③. 1 追憶 渡り鳥の夢

 気づけば僕は天井の空いた洞窟の中で、沢山の鳥達に囲まれていた。


 なんで?

 

 ぼやけていた頭が覚醒すると同時に、僕は再度辺りを見渡した。

 

 大きな穴はさながら天窓のようで、灰色の隙間からは緑が顔を覗かせている。


 ここは何処?


 その疑問に答えるように瞬時に場面が切り替わった。


 最初に目に入ったのは、天窓から射し込む白い光。それは眩しくて霞んでしまう。あの中から天使が降りてきそうだ。と思ってしまいそうな強くて優しい光。そこへ向かって旅立とうとする鳥達の姿は、まるで巣立ちの一場面ようだ。


 また場面が切り替わる。


 足に触れたのは藁で出来上がったふかふかの絨毯。その上には熟した木の実やカラフルな花束の数々が、周りを囲むように並んでいる。美味しそうに木の実をついばむ子、花束の中の一輪花をくちばしで持ち上げ、天の光に向かって飛び出した。


 更に場面は切り替わる。


 次に行われていたのは石盤のステージ上で寄り添うつがいとその様子を見守る観客たち。”比翼連理”と呼ぶのだろうか。とても華やかな場で祝福されている番はお辞儀をして、二羽一体になって飛び出した。


 そんな光景を観察して、瞬時に理解した。


 洗礼式、収穫祭、感謝祭、結婚式。


 この洞は彼らにとっての教会なんだと。


 目に馴染み出した場面は切り替わる。でも何故だろう、。そう思った。


 気づけば僕は天井の空いた洞窟の中で、沢山の鳥達に囲まれていた。


 これ、見たことある。


 あれ、でもなんだか…


 


 天窓は光を遮るように木漏れ日のカーテンが作られているし、石畳と石壁には緑が増えてツルが伸びている。


 まるで廃墟だ。廃れて整備されずほったらかしにされた教会のよう。


 彼ら鳥達はいるのに、先程のような楽しさは全くない。


 囀りもない。静かすぎる時間だけがこの場を支配していく。


 怖くなって、後ずさる。


 すると片手に コツンッと硬いものが当たる。


 恐る恐る見てみると、そこには僕より一回り大きな”なにか”が鎮座していた。


 これは、卵の、殻?


 そこでやっと自分がステージの上に赤子座りでいる事に気が付いたのだ。


 「おう」


 天井の空から声がする。見上げるといつの間にかカーテンは開いて、暗闇の空に月が浮かんでいて、その中にがいた。


 すると鳥達が一斉に騒ぎ出し、「おう」と呼ばれた僕を再度見る。


 目が、光っている。


 火のように赤い鳥も、幸せもたらす青い鳥も、平和の象徴と呼ばれる白い鳥も、害獣と呼ばれる賢い黒い鳥も、木の実を啄んでいた小鳥も、花運びをしていた鳥も、結婚式をしていた番も、


 熱が篭ったギラギラな瞳で、僕を見つめている。


 まるで自分達の王様が生まれた瞬間を待ってましたと言わんばかりに、





 そんな夢を、見ている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣国のトワイライト 糸依 なれよ @itoyori3444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ