最終話

31が姿を現すと看護士に声をかけてお姉さんを処置室に運んだ。


しばらくして彼女が目を覚まし、31が目に入って頭を抱えながら起き上がった。


「要さん。私の事覚えている?」

「若菜さんが僕の名を呼んだ時、一気に記憶が蘇った。人間として生き、貴方に出会い…まさかあのような形で亡くなったなんて…」


「失踪した理由は?」


「あの頃会社が倒産寸前だったのも関わらず、ある役員が賄賂わいろに手を出した。その濡れ衣を僕に渡されて…逃げ道を探したが、結果的に見知らぬ者に銃で撃たれて遺体を僻地へきちに埋められたんだ。」


「今、何をしているの?」

「それは言えない。仮に話したら僕は成仏できずにこの世を彷徨い続ける」

「遺体は探せないの?」

「今こうして君と繋がれたことで、捜査官が僕の居場所を見つけた。奇跡が起きたんだ。逆に感謝する」

「さっき病室にいた女性は?」

「見えないが隣にいるよ。君の事を心配している。服のポケットにあるものが入っている。出してくれ」


31が人間の感情を取り戻したことで自然と涙を流していた。

すると、お姉さんの着ている衣服のポケットから箱を取り出して、31に手渡すと、彼は頬をつたう涙を箱に近づけた。


涙が入ると箱が光った。


「この箱は僕が預かる。持っていてくれてありがとう」

「待って、消えないで。貴方に伝えたい事がある。…私は要さんを愛していました。貴方がどこにいても忘れない。再び会えて嬉しかった」

「こちらこそ。思い出させてくれた事があの世に行っても忘れないようにする。君も、どうか元気で。見守っています」


31は姿を消した。お姉さんの膝の上に白い羽根が置いてあり、彼女は抱きしめながら泣いた。


病院の屋上へ行くと31が立っていた。


「これで、ミッションは達成した。これを持って最上界へ行く。君は病室に眠る身体の中に入りなさい。」

「これで、お別れなの?」

「一旦は。君の家族が待っている。早く行きなさい」


私は病室へ向かうとパパとママが来ているのを目にはいり、自分の身体に入りしばらくすると、目を開けた。


2人が気づくと医師や看護士を呼び、容態を確認すると、まだ入院は続くがリハビリを受けていくうちに次第に治っていくと告げていた。


2ヶ月後、私は退院して、自宅に戻ってきた。

リビングのソファに座りパパとママが微笑みながら私を見ていた。


「まだしばらくは通院が必要となるけど、焦らずゆっくりしていなさい。」

「学校も行ける時だけで良い。その間お友達も呼んでいいわよ。皆んなに会いたいでしょう?」

「うん。そうするね」

「圭吾さんも呼んだらどうだ?」

「私、考えたんだけど…婚約をやめる」

「何があったか?」

「事故に遭う前に他に好きな人がいるって聞いたの。だから、私も思い切って新しい恋がしたい」


2人が戸惑う表情をしていたが、圭吾に確認をしてから話を解消すると話していた。


数日後、事故に遭った場所に来てみた。

当時運転していた男性宛のだろうか、花束がいくつか添えてあり、私も抱えていた花を横に置いた。


その場から離れて、ある場所に向かった。

玄関先のインターホンを押して待っていると、女性が出てきた。お姉さんだった。

彼女は驚いた表情をしていたが、すぐに微笑んでくれた。


中に入り、居間で待っていると、高梨が顔を出してきた。入院していた事とお姉さんとの事の経緯を話すと、改めて納得してくれた。


「無事に退院できて良かった。」

「あの…海東圭吾さんと知り合いだと伺っているんです。連絡しているんですが、繋がらないの。何か知っていますか?」

「いや。僕らも探しているんだが、報告がない。どうしたんだろう?」


2人に挨拶をして、自宅に帰り部屋に入ってスマートフォンを開いたが、通知が来ていなかった。


私が退院する直前にパパも彼と連絡が取れなくなってしまったと話していた。

不快に感じたがこれで良かったと思った。


数週間後、大学へ行き講義が終わった後に、構内を歩いていると周りの人達の動きが止まっている事に気づいた。

うろたえていると、隣に31が現れた。


「元気で良かった。」

「あの涙の入った箱はどうなったの?」

「無事に最上界に納める事ができた。全て、終わったんだ」

「もう、貴方には会えないの?」

「君がこの世に生きている限りは姿は現さない」

「また会える?」

「その必要はない。その代わり精一杯、自身の人生を謳歌してほしい」

「迷惑ばかりかけてごめんなさい」

「確かに大変だったな。しかし、こちらも良い経験になった。由愛さん、ご両親や友人を大切に生きていってください」

「ありがとう、ございました」


31が姿を消した。

再び時間が動き出して、私は家に帰っていった。


歳月が過ぎいき、私は新たな出会いとともに、新たな命を宿した。


自宅の近くにある広い公園に入り、青々と茂る樹々の並木道を通り、子ども達が遊んでいる広場のベンチに座った。


「今日は晴れて良かったね。声、聞こえているかな?」


そよ風が吹くと、木陰に何かが落ちているのを見ると、白い鳥の羽根があった。


ある事を思い出した。


きっとどこかで彼らが見守ってくれているんだと感じた。あの時助けられた事とこの子の命は繋がっているように思えた。


この先も長い道のりが待っている。

今日も太陽の光が綺麗で美しい。


人として生きている鼓動が温かく感じた。

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私の期限は49日〜東京編〜 桑鶴七緒 @hyesu

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