【解答編】ディアボルス・エクス・マキナ



これを読んで、わたしが秘密を負った人間だと見抜けないのはたいして利巧でない人間だけですがね……。どのページにも、解決の鍵はあるのですから……

アントン・チェーホフ『狩場の悲劇』



十五 死人を起こす


 閑華が殺されるに至った「緑鴉荘事件」の始めから終わりまでを語り終えた頃には、その場に集まったメンバーの表情はまるで当時に戻ったようにひどく憔悴していた。

「今の内容に誤りはあるか?」

 俺は語りかける。

もし彼らに真実を知る勇気がなくとも、俺はこの物語を彼らの記憶の中で閉じるつもりだった。

「初めて聞く内容もあった。泰崇と美南が、そういう関係だったこととか。圭一が風鈴を隠し持っていた件だとか……だが、本筋は間違っていないと思う」

 頭の回転の速い早人が保証するのだから、きっと俺のかたりはそう間違っていないのだろう。

「おれ、先輩のこと信じてたんです。泰崇先輩、あのとき言いましたよね、『任せてくれ』って。閑華先輩の敵を討つって。なのに、先輩はあのあとなにも語らなかった。警察が来ても『推理』みたいなことはひとつも。なのにいまさら、なんで事件のことを掘り返すんですか?」

 圭一が捲し立てる。彼の言うことはもっともだが、俺には俺の考えがあった。

「それは・・・・・・」

 数時間前に行われた葬儀の様子を、俺は思い返す。棺に眠る美しき少女。彼女によく似た目を固く瞑る父親、そしてその隣で、利発そうな少年が学ラン姿で座っている。

 閑華の父親は、緑鴉荘で自殺を遂げた。だからこそ、誰よりも二人は共鳴したのだ。

「それは、が、今日行われたからだ」

 彼女は、美南は数日前にした。その理由については、俺は確実なところを知らない。だが、俺たちは少なくとも緑鴉荘での事件と無関係な死であるとは考えていない。だからこそ、早人も圭一も里央も、この場に素直に集まったのだ。彼らは、美南の自殺を他人事とは思っていない。

「先輩、それはその、美南先輩が・・・・・・」

 里央は身体を震わせて必死に言葉を紡いでいた。彼女は、意外にも一番勘が良いのかもしれない。

「順を追って話す。まず、俺の階段転落事件だが、この犯人はおそらく美南だ」

「待て、それはあり得ないという話になったはずだ。美南だけは下階から駆けつけたんだろ?」

 早人の反論は教科書どおりだった。まさに台本を読む役者のようで、妙に現実感が薄れていく。

「逆に美南だけが下階にいたともいえる。お前たちは、全員同じようなタイミングで現場に来たが、美南は少し遅れて下階からやってきた。もし彼女が二階から一階に移動することができたなら、逆に一番怪しいのは美南だ」

「そうかもしれないが・・・・・・」

「もちろんこれは本筋とは関係ない推理だ。だが可能性だけは話しておこう。緑鴉荘の美術倉庫には、ホールの屋根を清掃するための梯子があった。それに俺が見た赤い服の女は、同じく倉庫の衣装で変装可能だ。それはまさに圭一と早人が昼食時に話していたことだな。もしそこから着想を得たのなら、十分にあり得る。彼女は変装して俺を突き落として、そのまま廊下からホールの屋根に降り、梯子で下階に降りたんだ」

 彼女が風鈴を持っていなかったのは、この時点で圭一が風鈴を所持していたからかもしれないし、紐を切り落としてまで演出に組み込むリスクを冒すべきじゃないと判断したからかもしれない。

「さて、次に閑華を殺した犯人についてだが、これはアリバイを検証することで説明できる。閑華の死亡推定時刻は、広く見積もって雪が降り始めた二十一時から五時だ。閑華の死体は、体の下にも上にも雪が積もっていた。したがって、降雪中に彼女の死体はあの場所に遺棄されたといえる。彼女の死体が他の場所から運ばれた可能性については現実的ではないだろう。雪の中で現場に向かい、足跡を掘り返しながら緑鴉荘に戻るだけで五十分ほどはかかる。ましてや閑華の死体を背負って移動などリスクがありすぎる。彼女は少なくとも自分の意志であの場所へ向かったのだろう」

 厳密には、足跡の掘り返しと往復を別のタイミングで行うことでアリバイを偽装できる可能性は残るが、降雪量の変動を正確に予想できない以上、死体の上と掘り返した道の雪の積雪量で逆にアリバイを破壊されるリスクがある。そこまでして「あの現場」に固執する理由はないと断言していいだろう。

「ここまでの話で、閑華は雪の中を後庭に向かい、そこで何者かに殺され遺棄されたということがわかった。それにかかる時間を最低一時間弱と見積もると、犯人は降雪中に一時間以上ひとりになることができた人物ということになる」

 各々のアリバイについての裏取・厳密性については、俺には保証できる「根拠」が存在するが、いまここでそれを話すことはできない。だが少なくとも、彼らの証言が間違っていないならば、タイムテーブルを整理することで容疑者は絞ることが可能だ。

「アリバイの精査の前に、段階を省略したい。いま口頭で全員のアリバイを口にしても、誰もそれを理解できないだろう。そこで、彼女の死体の上に雪が積もっていたことを考慮に入れたい。彼女の死体は、発見時完全に雪で覆われていたわけではなく、そこに誰かが倒れていることが判る程度には姿が見えていた。一方で、地表の雪は膝ほどの高さまで積もっていて、腰を落とした俺の下半身が雪に塗れるほどだったことも事実だ。あの日の降雪は夜通し続いたが、〇時半から二時半まで続いた吹雪は地吹雪であり、その頃には降雪量は少なくなっていたことが判っている。つまり、もし〇時頃までの降雪量が多い時間帯に閑華が殺害されたのであれば、膝まで積もるほどの降雪によってその姿を完全に覆われていた可能性が高い」

「じゃあ、閑華先輩が殺されたのは日付が変わってからですか?」

「そういうことだ。さらに、もっと範囲を狭めることができる。彼女が外に出た理由についてだ。果たしてどんな理由があれば吹雪の中をあんな後庭の半ばほどまで進む必要がある? 本来なら、吹雪いていなくとも考えにくい時間帯と天候だ。それに、近くに埋もれていた傘が閉じられていたことからも、彼女が吹雪の中で殺されたわけではないといえる。降雪の中、傘が閉じられているということは、犯人が意図的に傘を閉じたことになる。それは雪でなにもかもが埋まってしまうことを期待して、表面積を減らすためかもしれない。いずれにせよ、もし彼女が吹雪の中で扼殺されたなら、傘は強風で飛ばされてしまっただろう。。よって、犯行時刻は二時半から五時までだ」

 俺は脳内のタイムテーブルの前半を掻き消す。歯車の噛み合う音が幻聴として身体中に響いている。もうすぐ、この物語は終焉する。

「まず、閑華が外に出た時間を特定する。そもそも彼女がなぜその時間に外に出たかについては謎が残るが、彼女が誰かを呼び出すための手紙を自分のメモ帳に書いて切り取ったことは間違いない。常識的にあり得ない行為でも、物理的には彼女は降雪中の深夜にわざわざ外に出たことになる。そしてそれは二時半から三時の間だ。根拠はいくつかある。まずは圭一が隠し持っていた風鈴を三時に玄関ドアへ結び直したことだ。これにより、ドアチャイムの機能は復活し、もし玄関を出入りに使用すれば食堂にいた圭一や早人が風鈴の音に気がついたはず。次に裏口だ。玄関でないならば、裏口が用いられたことになるが、こちらも三時以降は不可能となる。言うまでもないが、食堂から丸見えだからだ。したがって、圭一が下階に降りた三時以降に閑華が外に出た可能性はない」

 俺は推理を中断し、早人たちの様子を伺う。ここで反論が来なければおかしい。彼らの理解が追いつくまで、じっくりと待たなければ、小さな疑念はいつか必ず再燃する。

 口を開いたのは里央だった。

「・・・・・・おかしいよ、だってそれじゃ、誰も閑華先輩を殺せないことになる。閑華先輩が二時半から三時の間にしか外に出れないんじゃ、犯人も同じで……」

「閑華と同様、二時半から三時の間に外に出れば殺すことはできるが……」

 早人が歯切れ悪くフォローする。しかし、それは本人も解っているとおり、的を射ていない。

「出入り口が使えなくなるまで三十分しかない。閑華と同タイミングで外に出ても、戻ってこれないんだ。だから、犯人は必ず出入り口以外から外に出るしかない」

「・・・・・・それって、まさか?」

 動揺しながらも圭一が口を挟む。そう、それしか方法はない。

「さっきの俺が階段から突き落とされた説を思い出してほしい。あの方法ならば、出入りが可能だ。吹雪が止んだあとなら尚更ね。そう、犯人は玄関も裏口も使えず、仕方なくホールの屋根から裏口側の軒下に降り、アーケードに入ったんだ。使ね」

 その痕跡は残っていた可能性がある。軒下には雪が積もっていたはずだから、そこには犯人の出入りの痕跡があったはずだ。しかし、それは朝方の屋根からの雪の落下で消え去り、屋根に残っていたかもしれない痕跡も、雪解けとともに消滅した。

「では、それが可能だったのは誰か、まず確実に不可能な人物がいる」

「そうか、あたしだ・・・・・・」

 里央がボソリと言う。彼女は。夜の闇の中、雪の降るホールの屋根で梯子を伝って下階に降りるなんてことは確実に不可能だ。

「次に圭一、君にも犯行は不可能だろう。三時に食堂にいて、それからは俺と一緒に五時までアリバイがある。君が不名誉を恥じずに証言をしてくれたおかげだ」

 そして、全員の視線が早人へと集中する。

「僕か美南のどちらかが・・・・・・犯人か」

「早人、君は四時に自室に戻った。ここで梯子を持ち出せば犯行が可能となる。だが、早人はあの日、重要な証言をしたんだ。廊下から聞こえた物音だよ。あれは俺が廊下で転んだときの音だ。これを君は。時刻は四時四十分。この時点で部屋の中にいた早人には、犯行は不可能だ」

「・・・・・・そうか、じゃあ・・・・・・美南が、犯人なんだな」

 俺は、沈痛な表情で頷く。城ヶ崎美南――彼女がなにを思って自殺を遂げたのか、俺には解らない。あるいは、いまここに像を結んだ事件の「真相」こそが、彼女を死に至らしめたのか。

「シンプルな話だったんだ。早人が四時頃に聞いた女の声が仮に美南のものだったとしても、彼女の犯行可能性は残る。四時は閑華が指定した待ち合わせ時刻、この時刻が最も犯行時刻として妥当だ。その待ち合わせの相手だった美南が犯人であるという推理もまた妥当だろう」

 論理が収斂する。里央の、圭一の、そして早人の心に納得感を持って。物語を終わりにしたいという渇望が叶えられ、彼らの表情はたしかに呪縛から解放されつつあった。

「美南は、閑華を愛していたし憎んでもいた。そして、美南は俺のことを好きだったし、俺は美南のことが好きだった。だけど同時に、俺たちは閑華のことを親友として誰よりも大事に想ってもいた。だから美南は俺に告白するように勧めたんだ。普通の女の子としての友の幸福を願い、それを俺が汲んでくれると信じて。だからその決意が裏切られたと勘違いして、俺を階段から落とした。それから美南の中の閑華への感情が反転した。美南は相反する感情に焼き尽くされ、殺人者に堕ちたんだ」

 俺の最後の言葉はどこか台詞のように響いた。物語の終わりを告げる独白は、舞台に幕を下ろしていく。

 公園は闇に包まれる。気がつけば白いワンピースの少女も絡新婦も、彼岸花とともに消えていた。

俺たちの中の太陽が永遠に失われても、明日また日は昇るだろうか? 夏に降る雪という奇蹟は、だ。絶望の中で俺たちは未来を進む。そこにかつて太陽が在ったことを語る吟遊詩人になって。たとえ、永遠に地獄の季節が訪れ続けても。

 ――――閉幕カーテンフォール


『君は夏の雪と消えた』






あなたが持っていたのですか……あの銃を

麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』



匣の外の光景


 倉木の書いた「緑鴉荘事件」の顛末を記した小説は、いまたしかに新たな観測者の目に触れた。親友を殺した殺人犯の弟。そのあまりにも重く残酷なロールを与えられても、彼は少しも動揺していなかった。

 アイスコーヒーが運ばれてくるのを待って、少年は一言「さて」と呟く。

「まるで探偵だ」

「まあ、探偵かもしれませんね。あるいは犯人ですかね。ホームズとモリアーティが同一人物であるみたいに」

 少年は笑う。倉木は逆に表情を凍らせた。歯車の噛み合う音が止み、次第に錆びついた音がギリギリと響き出す。

「・・・・・・倉木さん、僕のことを唯一の関係者と言ってましたが、閑華さんの弟はどうしたんです? 小説の使くらいだから、状況は僕と大差ないんじゃないですか?」

「彼は失踪したよ。詳しくは知らないが、風の便りでね。君こそ、姉同士が親友だったのだから仲良くなかったのかい?」

「昔はそれなりには。彼はそこまで強い人間じゃなかったので、姉の死に耐えられなかったのかもしれませんね。しかしそれはそれとして、あまり感心はしませんね。この叙述トリックは必然性がない。別に必要はないでしょう」

 倉木は、作品のダメ出しか、と少しがっかりした。もちろん倉木はそんなことは解っていた。意味がないわけではない。

「君を登場させるためだよ」

「僕を? ・・・・・・ああ、なるほど。だからなんだ」

「この小説は君のための作品だからね。君を登場させたかった。だから零章を書き加えた。だが、そこで緑鴉荘で死ななかった美南の葬儀をするわけにはいかない。『チェーホフの銃』に背くからね。だから君自体をトリックで隠匿したんだ」

「葬儀中に『あの事件の現場にいた人物が揃っていた。ただ一人、本堂閑華を除いて。』なんて叙述をするのは大胆ですね。たしかに姉もいましたからね、に」

「不快だったかい?」

「いえ。このような描写は無数にありますね。あなたが『チェーホフの銃』に傾倒した作品を作ることは、姉から聞いていましたから、不思議だったんですよ。だって、解決編で解消してない謎がいくつもあるでしょう?」

 背中を冷たい汗が伝った。この少年は、どこまでこの物語を理解しているのか? あるいはそのすべてを?

「『デウス・エクス・マキナ』という言葉が出てきますね。言ってみれば、突然現れた神による強引な幕引きだ。あなたはこれが嫌で、僕にヒントを出さざるを得なかった。誰も撃つことがない銃は登場すべきじゃない。物語を観測するものには、フェアなヒントが提供されるべきだ。・・・・・・どうです? あなたをプロファイリングしているんですが?」

 喫茶店の床に、ひとつふたつみっつと、歯車が落下していく。音を立てて転がるそれらが、転がった先で磁石のように引き合って噛み合う。倉木の目に映る幻視が現実に侵食する。

「ホームズとモリアーティの同一人物説、あれは面白いですね。自分で作り上げた犯罪を、自分で解く。それに信頼できない語り手の話も興味深い。羅生門効果ですか、初めて知りました。それと、ジョン・サールの『中国語の部屋』も興味深いですね。あれ、後期クイーン問題でしょ? 質問に対して返事をする部屋の中の人物は一見して質問を理解しているように見える。だがその実はんですよね。これ、誰のこと言ってるんですかね? 作中作の犯人のことだけではないですよね?」

 倉木は少年の饒舌に気圧されていた。先ほどまでとは明らかに違う雰囲気。食虫植物の中で、自分の運命に気づいた虫のような、引き返せない嫌な予感がキリキリと脳を締めつける。

「本題に入りますが、

 心臓が早鐘のように鳴る。この少年は一体何者だ? 本当に城ヶ崎美南の弟なのか? それとも・・・・・・自分はいま神か悪魔と対峙しているのか? 倉木は言葉も発せずにいた。

「どうしてそう思う? 俺は論理的に犯人を示しただろ?」

「前提条件に穴があります。あなたの推理の立脚点は、閑華さんの死体が雪上にあり、上から雪が被さっていたという事実から、犯行時刻を降雪中であるとしたところにある」

「それのどこが間違っていると?」

「殺したあとで雪の上に置けばいい」

「不可能だよ、死体を背負って移動する時間はないし、足跡もない」

「どちらも不要な根拠です。閑華さんは降雪前の夕刻に自らあの場所に出向き殺害されたからです。そして深夜、雪の吹く中、再度訪れた犯人によって雪の中から掘り起こされ、雪上に遺棄された」

 倉木はいま自らが犯人として名指しされているという事実を、小説の中のできごとのように俯瞰していた。現実感が遠のく。まるでミステリ小説の解決編を読むように、まるで言葉を発する。

「いくつか反論がある。夕刻に閑華が死んでいたと言うなら、あのメールはどう説明する? 夕飯を欠席するというメールだ。それにそれと同じ頃、里央が閑華の部屋で会話する声を聞いている」

「さすが犯人ですね、すらすらと自らの工作が出てくる。簡単ですよ、閑華さんを後庭で殺害したあなたは、彼女のスマホを抜き取っていたんです。だからメールもできる。それにあなたはスピーカー付きのボイスレコーダーを持っていますから、それを再生すれば会話している声も偽装できる」

「彼女のスマホは部屋で本の下から見つかったし、パスコードでロックされていたはずだ」

「順序が逆です。スマホが本の下にあったのは、捜査中にあなたがそこに置いたからですよ。パスコードもあなたが設定すればそうなる。だが、おそらくあなたはそもそもパスコードを簡単に割り出せたんだ。作中にあなたが自分の誕生日を入力してスマホを開く描写がある。このとき手にしていたのは自分のスマホではなく、閑華さんのスマホだったんでしょう。んです。まさか殺されるとも知らずね」

「……やめろ……彼女を侮辱するな」

「侮辱? はは……面白い人だ。他に反論は?」

 間違いない。倉木は主観が薄れていくなかで確信した。この少年はすべてを観測し終えている。物語の裏側まで、すべて。

「なぜ、彼女が殺されたのが夕刻だといえる? 日中のアリバイは細かく描写されていない。なぜ正確に夕刻と言える?」

「あなたが、姉への手紙を偽装したことも察しがついているからです」

「・・・・・・偽装? あれは閑華が書いた直筆の手紙だ。メモ帳がその証拠だ」

「いいえ。メモ帳の該当ページは簡単に見つけられます。すでに死んでいる彼女の部屋には容易に入ることができる。手紙が偽装だからこそ、

「!?」

「なにを驚いているんですか? だってそうですよね。あなたはちゃんとヒントを書いている。昼食後、廊下で閑華さんから手を握られましたよね。あれは告白のための呼び出しです。あのとき、あなたの手の中にはが入っていた」

「馬鹿な、あれは美南宛の手紙だった。イニシャルも書かれている」

「それは、あなたがそう見えるように偽装したからです。原本があればメモ帳に重ねて、次のページに痕跡を残すことも容易い。手紙の文面はこうでしたね」

 少年は原稿の該当箇所を開き、指差す。


MJへ

二人きりで会えますか?

AM4時に後庭で待ってます

SHより


「手を握られた直後にあなたは『ホームズとモリアーティ・・・・・・か』と呟いている。あのとき、あなたは渡された手紙を見てそう言ったんだ。元の手紙はこうです」

 彼は喫茶店のアンケート記入用のボールペンで、原稿の横に文字を書き込む。


M へ

二人きりで会えますか?

4時に後庭で待ってます

Hより


、そして、。あなたの犯人当て脚本の犯人役はあなた自身だったんじゃないですか? だから閑華さんは昼食での会話を踏まえて、こんな手紙を書いた。姉が二人目の正解者だったのは、先に閑華さんが正答していたからです。そしてその解答を聞かされたあなたは、そこで告白を受けることになる。彼女を殺したのはこのときですね」

 首を絞める感触が、手のひらに戻ってくる。細い首を締め上げる指の感触が、じわじわと逆再生されていく。

「あなたが閑華さんを殺害したのは咄嗟のことでしょう。それはクローズドサークル下での殺人の可能性についてあなた自身が述べているとおり。この時点では、あなたも殺人を隠蔽しきれる方策を持っていない。死体は近くにあった彫刻の影に置き去りにしたんだ。まあ、あなたは自分が悪いとも思っていませんから、スマホを抜き取るなどの工作はしていますが。あなたが本気で、この事件を操るに成り代わろうとしたのは、雪が降ってからです」

 まるで、自分が書いた小説を解説するように、少年は倉木の物語をハックしていた。反論を思いつくよりも先に、少年は続ける。

「階段から落とされたのは偶然ですよね。でも、それはあなたにとって行幸だった。思いついてしまったんですよね? 自分の身を犯行不可能な状況に置く方法を。あなたのアリバイは徹頭徹尾、左足の怪我を理由にしている。だが、もしあなたが、どうでしょう?」

 アイスコーヒーのグラスの中で、氷が砕ける。その音が一瞬の静寂を呼び、その刹那の空白で倉木は反論を組み立てる。

「足は本当に負傷した、怪我は早人や圭一が確認している・・・・・・!!」

 倉木は左足に激痛を覚えた。それは紛れもなく幻覚だったが、痛みという感覚自体がフラッシュバックしている。存在しない傷の痛みが体の内で反射する。

「いや、あなたがです。その証拠に、気絶から覚めてあなたは立ち上がって部屋を歩いている。これもちゃんとヒントが書かれてます。緑鴉荘が何階建てか判断するときに。しかし、閑華さんは二階の六つのしてますね。この説明にあなたは違和感を覚えている。もしこれがどちらも正しい説明なのだとしたら。それはつまり、単純に正面以外の方角に窓が二つあるということ。緑鴉荘の両端に部屋を充てた、あなたと閑華さんの部屋ですよ。両端の部屋なら正面ではなく側面に窓がつけられますからね。あなたは部屋に入るときに右手にベッドがあると描写していますから、ベッドは西側、窓は東側です。ベッドから地面に雪が積もっているのは物理的に見ることができないという描写がありますから、ということです。それを補強するように、あなたは直後に。【読者への挑戦状】には、登場人物はとありますね」

 淀みなく、少年は証明問題を解くようにして、「銃」を解体していく。

「・・・・・・よく観ているな」

 倉木は絞り出すように声を上げる。痛みで、思考が麻痺を始めていた。

「ようやく認めますか? 認めてもやめるつもりはないですが」

「・・・・・・続けるといい、最後まで聞こう」

「では、そのあとの重大な気づきから。姉に上着を出すか尋ねられたあなたは稲妻に打たれたような気づきを得る。これは、その上着を閑華さんに貸していることに気づいたのだと思いましたが、それ自体は別段不自然な話ではありません。まずいのは、そのジャケットのポケットにボイスレコーダーがあることだ。あなたは部屋にひとりになったあと、先に述べた閑華さんのスマホとボイスレコーダーの中身を整理していますね。このとき、あなたが取り出したのは黒いレコーダーであると描写がある。しかし、あなたが最初にレコーダーを使ったホールでの脚本公開のシーンでは、白のレコーダーを使っています。それは。ホールの床は白ですから、黒のレコーダーを落としたならすぐに見つかるはずだ。これを、あなたは。そのジャケットは、のちに閑華さんに貸すことになります。このときもレコーダーは起動したままだ。するとどうなるか?」

「…………」

 倉木は沈黙を返す。もはや、彼に反論をするための材料は残っていなかった。

「そう、。閑華さんが死にゆくその様子すべてがね。それに気づいたあなたは、どうしても閑華さんの死体がある後庭に行く必要があった。それに最も適したタイミングが、あの吹雪の時間帯です。

手紙に書かれた待ち合わせ時刻が午後四時である以上、偽装できる時刻は翌日午前四時だ。イニシャルを偽装できるのも姉が適当だった。待ち合わせには明らかに不自然な時刻だが、あなたはそれを利用するしかない。だからあなたは部屋の交換を知らずに姉の部屋に手紙を差し込んだんだ。これはあなたにとって思わぬ誤算となったが、結果としては姉が手紙に気づく時間を遅らせ、益となった。

そうして、レコーダーの回収と同時に殺害時刻の偽装を吹雪の時間帯に行ったんです。姉に罪を着せるなら待ち合わせ時刻の直前に死体を偽装するのが最も有効であるし、かといって吹雪が止むのを待っては、姉が現場に来てしまう恐れがありますからね」

少年は、そこまで語ると一息つくように間を置く。

「これで、挑戦状の要件は十分に満たしたでしょう。現状では、あなたが殺したか姉が殺したか物的証拠はないかもしれない。しかし、より多くの銃弾が撃たれたのは、明らかにのほうです」

 倉木は全身が震えるのを知覚した。彼はたしかに自らのプライドと信念に基づいて、不利になるリスクを負ってでも、結果には理由を用意したつもりだった。しかし、ここまでを分解されるとは、想定していなかったのだ。

「見事だよ……まさか最後の観測者にここまでやりこめられるとは。死んだ姉のためによくここまでやった」

「…………」

 少年は興味深げに倉木を見つめる。もはや、負けを認めるしかない。倉木は妙に落ち着きを取り戻していた。まるで嵐の前の静けさのように。

「君の言うとおり、閑華の死体は夕刻から彫刻の陰に放置されていた。そのままにしておけば、死体の下に雪が積もっていないことや、足跡がないことに勘付かれるリスクがあった。もちろん、すべてを雪が覆い隠す可能性も十分あったが、他にもリスクは山のようにある。傘がないこと、長靴を履いていないこと、本当の死亡推定時刻に俺のアリバイがないこと、そしてボイスレコーダーの音源」

 ようやく自白を始めた倉木を見て、少年は口角を上げる。

「芋蔓式に危険に気がついたあなたは、そのすべてを解消すべく吹雪の中、死体のある場所へと向かった。そして彫刻の位置を目印に死体を掘り起こしたあなたは、閑華さんを掘り返した雪の上へと移動し、元あった場所に雪を被せ隠蔽した。その痕跡の不自然さを隠蔽するために、あの掘り起こした雪の道を作ったんだ。あれは死体がもともとあった場所を隠蔽しつつ、彼女の足跡がないことも隠蔽するものだった。んですね」

「俺の足の負傷が、犯罪の不可能性を補償する期間に閑華が死んだことにする。これが最低限のラインだった。そしてうまくすれば、別の犯人を創りあげることも可能かもしれない」

「その点で、あなたの傘のロジックは見事でした。傘が飛ばされていないことが、殺人の時刻を吹雪の時間帯からずらす。しかし実際は逆だった。閑華さんはすでに死んでいたのだから、開かれた傘が飛ばされることはない。むしろ。偽装工作としては一級の判断だったといえるでしょうね」

 まるで共犯者を相手にした犯罪計画の会議であるかのように、会話を連ねる。少年はさらに続けて言う。

「無事に諸々の偽装工作を終えたあなたは、慎重に部屋に戻る。そして、階段の折れた手摺を自室に持ち帰り、それで。このトリックの要は、怪我が自演だと気づかれないことにある。。手摺はベッドの下にでも隠したのでしょう」

「そのとおり。あとは早人を呼び出して自分のアリバイをより強固にするだけだ。美南をうまく犯人に誘導できるかは賭けだったが、うまくいかなくても臨機応変シナリオを変えるつもりで動いていた。最悪、俺だけが確実に容疑から外れればいい」

「そのために、あなたは黒のボイスレコーダーと閑華さんのスマホの中身を空にしたんですね?」

「……君は、どこまで見透かしているんだ?」

「意味のない描写は最小限であるべき、とあなたが考えるのであれば、がされるのは気持ちが悪いですからね。あれはあなたが恣意的に自身の犯罪を隠蔽し、僕の姉が犯人として指摘されるための論理や演出をするためのものですね。あなたは限界まで空き容量を作った黒いボイスレコーダーと閑華さんのスマホ、もしかしたらビデオカメラもかもしれませんが、そういったものを観葉植物の鉢に隠して、廊下の様子をすべて記録していたわけです。だから、挑戦状に『証言における時刻は無謬である』なんて都合のいいことが書けた」

 倉木はあの日、本堂閑華を殺害したあの瞬間から昂り続けていた思考の歯車が徐々に動きを止めていくのを感じていた。犯人とは、探偵の推理によって救済されるのかもしれない。

「あなたの犯罪は、さしずめです」

「オムファロスブレット?」

「アダムとイブにへそがあったら、彼らは神ではなく人間から生まれたことになる。この問題を解消するために考え出されたのが『アダムやイブは人から生まれたかのような痕跡と同時に神に創造された』という仮説です。これをという。あなたがこの犯罪で行ったのは、結果という銃痕を見て無数にある銃弾の込められていないライフルに恣意的にオムファロスブレットを装填することだ」

 因果律をも組み込んだ創造、オムファロス仮説によって生まれたチェーホフの銃、それがこの物語の本質か。そして、この少年はそれをことごとく分解していった。

「君にこれを渡す」

 倉木は鞄からひとつのポータブルSSDを取り出す。それを少年へと手渡した。震える手が、その重要性を物語っていた。

「これは?」

「俺が記録したすべての映像と音源だ。もし君が美南の復讐を遂げたいのであれば、その原稿と一緒に警察に持ち込むといい。それで俺はお縄だ。それとも、俺を殺すか?」

 少年は手のひらの記憶装置をじっと眺める。そして興味なさげにそれをコップに注がれた水の中に放り込んだ。

「……!! おい、なにをしたか解っているのか? さすがにこれにはバックアップなんてないぞ?」

「倉木さん、僕の趣味は、なんですよ」

 少年は微笑しながらそう言った。ゾクリとするようなその美しい笑顔は、コレクションを披露する無邪気な子供のそれだった。

「勘違いしているようですが、姉に罪を着せたことに恨みはないんです。僕は、あなたがなぜ閑華さんを殺したかが知りたかった。動機……なによりもそれが肝要です」

「なぜ……それは、俺が美南のことを愛していたから……」

「どうやら、すっかり反論を諦めたあなたも動機は言いたくなかったようですね。でも、そもそも最も明らかな謎について、まだ話題に出ていないでしょう?」

「もういい、やめてくれ」

「やめるつもりはないと言ったはずです」

 少年は、悪魔のように微笑し続けている。

「まず、現実の事件について、僕もあなたも知っている事実がある。それに対してなぜかあなたは強引に事実を捻じ曲げて小説を執筆した。挑戦状にある『作者により一部手を加えた部分』です。それは、、ということです」

 再び、錆びきった歯車が強烈な摩擦熱を放ちながら回転を始める。

「作中で舞台が夏であると言及しているのは、ただひとり信頼できない語り手である倉木泰嵩による地の文だけです。唯一の例外はタイトルである『君は夏の雪と消えた』とそのあらすじのみ。他のみなさんは誰も現在が夏であるとは発言していない。さらに、ほぼすべての『夏という言葉』には鉤括弧がつき、それが妄想や夢、仮定のときにだけ外れている。この意味を解き明かすには、あなたが閑華さんを殺害した動機の解明が必要だ」

 少年がそう述べた瞬間、喫茶店の照明が落ちた。まるで舞台が暗転するように。倉木にはその様がスローモーションに見える。ガタガタと、体が震えていた。

「闇が恐ろしいですか、倉木さん」

「やめてくれ」

「あなたが閑華さんを殺したのは、告白されたからですよね」

「……世界の中心に在ることは、神性の象徴だ。宇宙の中心には太陽があり、すべての源は太陽の輝きにある。閑華は……太陽だった。俺の神だった。なのに、なんで告白なんて」

「あなたへの告白は、あなたの崇拝を裏切る極めて俗な行いだった。あなたは失望のあまり彼女の首を絞めたんだ。神性の剥がれた閑華さんはあなたにとって醜い悪魔だった」

「雪が降ったとき、思ったんだ。まるで太陽を失った天が、すっかり冷え切ってしまったようだ、と。だから俺は太陽の代わりになることにした。たとえ偽神デミウルゴスであっても、すべての事象を操る全知の神に。そして俺は一度それを成したんだ。美南が自殺した。俺はこの死には関与していない。彼女はきっと気づいたんだ、自分が最も犯人に近い状況にあると。警察に俺が証言しないことで自分は捕まらずにいると。そして美南がそれに耐えかねて死ぬ。それを契機に俺は仲間たちに俺の物語を観測させた。それで完璧だったんだ」

 闇の中は懺悔室のようだった。倉木にとって目の前にいる存在が何者かはもうどうでもよかった。少年の言葉と倉木の独白とが、曖昧に暗黒に溶ける。

「追悼会の事故で、あなたが物語を観測させた仲間たちは全員死んでしまった。観測者を失った物語の神は、もはや神ではない。そして、次の観測者候補の閑華さんの弟も失踪している。それであなたは最後のひとりである僕に物語を観測させることにした。その際に、閑華さんの神性を取り戻す方法を思いついた。『。オムファロス仮説のように、因果律をも内在させた創造をすることで、。プレイヤーである読者=観測者が犯人当てミステリに真剣に挑めば挑むほどに、前提となる『夏の雪』は。あなたは弾丸の装填されたライフルを創ることで、それが撃たれたことを事実にした」

「そうだ、俺は偽神だった。歯車が鳴り止まないんだ。神になることはすべての歯車を中心で回し続けることだった。その音が……ずっとやまない。だから閑華を、太陽を創らないと……」

 一時的な停電だったのか、店内の照明が点く。すべてが夢だったかのように、そこにはふたりの若者が座っていた。

 ひとりは笑いを堪えながら片手で顔を覆い、ひとりは口を開けて呆けている。

「そうだ、ぜひ今日のできごとを追記して、この原稿を完成させてください。完全版ができたら、また僕に送ってくれませんか?」

「…………」

「父が急死しまして、近々親戚のところの養子になるんです。苗字と住所が変わりますが、できればこの物語に登場する今の名前宛にサインでも書いてもらえると。僕はすっかりあなたのファンになってしまいましたよ。なにしろ、でしたから」

 少年がメモに住所と名前を書き込むのが、かすかに見える。倉木はすでに発狂寸前だった。「あっ」と少年がなにかを思いついたように声を上げると、倉木は年甲斐もなく悲鳴を上げそうになり、肩をビクリとさせた。

「……最後にひとつ。『チェーホフの銃』を信奉するあなたに、僕という『機械仕掛けの神』から、とびきりの解決をプレゼントしますよ。面白いミステリを読ませてくれたお礼です」

 倉木はその瞬間、それを絶対に聞いてはならないと確信した。本能が、眼前の悪魔に遅すぎた警告を発している。これを聞いたら、おそらく自分は死ぬ。見えないライフルの銃口がこちらへ向けられていた。

「あなたが僕に物語を観測させようとした経緯を思い出してください。あなたが僕を選んだのは閑華さんの弟が失踪し相応しい人間が僕だけになったからです。僕や閑華さんの弟が候補に上がったのは、観測者だった仲間がからですね。あなたの仲間が観測者になったのは、僕の姉があなたが自由に物語を書けたからだ。そして、閑華さんがあなたに殺されたのは、閑華さんがあなたに告白したからです。閑華さんがあなたに告白をしたのは、僕の姉に背中を押されたから」

 聞くな。悪魔の声だ。わずかに残る理性が叫ぶ。

「それが……なんだ」

 心臓の音がスピーカーに繋がれたかのように鳴り響く。首に巨大な錆だらけの歯車が嵌め込まれている。喫茶店のそこら中に真っ赤な雪が積もり、彼岸花が咲き乱れていた。

「実は、あなたの、閑華さんに姉へ恋愛相談をするように勧めたのはなんですよ。――そして、それだけじゃない」

 倉木は消えゆく理性の欠片で、思考する。彼が意識を失う前に思ったことはひどく観念的なことだった。

――――悪魔は「チェーホフの銃」を撃たない。彼らが人を殺すのに「弾丸の装填」は要らないのだ。

 悪魔の後ろに絡新婦が佇む。気づけば、すべての歯車が蜘蛛の糸のように綿密に組み合わさり、倉木を絡め取っている。その中心で、悪魔と絡新婦が同時に口を開いた。

「すべての原因が僕だとしたら、あなたはどうしますか?」

 機械仕掛けのは、笑った。



あとがき


この遺稿は、城ヶ崎秋良氏へ謹呈する

雪と太陽のあわいの季節、緑鴉の影にて


倉木泰嵩





『ディアボルス・エクス・マキナ』





影響を受けた作品・参考文献


『狩場の悲劇』アントン・チェーホフ、松下裕訳、ちくま文庫

『夏と冬の奏鳴曲』麻耶雄嵩、講談社

『デカルトの密室』瀬名秀明、新潮社

『匳の中の失楽』竹本健治、講談社

『首無の如き祟るもの』三津田信三、講談社

『藪の中』芥川龍之介、青空文庫

『歯車』芥川龍之介、青空文庫

"The Raven" Edgar Allan Poe. Full text of the first printing, from the American Review, 1845



謝辞


校正・校閲・イベントゲスト

社会人ミステリ研究会(シャカミス)

最高正答率 95%


テストプレイ協力 

友人A 氏 (正答率40%)

MSTK 氏 (正答率90%)


スペシャルサンクス

竜司 氏





あとがき(本物)


読了ありがとうございます。

かなりの文字数だったので読了していただいた方がいるか判らないですが、とても疲れたと思うので申し訳ないです⋯⋯(笑)

というわけで、目次のあとがきとは別の本当の作者のあとがきです。

この小説は私が所属するシャカミスというミステリ研究会で犯人当てミステリとして寄稿したものです。このミステリは再読すると凄まじい数の伏線が発見できますが、一応この作品単体では意味のわからない箇所があるのでそこだけ触れておきます。「苗字が変わる」というところと最後の「秋良」という下の名前の登場ですね。これに関しては拙作『致死性の謎』の読者へのサービス要素となります。

いやしかし、現状これ以上のものはもう書きようがない、というところまでやったつもりで、私は当時30歳でしたが、30年の総まとめみたいなつもりでこれを書いています。ある意味、子供らしさも含めて遊びを全てやり切った感じですね。

これからの人生で小説を書くならば、それはもっと落ちいついたものになると思います。それは決してこれよりも出来のいいものはもう書けないという意味ではなく、もっと安定したものを目指すという形で。悪く言えば、もっと自分らしい毒や闇を抱えて。死ぬまでに、一作くらいは長編も書いてみたいですね。書いたら読んでくれますか? 多分胸糞悪いやつになると思いますけれど(笑)

では、また別の作品で。

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ディアボルス・エクス・マキナ らきむぼん/間間闇 @x0raki

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