第7話
「……ん……」
「ッ、ここは……」
──図書室?
「戻って……きた?」
机の上にはアリスの本。
私があの空間に引きずり込まれる前に見た時のままの図書室だ。
「そうか……指令を達成したから……。君にケーキを食べさせるという奉仕をしたり、君を食べたから、ということか」
語弊!!
「ゴホンッ。 な、何はともあれ、出られてよかったですね、先生!!」
もう少しだけあそこに二人でいたかった気もするけれど、あのままじゃ私の心臓が保たなかっただろう。
「……あぁ」
先生は机の上のアリスの絵本を手に取ると、それをじっと見ながら何かを考え込んで、そして──。
「……カンザキ」
「はい?」
アイスブルーの真剣な瞳が私をとらえる。
「来年は、4月5日、当日に祝いをする。君が生まれた大切な日。だから、これからは君自身も、その日を大切にしなさい」
「!! ──はい!!」
私にとって4月5日は特になんでもない日で。
自分には誕生日なんて必要ないものだと思っていた日。
それが今日から、とてつもなく大切な日として私の中のカレンダーが色づく。
きっと来年は私も立場が変わっている事だろう。
どうなるかわからない不確かな未来。
それでも先生があまりにも真剣で、吸い込まれそうなその冬色の瞳に、私は約束を託すのだった。
生まれてきた日。
それは誰かが嬉しくて泣いた日。
それは誰かの運命が動き出した日。
誰かにとっての何でもない日が、誰かにとっての、特別な日。
そうして私は、あの日の写真をぎゅっと胸に抱いた。
〜END〜
君が生まれた日── 景華 @kagehana126
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