②. 3 再会 ルカロス・トワイライト
「ルカロス…!あっ…紹介するよ!この子は僕のお世話係兼護衛のハウちゃん…!ハウちゃん…!この人が僕の幼馴染でマイウィザード…ルカロスだよ!」
一旦温室を退室し、支度が終わるまで玄関口で待機。その五分後に呼び戻され、先程、蚊帳の外だったメイドの自己紹介が始まっていた。
「はじめまして最高司祭様。よろしくお願いします」
隣にいた兎耳亜人メイド、ハウがぺこりとお辞儀し、そのあと困惑した表情でマリーナを見つめている。
マリーナ・アルトナシア。魔王の幹部の一人であり人魚族、
裸足で立ち藍色の着物に着替えたマリーナをルカロスは
センバとは違い髪も瞳もそのまま、違うと言ったら耳の
そんな彼女が
そのせいか彼女の隣で佇んでいるハウは無表情な顔から一変、天使と悪魔が蜜月している現場に偶然出くわした一般人のような顔になって固まっていた。
しかし主人が嬉しそうに最高司祭に話すかける姿が珍しいのか、心做しかそのあと口元に弧を描いていく。
…仲は良さそうだ。
「二人共…参拝者がいない時間帯だから泳ぐのはいいとして女性が二人だけなら鍵はかけなさい鍵は。ここの生活棟にはプールがあった筈ですが…」
「ごめんね…。プールが点検中で…ここしか水浴びできるところがなくて…」
「成程。ここに人魚の転生者がいるというのに点検で使用不可?職員の
「…?そこまで…しなくても」
「どうぞやってください」
「…ハウちゃん?」
「マリーナ様は彼らのことを気にしなさ過ぎます。大体、最高司祭様がこちらに赴く事になったのはアイツらの不始末が確かな原因の一つです」
垂れた兎耳がピクリと動く、ハウの応答から醸し出す怒りは、隣りにいたマリーナにも心当たりがある様で何も言わずに沈黙している。
ハウは仏頂面をしているが、マリーナへの忠誠心はある様だ。言動からマリーナへの配慮を感じられる。
職員達はどれだけ疎かにしているのだろうか?一応、この世界の国際機関のひとつなのだが、その自覚すらないものが集まってくるのだろうか。
一応「すげ替え」は選択肢に入れておこう。
「…それにしても今日だったんだね。ルカロスが…ここにくる日。すっかり忘れてたよ。」
「本当ですよ。貴方の乾いてしまう体質は人魚の転生者として解決しようがないのは仕方のない事。しかしそのままバッティングしないで下さい。あの後センバって子と二人っきりで気まずかったんですから。」
「二人っきりで……あれ?ジェムは?それにもう一人くるんじゃ…?」
「その子はブッキングして聖天塔の部屋に閉じ篭りました。ジェムはその時彼女を部屋に案内していていません。」
「なんで…?恥ずかしがり屋なの?…センバくんすっごく良い子なのに…」
「良い子?その様には見えませんでしたけど。明らかに私を避けて会話をしていましたし…」
ルカロスの彼への第一印象は大体そんな感じだ。
リオンとジェムが退室した後、センバは先ほどの穏やかな歓迎ムードとは一変、挙動不審な態度でルカロスを凝視していた。
『あ、改めまして!センバ・ユーノミヤです。てて、転生した今代の
『今日からよろしくねセンバくん。僕のことはもう知っていると思うけどルカロス・トワイライトだ。是非ルカロスと呼んでほしい』
『?センバくん?僕の顔になんかついてる?』
『い、いいえ⁉︎き、今日はいい天気ですね!』
『うんセンバくん、今日が快晴なのはいいことだ。でも天気の話は今ので十五回目だね。』
『…それで、今さっき出て行った子は私の弟子で…』
『……………………………』
「と、一部始終がこんな感じでした。」
緊張しているのかと思ったが視線を合わせようとすると逸らす、口数が話が進むにつれ少なくなる、最後の会話なんてルカロスの一人語りだった。
そんなセンバとルカロスの対面は不穏な空気を残しながら終了した。
おまけにリオンのあの態度だ。女性的恐怖を彼女が感じたとすればルカロスも黙ってはいられない。
そんなルカロスの警戒の心中とは裏腹に、マリーナとハウはセンバのあの態度に「まあ、そうだろう」と納得している様子だった。
その様子にルカロスが気づくと同時にマリーナは真剣な顔で
「センバくん…すっごく緊張していたのね」
「は?」
「やっぱり僕…一人にしなければよかった。そしたら勇気が出てルカロスに…友達になって下さい、て言えたのにね」
「はぁ?」
「いやあの下手さは我々がいくら援助しても治りませんよ」
「は、」
静々としたマリーナの証言。続いてハウも呆れた様に口を開く。
最悪な事実に空いた口が塞がらない。
「まさか…彼がコミュニケーション下手とでも言いたいのですか?」
「ん…そうだけど?」「はい、その通りですが?」
一瞬の間、静寂が疾る。
「連れてきた子…出ていっちゃて、ジェムさんもいなかったんでしょ?それで話し掛け辛かったんじゃ…」
「警戒心タイプですか…。」
コミュニケーション下手な人間の特徴は省略して三つある。
自己評定が低く心配性、人に嫌われたくない一心で会話に混ざらない“気配りタイプ”。
マイペースかつ協調性皆無、上から目線で話しを進める為、最終的に会話についていけなくなる”プライドタイプ”。
人見知りが激しく、初対面相手だと友人がそばにいないと会話をしない”警戒心タイプ”。
特に”警戒心タイプ”は初対面の人物に苦手意識を持ちやすい。
「知りませんよそんな事!なんで手紙で教えなかったんですか!センバくんの僕に対する第一印象絶対最悪ですよ!」
「ん…でも簡単に人に打ち明けるのは、いけないと思って、センバくんも頑張ってるから…言わないようにしてた…ごめん」
気遣ってのことが裏目に出たことが随分ショックなのか、マリーナは目線を離し、俯く。
そんな表情で謝罪されてしまうと、ルカロスも申し訳ない気持ちになってしまい、黙りこくる。
両者のネガティブな感情がジメジメした温室内の空気を更にむさ苦しいものに変化さていく。あまりの温度差に温室で暮らす妖精が、苦情を漏らしに二人に突撃してしまいそうだ。
それを変えたのは、ハウの咳込みからの淡々とした声だった。
「それでも二人の間に起こったことは、もうどうしようもございません。我々もサポートしますのでそれで納得してもらわないと話すら進みません」
納得、たしかにハウの言う通りだ。
「そうだね、ここで一緒に暮らすんだから…センバくんのために…ルカロスの仕事のために…僕たちが頑張らないと…」
「此方も、情報不足で…つい頭に血が昇ってしまいました。貴方は悪くないのに…」
「ううん、僕、センバくんのこと…あんまり見ていないのかも。今日も彼を一人にした…ひどい大人。でもね、彼が必死に下手を克服しようとしているのはわかるよ。これは見守ってあげないと……」
本日の失敗を報告し合う頃には、なんとも穏やかな夜の空気が広がっていた。木陰で見守っていた妖精達もどこか微笑ましく彼らを見つめている。
一方、ハウは面白くないようで「言うんじゃなかった」とこぼした。
「…ごめんね、勝手なことして、最近ずっと大変だったから。…今日来るの忘れてた」
「自称参拝者どものせいです。決して御身のせいでは」
ハウが舌打ちをすると同時に、マリーナを庇う。
「自称参拝者?そういえば手紙にも書いていましたね。意味がわからなすぎてその理由も含めてここへ来ました」
ルカロスに届いた、マリーナの手紙には続きがあった。
『来る途中、自称参拝者がいるかも。きをつけて』
「上層部に問いただしても知らん顔されるので、何かおかしいと思い……」
温室に来る前の葛藤していた姿はなく、ただ純粋に役目を全うしようとする司祭がそこにいた。
そんな情報不足で正直者のルカロスに呆れることなくマリーナは笑った。きっと家の人が、彼の挫折を狙ってワザとここに寄越したと察して、
そんな事をしても彼はきっと解決する。
だって彼は、マリーナの魔法使いだから。
「ちゃんと説明する。…明日になったら…いやでもわかるから」
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