②. 2 調査 ルカロス・トワイライト
ピオネーリア・トワイライト大聖堂の領域はピオネーリア都市の十分の一を占めており、フリグでの移動が必要になる広さの土地が
転生者の生活棟。聖天塔はその
はるか昔に存在する大聖堂より
映画が世の中に出回りだすと映画館を創り出し、
エレベーターが発明されればエレベーターを取り付ける。
カラオケブームが流行れば、翌日にはスタジオエリアが出来上がり、
いつのまにか
もうここまでくると転生者の為だという言い訳は、職員たちの私利私欲を満たすための嘘っぱちである。
現に、彼ら転生者がスペースを使用する姿は、写真という名の記録媒体の中でも絶望的に少ない。殆ど職員やお偉い方が笑顔で映った写真が、いまでも食堂のコルクボードに貼り付けられている。
最近の流行やトレンドを吸収していくうちに聖天塔はただの生活棟では無く、一種の
ちなみに大聖堂に訪れる参拝客は近くにこんな建物があることは知らない。
彼らが知っていることと言えば、
最初は一つだけだった温室が二つに増えたとか、
塔がだんだん豪華になって綺麗になったとか、
お年寄りに優しい設備が備わっているとか、
春に薄いピンク色の花を咲かせる木が、いつの間にか庭園の出入り口にアーチを作っていたりとか、
そこで屋台をやることが増えてお祭りの日が楽しくなってきたなどと、外見的な変化しか気が付かない。
しかしそれは知らぬが仏、言わぬが花。
現にこれが理由で利用者が増えてきているのは鰻登りのグラフから見ても分かる。
このピオネーリア・トワイライト大聖堂はミステリアスな一面を持ってこそ、この大都会に映え続けるのだ。
太陽が沈み、一番星が見える。
そんな
呪いの生みの親、
あの後リオンは、彼女を追いかけたジェムに自室まで案内され、そのまま篭った。先程、様子を伺いに部屋に訪れたが門前払いされてしまった。
『ごめんなさいルカロス。私気分が悪いので今日は休みます。』
『四時間で随分しおらしくなりましたね。晩御飯はいらないんですか?』
『いりません。大丈夫ですから…お休みなさい』
『いやまだ十六時…』
バタンッ
こんな感じに。
ーリオンのあんな
私の愛弟子をあんな傷心な乙女にさせた彼、センバ君って何者なんだろう。
悪い意味で彼に興味が湧いた。さらに言うと彼の悪い印象が多すぎてどんな人物なのか気になっていた。
センバ・ユーノミヤは今現在見つかっている転生者の中で「問題児」と呼ばれている青年だ。
問題児、またの名は自殺志願者。精神的負担がかかっている時の転生者をトワイライトはそう呼ぶ。
トワイライトの一族の主な活動はこんなものだ。
一、世界のどこかにいる転生者を探す。
二、彼らの護衛兼監視、生活の援助をする。
三、精神面に問題があると判断した場合、すぐに報告する。記憶を思い出し人格が『幹部』になっている可能性がある為。
四、自殺志願者がいる場合、即時拘束せよ。
もし、転生者がここでの生活が自暴自棄になり自殺なんかしようと考えれば、問答無用で拘束し、寿命が来るまで文字通り自由のない生活を送ることとなる。
その中、転生者が考えを改めても拘束は続く、生き地獄だ。
センバは今現在、拘束対象となっており、それの監視役としてルカロスが派遣され、上層部の命令でリオンも巻き込む形になってしまった。
つまりルカロスは上層部に「弟子を連れて自発爆弾と一緒に暮らせ」と命令されているに等しい。
明確な悪意を感じるのは気のせいではない。
こんな事は度々ある。流石に愛弟子を巻き込むのは癪なので問題はルカロス一人で解決するのだが、今回は先を越されてしまった。
正直、センバが自殺志願者である噂はあまり信用していなかったが、彼と二人っきりになって考えが変わった。
彼は何か『変』だ。
確証を得る為にはもっと情報が必要だ。
ここで一番センバ・ユーノミヤを知っているのは彼の“お世話係”であるジェムだろう。しかし彼は今食堂の方に駆り出されてこの後も暇がない。
他に彼のことを知って、ルカロスに情報を簡単に教えてくれそうな人はジェム以外に…
いる。
しかしこんな理由で会いに行くのは…
いや、彼女はあの場にいなかったので挨拶として会いに行くのもいいのかもしれない。会話すれば自然とそんな話になるだろうし、それに彼女から渡された手紙の内容にも気になる事があった。
あぁでも……いやそれじゃあ……
そんな葛藤をしながら移動すること二十分、目的地である温室にたどり着いた。
温室の中は、熱帯雨林に生息してそうな花や植物がそこら中に広がっており、その中央には巨大な滝壺があった。
ここにいそうだな。とルカロスが周りを見渡していると滝壺の側に人影が見えた。
よく見るとメイド服を着た
ーそういえば彼女、最近着物にハマったとカタログを手紙で寄越していた様な…
『男の子に「絶対似合う」と進められて、実際好きになった』という文面を読んであんまり面白くなかった事を思い出す。
まさか、と想像が当たっていますと言わんばかりに、目の前の滝壺から何かが跳ねた。
それは人魚だった。
ウルトラマリンの艶やかな魚尾がライトを浴びて宝石のように輝きだし、
スレンダーな体型には尾と同色の鱗が首飾り下にびっしりと、
長い黒髪は一纏めにされ、そこから耳部には鰭が生えている。
そんな姿をした中性的なお顔立ちの
その光景はさながら絵画のようで現実味がない。
彼女のスカイブルーの瞳が合うまでルカロスはその場を動けなかった。
5年ぶりに会う幼馴染みがこんなに美しくなっていたのだから。
人魚が水中に戻り、顔を出す。
「魔法使い…?」
声まで魅力的になっている。
「魔法使い…!ルカロス…!マイウィザード…!わかるかい?僕だよ…!マリーナだよ…!」
歓喜の表情でルカロスのいる熱帯エリアに上がろうとするとメイドが声を上げた。
「マリーナ様いけません!ウロコが剥がれますよ!」
マリーナは「そう…だった」と赤面しながら滝壺に戻る。そして
「ごめんルカロス…ちょっとここから出てってくれない…?」
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