の路線バスに蛭子と太川が乗ってたら怖いわ!」
「タクシーでも使おうか」
「お前さあ、タクシーで20キロって結構お金かかるぞ」
「そこはお前、怪談話をうまく使うんだよ」
「怪談?」
「よくあるじゃない、乗せたはずの客がいないとか」
「あるある」
「実は客が寝ててシートからずり落ちて寝てたとか」
「それ怪談じゃない!」
「いや、使える話があるんだよ。これは有名なタクシーの怪談話でね」
「うん」
「青白い顔をした客がどこそこまで行ってくれって言って乗り込む。そして運転手がいくら話しかけても応えず黙ってうつむいたまま、怖いな、嫌だなって…」
「ちょっと稲川淳二入ってるね」
「目的地に着くと、客はお金は手持ちが無いので家から持ってくると家に入る、しかしいつまでたっても戻ってこない、運転手がしびれを切らして家に行くと、線香の煙と匂いが…」
「ちょっと怖くなってきたね」
「運転手がインターフォンを押すと中から喪服の女性が出てきた。運転手は気味が悪かったが、これこれこういう人物が私のタクシーに乗り、お金が無いから家から持ってくると言ったんです、と告げた。すると喪服の女性は…あっ!」
「急に大声出すなよ、怖いよ」
「っと、驚いた。運転手に、ちょっと中に来てくれますかと招き入れ、遺影の前に座らせた。その遺影には…さっきの客が…」
「うわあ」
「聞くとその客は海でおぼれて死んだと、運転者が慌ててタクシーの後部座席を見にいくと…びちゃびちゃに濡れていた…」
「結構怖いねえ」
「これを利用してだ、タクシーのタダ乗りをする」
「悪い奴だねえ」
「まず青白い顔、顔の周りを青く、中は白くしてひげを3本ずつ左右に…」
「それドラえもん!青白いは青と白分けてない!」
「そして行き先の住所を告げてあとはダンマリを決め込む、死人だから呼吸はできないけど」
「さすがに息はしていいんじゃない」
「そして実家に着いたらスーッと中に入って引きこもる」
「引きこもりはダメだなあ」
「両親に協力してもらって、母親には喪服で出てもらって…」
「うんうん」
「親父には死んどいてもらう。どうせ危篤だし」
「スーパー親不孝だな、お前は!」
「遺影を見た運転手はあっ!さっきの客…にしては老けてるな」
「そこでばれるんじゃないか?」
「まあ親子だから、いっそ俺の写真を遺影に」
「もう素直に実家に帰れよ」
「そして、タクシーの後部座席はびちょびちょに…小便が」
「お前は小便近すぎだ!」
ショートショート集 @nekonoko2
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