たのしいよるのおまつり
ぼくのお仕事は、亡くなった人の魂を冥界へ導くこと。
『よく頑張ったね。おかえり』
と声を掛けて、魂を僕の持つカンテラの中に入れて、冥界まで運ぶのだ。
亡くなったばかりの人間は、現世に未練があるものが多いから、冥界に行ったら生きてる人に二度と会えないと思って、時には中々案内させてもらえない魂もある。
けれど、たまにこちらに戻ってこれる時があるから、その時にまた会えるよ。
と言うと納得してくれる。
それでも行きたくないと現世に留まり続ける魂もいる。それらは悪霊になって、人々に悪さをすると悪魔祓いに祓われてしまう。
そうなると、少し悲しい。
そんなぼくが、お休みの日を頂いた。
今日は『ハロウィン』なんだって。
現世に遊びに行く魂もいるから、お前もたまには息抜きをしにいきなさい。と上司に言われたのだった。
白い布を被っていくんだよと、それも渡された。前が見えにくいのに、と思ったけど仕方ないから被った。
……目の穴は開けておこうかな。
うーん。現世で何をしようと思いつつ、ぼくはぼんやりと現世に続く扉を潜った。
ーー……え、なにこれ。
ふわふわと体を浮かせて、いつもパトロールしている村へ行くと、静かな住宅街がとても賑やかだった。
小さな子供達が思い思いの仮装をして、とんとんと小さな家の扉をノックしている。
あれは何をしてるのかな?と見ていると、気の良さそうなおばさんがぼくを見て話しかけてきた。
「まあ、君もお菓子を貰いにきたの?ほら一緒においで?」
と、ぼくの被ってる白い布の上から手を繋いでくれたおばさん。
何だか、ほんわり温かい手だ。
彼女はぼくに微笑んでから、子供達の後ろに並ばせてくれた。
子供達は家から出てきた住人に、一斉に
「Trick or Treat!」と問いかける。
すると住人が「はいはい悪戯されちゃかなわないね」と言って、バスケットからカラフルなお菓子の包みを子供達に渡しだした。
……いいなあ。
「ほら、君も」
ぼくもいいの?と思ったけど、恐る恐る
ーー…Trick or Treat?
と、呟く。
「はいどうぞ」
住人の男の人は笑いながら、ビビットカラーの包みを手渡してくれた。
ぼくはそれを受けとる。
楽しい。とてもたのしいな。
子供達と一緒にはしゃいで、
家の住人を驚かして
甘いお菓子を貰って。
皆が笑顔になっている。
子供達は、知らないぼくのことも仲間に入れてくれた。
いいな、いいな。
たまたま隣に座った子供が、ぼくの手を白い布の上からぎゅっと握る。
生きてる人間って、
たのしくてあったかいんだ。
「きみのて、冷たいね」
うん、ごめんね。
ぼくは人間じゃないから
ーーきみは、あったかいね
そう言ったら、にぱっと笑っていた。
子供達と別れて一人。公園のベンチに座ってから、貰ったお菓子の包みを一つ開けてみる。
中身は、カラフルなアイシングでかぼちゃやコウモリ、猫、魔女の帽子が描かれたクッキーだ。
一口、食べてみたいな。
……食べちゃおうか。
どきどきしながら、被った布の下からこっそり一口、食べてみた。
素朴でさっくりした食感がたのしいクッキーだ。スライスナッツが練り込んであってサクサクしている。
人間って、こういうの食べているんだなあ。
白い布からはみ出た足をぷらぷらとさせ、ベンチで休憩しながらハロウィンの人々を観察してみる。
よく見てみると、人間に混じって冥界の住人がやってきているし、人間達には見えないけど、亡くなった魂もちらほら見えた。
みんな、遊びに来ているんだ。
人間達が現世に未練を持つ気持ちが、少しわかった気がした。
ぼくは貰ったお菓子を抱えて、冥界に帰った。
とっても楽しかったから、明日はお休みをくれた上司にお菓子をおすそわけしよう。
少しわくわくしながら、眠りにつく。
たのしいよるのおまつり
また遊びに行きたいな。
ハロウィンの夜に御伽話を 相生 碧 @crystalspring
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