第8話 そろそろ
「……はっ!」
目が覚めると自分の部屋。また朝に戻ってきたんだ。今回は美鈴に殺された。何で美鈴は拳銃なんてものを持っていたんだ。ここは日本だぞ。
俺は七美と連絡を取ろうと携帯を取り出した。
「あー、連絡先交換してないじゃん……」
俺は支度と家の安全を確保して学校に向かった。
∞
七美とは屋上で落ち合うことになった。また街中で殺されては話し合いもまともに進まない。
「前回は走り回らされて散々だったな」
「本当にね。あんなことになるとは思わなかったよ」
俺たちはとりあえず前回のことを共有することにした。
「私は通り魔に襲われることは初めてだったんだが、お前は毎回そうなのか?」
「毎回というか、最初は登校中にトラックに轢かれてた。それを回避すると通り魔に襲われる感じだな」
「なんだか大変そうだな」
現状を話しただけのはずがなぜか労われてしまった。
「七美はいつもどんな感じなんだ?」
「私の場合は月曜日から金曜日までの5日間を繰り返しているだけだ。今まで繰り返す中でこんな事件みたいなことは起きたことがなかった。横内が来てから変わった気がする」
「美玲はどのくらい前からいるんだ?」
「お前が来るより数回前くらいだったと思うぞ。そんなに差はなかったはずだ」
美鈴もそんなに長くいないということか。だけど、何故俺を殺そうとしたりするんだ。不可解なことが多すぎる。
「とりあえず、お前も横内もどちらかでも死んでしまうとその時点で繰り返しが発生してしまうっていうことだけは分かったな」
みんなが死なずに明日を迎えるってことだけ考えてればいいのか。それが一番難しい気がするけど。
「まずは通り魔がどこで出現するのかを考えないといけないな。いつもどこで遭遇するんだ?」
「昨日の商店街と俺の家だな。まだその程度しか繰り返しをしていないってのもあるけどな」
「なるほどな……。そしたらできるだけその2か所には近づきたくないところだな」
できることならそうしたいが、流石に家に近づけないのは難しい。何処に身を隠しておくのが一番いいのだろうか。
「いっそのことここで明日になるまで粘ってみるか」
俺はやや投げやりにそんなことを言った。すると、七美は少し考えこんだ後、「ありかもしれない」と言った。
∞
俺の思い付きから今日は学校の屋上で一晩明かすことになってしまった。今が7月だったので幸い寒さなどはないが、学校で1日過ごすのもなんだか非日常的な感じがする。
七美にはさすがに帰ってもらった。遅い時間まで女子を付き合わせるのも良くないし、教室での美鈴の様子を見てもらうためだ。教室では特に変わった様子はなく、俺のことを気にすることはなく、クラスメイトと共に帰宅した様子だった。
「このまま何も起こらなければいいけどなぁ」
俺は夕日に包まれた町の風景を眺めながら呟いた。現時点で繰り返しが起きていないということは美鈴も七美も無事ということである。俺は寝転んで空を見上げた。少しずつ星が出てきている。俺はまたこの繰り返す世界について考えを巡らせ始めた。
∞
目を覚ますと目の前が真っ暗だった。
「嘘だろ!?」
慌てて飛び起き、スマホで時刻を確認した。7月9日23時30分。どうやら完全に眠ってしまっていたらしい。寝てる間に殺されたりなんてことは起きずに済んだようだ。日付が変わるまで残り30分。なんだか最後はあっけなく終わりそうな気がする。
フェンスまで行き、街を見下ろすと明かりの消えている家庭も多く、夜の静けさに包まれていた。それは学校も同じであった。
その時、ガシャンっと扉を殴るような音が聞こえた。扉は鍵をかけておいた。こんな時間に誰か学校に残っていたのか?
何者かが扉を殴るような音はずっと聞こえてくる。そして、扉は耐えきれなくなり、外側で弾き飛ばされた。
「おいおい、まじかよ……」
そこにいたのはあの通り魔であった。
通り魔はゆらりと顔を上げ、俺の方を見た。そして、目が合ったと思った瞬間にこちらを目掛けて走り出した。
「簡単には逃げられねぇってことだな」
俺は逃げようと走り出すが、ここは屋上。そんなに広くもない。どうにか入り口から逃げたいものだが。
通り魔から逃げつつ、入り口の方へと方向転換する。しかし、それに気づいた通り魔が飛び掛かってきた。
「うっ……。くそっ……」
通り魔の拳が頬にあたり、俺は転んでしまった。そのまま通り魔が馬乗りになり、首を絞めてくる。かなり強い力で首を絞められ、意識が遠のきそうになる。
俺は力を振り絞って、通り魔の顔を殴った。通り魔の力が一瞬緩んだ隙をついて俺は通り魔と距離を置いた。
「ゲッホ、ゴホゴホ。そう簡単に、くたばってたまるか」
「……ハヤク」
通り魔が初めて言葉を発した。機械音の様に加工された声だった。それにしても「ハヤク」ってなんだ? 時間を気にしているのか?
通り魔が体勢を立て直し、再びこちらに向かってくる。何か格闘術を身に付けているようで素早いパンチや蹴りを放ってくる。俺はどうにか避けているがただの高校生じゃそんなものを避けきれるはずがなく、蹴りを思いっきり食らって吹っ飛んだ。フェンスに当たってやっと体は止まった。
もう体を動かす力は残っていない。通り魔の方に顔を向けるとゆっくりと近づいてくる。その手にはナイフのようなものが握られている。
「……ジカンガ」
通り魔は俺の目の前まで来ると俺の腹にずぶりとナイフを突き刺した。
「ぐ、あああぁぁっ」
くそ、間に合わなかったのか。やっぱり隠れてたところで今日は乗り越えられないのか。
「……ア、レ?」
俺は意識が飛びそうになりながらも通り魔の方を見た。すると通り魔はまるでゲームのバグが起きたかのようにモザイクがかかり、そのまま崩壊するかの様に消えていった。
何が起きたかさっぱり分からず、俺はぼんやりと通り魔がいた場所を眺めていた。すると、スマホに通知が入った音が聞こえた。スマホを見てみると七美からの連絡だった。
『無事か!?』
通り魔に襲われたこと知ってるのか?
そう思い、時計を見ると7月10日火曜日0時3分を表示していた。
「やった、やっと越えた……」
通り魔が消えたのは俺が生きたまま7月9日を超えたからであったようだ。それを察した七美から連絡がきたというわけだろう。返事を返したいがもうそんな力は残っていなさそうだ。ここで死んだらいつからやり直しになるんだろう。また最初からなのだろうか。
「おめでとう! ついに日付を超えたね!」
「み、美鈴。何で……」
声がする方を見ると美鈴が立っていた。いつからそこにいたんだろう。ニコニコしながらこちらに近づいてくる。
「もう1日超えるだけなのにいつまで時間がかかってるんだろうって思ってたよ。いつまでも超えられなくて諦めちゃったらどうしようって思ってたんだから。本当に安心したよ」
そう言いながら、美鈴は俺の体をフェンスに押し当てた。通り魔に飛ばされたときにフェンスが緩みができていたのか金具が外れ、俺の体は半分屋上から乗り出してしまっている。
「な、なにを」
「え? だってそんな体じゃもう死ぬの待つだけでしょ? だったら早く楽にしてあげた方がいいでしょ?」
そういうと美鈴は俺の体を突き飛ばした。その勢いのまま俺は屋上から落ちて――。
第1ステージ CLEAR
長沼雄介死亡により――――
GAME OVER
ループ―繰り返される無限の世界― 桜木翡翠 @sakura-hisui
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