第3話

「あれ……?」


 時刻は午後8時。最後に時計を見た時から3時間が経過していた。


「もうっ! 心配したんだから!」

「ごめんなさい」


 夕ちゃんに怒られる。限界を試そうとして気絶したのだから、私が悪い。


「初めてだから仕方ないかもしれないけど……。みんなには説明したけど、夜奈ちゃんは魔力切れを起こして強制的な気絶状態に陥ってたの。本当に危険だから危機に瀕してる時以外はやらないで!! まあでも3時間で戻ったのは相当早い方よ。大体半日は寝てるもの。そういう修練方法もあるけど、デメリットがあるか分からない以上、やらない方がいいわ。

 ステータス見てみたら分かると思うわ。多分凄く伸びている。けど、私が知ってる限りだと命を落とす例もあるから……」



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雪路 夜奈

種族:人間 レベル1


〈基礎値〉

筋力:2(↑1)

耐久:1

器用:19(↑18)

敏捷:6(↑5)

運 :1


魔力量:79(↑74)

魔力質:Y−(Z→Y−)


〈職業〉

『学生』レベル3(↑2)

『メイド』レベル1


〈スキル〉

『奉仕』レベル2(↑1)


〈恩恵〉

『愛し子』

『????』

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「凄い……確かにかなり上がってる……。でもマイナスって何だろう?」

「え? 今マイナスって言った……? ・・・え゛?」

「どうしたの?」

「いや……早……でもあの純粋さなら……」


 夕ちゃんがぶつぶつ言っている。真剣にぶつぶつ言っている姿は見たことなかったからなんか新鮮だ。


「ごめんね、かなり驚いただけ。私が思ってる以上に夜奈ちゃんは大物なのかもしれない。

 良い? ステータスは数値が上がれば上がるほど必要な経験値も変わってくるの。この世界の計算方法はあまり分かってないけど、おそらく全員が1から始まってるから、元々の身体能力に近付くようにある程度は上がりやすくなってると思うの。加えて、魔力質はちょっと特殊でね。魂に依存するから前世で上がってたらそのままかちょっと下がって引き継ぐの。記憶を引き継がずに魂がそのままっていうのは聞いたことがないから、夜奈ちゃんの記憶はほぼ確実に封印されてると思うわ。それか恩恵のハテナ枠ね。

 で、マイナスに突入するにはね、普通はEXまで上げてから大量の経験値を注いで突入するか否かなのよ。私でさえAで止まってるのだから、私の知らない方法があるか、前世で物凄く高かったかってことになるわ。どちらにせよ、方針をちょっと修正する必要があるわね……。

 夜奈ちゃんには属性と攻撃魔法を教えて上げる。他の魔力が使えるみんなはバリアに魔力を注いでほしい。バリアの耐久を超過してもどこかに貯められてるみたいだから」


 ほんとに私にそんな力が備わってるのだろうか……? だとしたらみんなの力になりたい……!


「頑張ってね!」


 紅羽ちゃんにエールをもらう。


「じゃあ始めようか」


 私の中に魔力を流される。火、水、風、雷、土。そして光と闇。これが基本属性らしい。


「イメージして。分かりやすいのからで良いよ。バリアを張ってるから周りは気にしないで」


 火……お料理したいなぁ。水……お風呂入りたい。風……お散歩したいなぁ。・・・雑念しか入ってこない。集中しよう。


「え?」

「え?」


 明かりを思い浮かべながら魔力を放出したらなんか変なのが出た。


「流石にないだろうと思ってたけど、見本もなしに一発とはね……。しかも複合魔法……」


 どうやら火と光の魔法らしい。ランタンを思い浮かべてたからかなぁ……。なんでランタン思い浮かべたんだろ?


「教えたらすぐ出来そうだね。見本見せるから真似してみて?」


 夕ちゃんは各属性の球体を作り出した。


「難しい……」


 形、大きさがまちまちの球体が出来上がった。


「やっぱり才能あるわ……。 初めてでそれが出来るのは上出来よ! 5属性同時に出せてる時点で凄いわ!」


 その後、約3時間練習して、7属性同時出し、3属性までなら大きさを揃えられるようになった。


「夜奈ちゃんと練習してると自尊心が削られるわね……。心強い仲間が増えると考えると良いこと何だけど……。おそらく前世だと私を超えてるわね。才能ってレベル超えてるもの。さて、今日はこれぐらいにしておきましょうか。休息も大事よ? 夜奈ちゃんは気絶してたのもあって眠れないでしょうけど、夜更かしもほどほどにね。はいこれ夜ご飯」


 夕ちゃんはどこからともなく缶詰を出した。夕ちゃんの魔法は便利だねぇ。……何の属性だろう? 基本って言ってたから別の属性もあるんだろうなぁ。


 食べてすぐ寝る。私は短い睡眠でずっと起きていられるけど、長い睡眠もできないわけではない。寝る前に意識すればちゃんと寝られる……。
















「キャーーー!!!」


 誰かの悲鳴で目が覚める。


 時刻は午前3時。トイレか? と思ったけどまた悲鳴が上がる。方向的に、トイレでは無さそうだ。


「先生!」

「ああ! ……あ? バリアの容量はどこも欠けてないぞ? すり抜けか!? バリアはどうなってんだ!」


 電気を付ける。すると緑色の化け物が徘徊しているのが見えた。

 どういうわけか生理的嫌悪を覚える。


「「ゴブリン……」」


 夕ちゃんと紅羽ちゃんがハモる。


「ゴブリンはゲームで出てくる雑魚モンスターの一角だよ。でも女性を狙う変態なんだ。夜奈ちゃんは私が守る!」


 いやそれ私の台詞だから! 紅羽ちゃんは憤慨してるけど、現時点では私の方がステータスは上だ。でも怒った時の紅羽ちゃんって負けなしだったような……。

 絶対的不利だと思ってた男子との戦いにも勝ってたし。……金的でだけど。その男子、ガキ大将的な立場だったんだけど、それでお漏らしして学校に来なくなっちゃったんだよね……。ちょっと可哀想だと思った。


 そう思うと守られても別におかしくはない……のか?


「電気に反応しない……ってことはバリアは正常に働いてる……ってことかな。ゴブリンは馬鹿だけど、明かりに反応しないほどじゃないだろうし。ってことは知らない機能があるって事か……。先生! 教室の機能レベルアップ出来ない?」

「レベルアップつったってポイントがなきゃ……。? 生存ボーナス? ポイント増えてんな。日付更新か? レベルアップ……はここだけ出来るな。3まで一気にやってみるか」


 教室に変化が現れた。トイレの出現と窪みの出現。


 トイレは扉を開けると隣のクラスに繋がっている訳ではなく、別空間になっていた。


「レベル2特典がトイレで、レベル3特典が魔力吸収装置ねぇ。他には……はぁ!? バリアは登録者以外には効果なし!? いやどういう事だ……?」

「・・・恐らくクラスにいた時点で登録者が決まってるんだと思う。私はそういう経験はないんだけど、ダンジョン系の転生者が似たような経験があるって。ってことはみんなが危ない! 先生と渚沙ちゃんは3階を、夜奈ちゃんはクラスのみんなを頼むわ! 私は1階を見てくる!」


 そう言って夕ちゃんは駆け出していく。


「そういうことらしい。おそらく魔力注いでるだけで良いからバリア切らさないように頑張ってくれ。あとはその吸収装置、魔力があれば良いらしいから、流せなくても触れてれば勝手に吸収してくれるそうだ。詳しい説明は後でする!」


 先生も行ってしまった。






 しばらく様子を見ていると、外にいるゴブリンと目が合った気がする。

 ニヤリと不気味に笑った……?


「気付いたかもしれない」


 私がそう言うと、ゴブリンがこちらに近付き、扉を殴った。


「ギー!」


 何度も何度も殴ってくる。バリアはダメージを負うたびに耐久が減り、また魔力で回復する。まだ回復が上回っているが、それも時間の問題だろう。

 これ、バリアの性能が良かったんじゃなくて、先生がいたからなんじゃ……? そんな事を考えるも試す暇はない。命は大事にしないと。


「ギー!」

「ギギー!」


 増えた!? 2匹、3匹と増えていく。まるで黒光りするアレのように増えていくその様は本当に気持ち悪かった。


 5匹を超えたところで耐久が減っていく。


「何か出来ることは……」


 魔力を練り上げ、火を向かい側に放とうとする。


「あっ」


 向こう側へ出すイメージをしても、手から放出されるだけ。燃えないように慌てて水で相殺する。


「なら……」


 扉に触れ、雷を流す。すると拳で殴っていたゴブリンたちは気絶していった。


「何か倒せそうなものはある!? なかったら魔力注ぐのをお願い!」


 レベルが上がってないから恐らく倒せていない。近付いてみても解体が表示されないから、気絶で合ってそうだ。


「1体捕まえて倒してみない? ステータスを上げるにはその方がいいと思うし……」


 そう言ったのはあおいちゃん。哀羅ちゃんと仲が良くて、それに加えて蜜柑みかんちゃんとよく3人で居ることが多かった。

 ちなみに渚沙ちゃんはゲームが苦手で、姫プされるのが性に合わないからあんまり絡んで無かったらしい。


「夜奈ちゃん、土で囲って拘束出来る?」


 失敗したらいけないから、中で実験する。


「うーん、ダメみたい」


 身体の半分にも満たない盛り土。そこから穴を開けるのは難しかった。


「じゃあ1体だけ残して倒してくれる? やってみたいことがあるの」

「分かった」


 扉を開けて、少し離れた位置から火球を飛ばす。当たった……はずだけど、倒れてはおらず、逆に当たった時の悲鳴で他のゴブリンが起きてしまった。


「どうしよう……」


 魔法で倒せないなら終わりだ。当て続ければいつかは倒せるかもしれないけど、その前に私の魔力が底をつく。


「守護霊さん、もしものときはお願いします。みんなを守って」


 守護霊さんに頼り切るのも良いけど、それだと何も成長しない。生き残るためには私たちも強くならないと……!

 それに、先生がいつまでも付いていられるとは限らないしね。今いる生徒だけでもかなりの数がいるのに、全員を守れるわけがない。生存率を高める為にも私たちで出来ることはやりたい。


 魔法は扉越しでは出来ないから、開けっ放しで打つ。幸い、動きが鈍いおかげで当てやすかった。ただ、やはり倒れない。


 魔力を練り上げ、時間をかけて大きな火球を作り上げる。夕ちゃん曰く、練度が高く、大きいものほど威力が上がるという。

 ただ、精度が必要なのと、隙が出来やすいから、実践ではあまり使われないのだとか。ゴブリンは鈍いからいけそうだ。


「火球」


 言葉に出した方が威力が上がるんだとか。無詠唱は私が凄いかこのシステムによるものなのか分からないらしい。後者だと詠唱がなくて、もしかしたら言葉に出しても威力が変わらないらしい。

 けど、一抹の望みをかけて言葉を乗せる。


「やった!」


 当たると同時にレベルアップ。そして起こる眩暈。

 今のは魔力切れ前のサイン……?


 魔力が切れるタイミングが分かる瞬間があるって言ってたけど、これのことっぽい。

 私が倒れたのはじわじわと減るタイプだったから、変化が分かりにくかったんだって。


「ちょっと休むね」


 そう言って扉を閉めようとした途端、1体のゴブリンが入ってこようとした。

 すると、何かに弾かれたようにして少し吹っ飛ぶ。


「もしかして敵は入って来れない……?」


 耐久の減り方は大きかったものの、入れないことが確認出来た。これなら安全に処理出来そうだ。


「ゲームみたいに上手くはいかないか……。夜奈ちゃん、試してみてほしいことがあるの。回復したら教えてくれない?」


 私はゲームはほとんどやったことがないから、葵ちゃんの方が向いてるかもしれない。


「……夜奈ちゃん、こっち来て」

「何? 紅羽ちゃん」


 紅羽ちゃんは私を抱き寄せ、長めのキスをした。


「ちょっと何!? ……え?」


 困惑したけど、何故か気分が良い。


「夜奈ちゃん、私決めたの。何があっても夜奈ちゃんを守るって。その為には制約なんて知らない。私は私の為に生きる」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

青木 紅羽

種族:人間 レベル1

   堕天使 レベル1(New!)


〈基礎値〉

筋力:11(↓1000)

耐久:11(↓1000)

敏捷:11(↓1000)

器用:11(↓1000)

運 :11(↓1000)


魔力量:1082(↓8919)

魔力質:SSS+(SS+→SSS+)


〈職業〉

『学生』レベル2(↑1)


〈スキル〉

『魔力譲渡』(New!)

『神力変換』


〈恩恵〉

『大天使ミカエルの祝福』

※大天使時代の能力を他人を介して使うことが出来るようになる。ただし、当人の限界を超えた能力を使うことは出来ない。

『世界神の制約』

※世界神と接点があり、かつ世界神に背いた行為をした者に与えられる罰。権能や身体能力に制限がかかる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……え?」

「ごめんねずっと黙ってて。私は地上に派遣された天使の一人。主に下界での塔に関する情報を集めながら、人に扮して生活するという事を約500年行うことになってるわ。本来なら私は降りないんだけど、少し前から塔には疑問を抱いていたの。そして分かった。上層部に届く情報と実態が違うことを。確固たる情報を集めてから天界に帰ろうと思ったんだけど、裏目に出たみたい。異変が起こってからすぐに帰ろうとしたけどかき消されたわ。さあ、私のことは後でいいから先にゴブリンたちを倒しちゃって」


 そう……だね。色々と聞きたいことは出来たけど、今は相手に集中しよう。安全になってからじゃないと油断出来ない。


「紅羽ちゃんのおかげで回復したみたい」

「じゃ、じゃあ水をゴブリンの顔を覆うようにして出してみて? 溺死狙えるかも」


 葵ちゃんは顔を赤くしながら言う。


「分かったやってみる」


 ゴブリンの顔に狙いをつけて大きな水を放つ。

 維持するのは難なく成功したものの、移動した時に動かすのが難しかった。


「夜奈ちゃん、私が魔力注いでおくから気にしないで使って? あと、こっちに集中してるみたいだから、壁で囲ったら範囲も制限されてやりやすいと思うよ?」

「ん」


 土で壁を練り上げる。さっきは難しいことをやろうとして失敗したけど、壁を作るだけならいける。しかも、魔力が紅羽ちゃんのおかげで切れる心配はほとんどないときた。

 念のため壁に雷属性を加え、電気柵のように仕上げる。


 そして水を壁の中に加える。動かれて狙いが付けられないなら、全て覆ってしまえばいい。


「ギギー!」

「ギー!」


 ゴブリンたちが大袈裟に叫ぶ。そして足元にも水が満たないところでレベルがまた上がった。


「あっ……感電……」


 そういえば水と電気は相性が……。


 風と火で水気を飛ばして、壁は壊す。若干、土は残ったけど、まあ別に支障はないだろう。


「…………ふぅ」


 終わってからどっと疲れが出た。魔力切れがないとはいえ、緊張の糸が途切れたようで、座り込んで立てなくなってしまう。


「私が魔力流すからバリア回復に使っちゃって。人に触れないと使えないから若干効率は悪いけど……」


 力を解放した紅羽ちゃんはみんなの為に動く。


 転生者が居て、元天使がいるクラス……。中々無いのでは?


 レベルは上がったけど、外の様子は見れない。中で比較的安全な状態で戦ったから勝てたのであって、様子を見に行ったら確実にやられるだろう。

 とはいえ戦利品は確認しておきたい。扉の近くにいるのだけ落ち着いたら確認しよう。






「何とかなったね……。ごめんね、残せなくて」

「ううん。生き残れただけ大事。改めて現実だということを思い知らされただけ。ゴブリンよりも戦いやすいモンスターがいるように期待しましょ。検証はもっと安全に、ステータスが高くなってからやるべきと感じたわ」

「うんうん。ゲームみたいな現実になってちょっと嬉しかったけど、やっぱり死を目の当たりにしちゃうと何だか怖いね」


 葵ちゃん、蜜柑ちゃんと話す。二人はVRゲームの経験があって、他よりかは慣れてるみたいだけど、やっぱり普通の女の子。薙沙ちゃんみたいに特定の分野で強いとかもなくて、慣れてるとはいえ怖いものは怖いらしい。


 私もVRは経験あるけど、少ししかやらなかったなぁ。VR適性は物凄く高かったんだけど、時間が……ね。


「みんな! 大丈夫!?」


 夕ちゃんが帰ってきた。


「生体反応が一気に増えたから夜奈ちゃんが無理したと思ってきてみたけど大丈夫だったみたいね……って神ィ!?」


 夕ちゃんは紅羽ちゃんの方を見て驚く。


「……私は天使だけど?」

「そりゃあ勿論天使だよ!! って種族堕天使になってる!? ……そうじゃなくって、紅羽ちゃんから一瞬神の力を感じたんだけどどういうこと!?」


 さっき変換してた力のことかな? そう思ってると予想外の答えが返ってきた。


「……私、世界神の右腕的立ち位置にいたんだけど、実力は私の方が上だったの。だからたまに主神レベルの依頼をこなしてたりしたんだ。だから気付く人は気付くと思う。けど神レベルでそれだから、夕ちゃんは凄いと言える逸材だよ」

「何だか照れるな……。じゃあここは問題無さそうだね。私は1階に戻るから、先生と薙沙ちゃん戻ってきたら伝えといて。多分大丈夫だと思うんだけど、1階は危険だから降りないように。最悪、外へ繋がる通路に出なければ良いから」


 そう言って夕ちゃんは戻っていった。1階で何が起こっているの……?


「戻ったぞ」


 先生たちが戻ってきた。


「どうやらポイントを使えば再登録とカスタマイズが出来るっぽいが、近くじゃないとアホみたいに取られるからな……。どのみちそもそもが高くて無理だ。とりあえずは密集させて守護霊付けてきたが……」

「アタシは巡回に行ってくる。ゴブリン程度なら遅れを取ることはないだろうな」

「あ、1階は行っちゃダメだよ?」

「ん? どうしてだ?」

「夕ちゃんが居るから。来ちゃダメって言ってた」

「……あぁ。じゃあ肝に銘じとこう。2階と3階をメインに回ってくる」


 そうして薙沙ちゃんもまた出ていく。


「外のゴブリンは雪路がやったのか?」

「はい」

「じゃあ俺が運ぶから解体やってしまいな。戦闘疲れだろう? 俺もタイマンでゴブリンと戦ってみて分かったわ。予想以上に疲れる。あれでピンピンしてる進藤の異常さが際立つな」


 助かる。実際、ほとんど回復してはいたものの、外に出る気力はなかった。解体してる間に他から来たら堪らない。

 でも、夕ちゃんが来てからも、先生たちが来てからも来なかったってことは来ないのかなとは思ってる。


「あれ? これ他のゴブリンと違う……」



【ゴブリン×7】【ツノゴブリン】



 遠くから見たら見分けが付きにくいけど、頭にツノが生えていた。



【ゴブリンの魔石×8】【朽ちた棍棒】【ボロボロの杖】【葉山はやま 勇人ゆうとの学生証】



「え……?」


 他のクラスの男子の学生証だ。私のと同じだから間違いない。


「おいおいマジかよ……」


 先生も項垂れている。


「ツノゴブリンは生きたまま残した方が良いですか?」

「…………いや、生きるのが優先だ。助けられる方法があるかもしれんが、それで死んだら元も子もない。っ! なんでこんなことをするんかなこの世界は!!」


 先生が考え抜いた先に出た答えは生存優先。助けられる命は助けたいけど、方法が現状ないなら仕方ないか……。


「はぁ……。3階はほとんど全滅だったよ。仲良しで纏めるべきじゃなかったんだ……。二人しか助けられなかった……クソッ!」

「変ですね……。普通ゴブリンって言ったら女性を襲うものでは? 殺しまではしないと思うんですけど」

「普通はな。だがこの状況は普通じゃない。ゲームの知識はあくまでゲーム内のみ。あんまり現実に当てはめて考えない方がいいと思うぞ」


 蜜柑ちゃんの意見はそういう系のゲームをプレイしたことのある者なら、誰で思うことだろう。

 先生の言う通り普通じゃない。セオリー通りじゃないからこそ予測不可能であって、また生存への難しさを物語っている。


「寝なくても大丈夫そうな人はいる? 私がその人を介してバリアに魔力を注ぐから、複数人いたら交代でやって欲しいんだけど」

「「「大丈夫」」」


 紅羽ちゃんの問いにほぼ全員が答える。


「何もやらずに守ってもらって。私たちにも出来ることがあるなら、率先してやりたい」


 ゆいちゃんの言葉にみんなが賛同する。


「夜奈ちゃんと先生は休んでて。雑用は私たちがするから。先生は……もしかしたら起こすかもしれないけどごめんね」


 クラスが一段と団結した気がする。巡回してる夕ちゃんと薙沙ちゃんには悪い気がするけど、寝てしまおう。休めるうちに休んで、寝溜めするのも悪くないかな……。

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神秘の塔と呼ばれた古代建造物は災厄の塔へと変貌する 影 魔弓 @kagemayumi

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