第21話 先輩、家を買おうとする


 ~藤原璃々音~


 私は閃いてしまった。家を買うべきだ、と。

 血がつながってないうえに、微妙に気まずくなっちゃった両親と、毎日顔を合わせるのは、精神衛生上良くないよ。お互いに、絶対そう。


 私はもう別にいいかなと思いかけてたけど、二人の態度がぎこちなさすぎる!

 これはもう、一回距離を置いた方が良いと思った。


 私には、生みの父親の和歌宮議員(絶対支持しないから)からもらった3000万という大金がある。

 お金って持ってるだけじゃ、意味ないもの。どうせなら使った方が良いと思う。日本の経済にも貢献できるし。


 このお金をくれた、和歌宮父(信用しない)だってそう思ってるよ。





「そんなわけで、一緒に不動産屋さんに行こう、善司くん!」

「は? 何言ってんすか先輩……」


 野菜パックジュースのストローを咥えた善司くんは、まーた始まった。みたいな顔をしていた。

 たまに私がナイスアイデアを発表するとすぐその顔する。

 呆れられてるのは知ってる。

 でも、いい案だと思うんだけどな。


「家を買うのよ。善司くんも一緒に住める家」

「え、同棲前提? 重くないっすか……」


「なんでそんなこと言うの? 私じゃダメ? 一緒に住んでくれないの?」


 重いとか言われて、急に落ち込んだ。

 私は善司くんとずっといつでも、24時間、ひっきりなしに一緒に居たいのに。

 君はそうじゃないの?


 そういう思いを込めて、上目遣いでじーっと見てみた。

 あと駄目押し。

 

「あと、お家があったら、そういう事いつでもできるよ? 朝起きてから夜寝るまでいつでも。何なら裸エプロンもしてあげれるよ? ホテル代も要らないよ?」


 善司くんは、「ぐ、が……ぎぎ……」みたいに呻いて、顔を逸らして、それからワナワナと手を震わせながら抱きしめてきた。


「わかった……。部屋、見に行こう」


 やたらと決意がこもった同意だった。


 ◆◆◆


「とりあえずさー、先輩。一戸建て買うのは止めようぜ」


 提案があるって、善司くんが言った。


「確かに3000万あれば中古のそれなりにいい奴買えるかもしれねーけど、その後どうするんだよ」

「その後って?」


「やっぱり何にも考えてなかったのか。このポンコツ」


 最近、善司くんは、私の事をポンコツポンコツと馬鹿にする。

 でも、それを言っている表情は、いつも優しくて、悪い気はしないから気にしてない。

 まぁ自分でも、ちょっと世間知らずだとは思ってるし?


「あのなぁ、家買ったら固定資産税とかいろいろ有るらしいんだよ。それからな? 大体10年単位で色んなところ壊れてくらしいから、そこでも金もかかるだろ? あとそれから、……兄貴のやつ何て言ってたっけ?」


 どうやら善司くん、探偵をしてるお兄さんに色々聞いてくれたらしい。

 やーさしーなー。こういうところほんと、善司くん、って感じだよ。


「だからよ、先輩の手持ちの3000万全部使っちゃ駄目だぜ。水道、光熱費、食費、携帯代、家から出たら自分で払うんだろ? 残しとけよそんなの」


 善司くんの言うことは、全部筋が通っていて私はうんうんと頷くだけだ。

 凄いね、物知りだ。この彼氏くん、年下なのに、頼りになるなぁ……。


「先輩が自立したいってんなら止めねーけどよ。高校をあと1年と半年。それから大学も行くんならプラス4年 余裕を見て、6年くらい暮らせるだけのお金は置いといて、残りで部屋借りたらいいんじゃね?」


 うんうん。すごい。

 善司くん、計算が上手。私の人生設計まで考えてくれてる。

 彼は目はいいみたいだけど、眼鏡かけたらいいのに。色の薄めの短髪に、精悍な顔。絶対、似合うと思うけど。


「その人生設計に君はいるのかな? いつごろ結婚してくれるの?」


 はい、ここで私の攻撃。

 意識外から切り込むわけよ。


「――あ?」


 善司くんは、「ぬ」みたいな顔をしていたけど、明後日の方向を向いて。


「まぁ……、先輩のヒモになりたくねーから……。就職したら、一応考える……」

「えへへ……、言質取ったからね? 絶対だからね? 捨てないでね?」


「捨てねぇって……」


 明後日の方向を見るときはいつも顔が赤いのを知っている。

 かーわーいーいー!

 どうしてくれようかな。この可愛い人。


 早く部屋借りよ。そして、いっぱい一緒に居よう。

 料理も教えてもらわないとね。この間みたいな恥ずかしいのは駄目だし。


「よし、そうと決まれば、部屋探しにれっつごー!」


 私と善司くんは、賃貸屋さん廻りに旅立った。お互い私服で出かけたから、

 新婚さんですか? なんて言われてニマニマしたり。


 お父さんとお母さんは、保証人になることを了承してくれたし、何も問題は無さそう。一人の夜はちょっと泣いてしまうかもしれないけど、その時は善司君に来てもらったらいいし。


 あ、善司君の家の近くにすればいいんだ!



 ◆◆◆


 ~綿見善司~


「ほとんど目の前じゃねーか!!!!」

「近くていいでしょ?」


 何か思いついたのか、2回目の賃貸めぐりには先輩一人で行くって言いだした。

 まぁなんか思うところあんのかなと思ってほって置いたらしばらくして、「契約した」「もう引っ越した」とか言いやがった。


 は? あんなに相談してただろうが。なんで一人で決めやがる!

 とイラついたけど、部屋に案内されたら、俺んちの目の前のマンションだった。

 家賃6万8千円の普通のマンション。ちょっと部屋広めの3LDK。

 部屋多くね? って言ったら善司くんの部屋もいるでしょ? って返された。


 いや、実家、目の前なんだが……。


「これでいつでも来れるね!」

 とかウキウキで言いやがる。


 はぁ……、もう何でもいいよ。

 好きにしろよ……。と諦めた。


 季節はそろそろ夏になる。


「夏休みはどこいこっか!? お姉さんがお金出してあげるよ!」


 うるせえ、貯金でもしとけ!

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悪いこと、教えてほしいの善司くん~ダブった先輩と訳アリチキンな俺の青春ピカレスク~ 千八軒 @senno9

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