第2話 誕生

 おっさんがおっさんになれた大きな要因がその女性にあるのは紛れもない。


 しかし、それだけでは今のおっさんを語るのに足りないピースが1つだけある。


 そのピースこそが『福祉』である。


 しかしながら、福祉との出会いはもう少し先であった。


 おっさんと女性は相性がすこぶる良かったらしい。

 付き合って1年も経たない内に、

「できたみたい」

告げられた事実に、おっさんは歓喜に震えた。


 精神を病んだおっさんが人の親になれるのか? 大いに悩んだ。大いに考えた。それでも、数年前に兄、義父、実父を三年連続で亡くしていたおっさんにとって、自分の家族が増えるということは、ただただ嬉しかった。それだけでよいと思った。

 そしてとりあえず就職をした。そして呆気なく失敗もした。それでもめげずに就職をした。それでもやっぱり失った。


 当時の事は、あまり憶えていないがとても不安定な毎日だった。


 それでも子は生まれ、すくすくと育ち、発達に遅れがと言われ、何のこっちゃ? とか思いながら2人目が生まれた。


 その頃は職業訓練を受けながら、どうにかこうにか生きていた。今思わなくても無責任の極みであった。


 いよいよ生活を行政に保護してもらわなければ生きていけないという所まで追い込まれていた。しかし、行政から見ればおっさんにはまだ余裕があったらしい。


 どこに余裕があったのか当時のおっさんには分からなかったが、今のおっさんならきっと当時のおっさんに

らくを選択する余裕があるよね」

と厳しく叱咤激励することだろう。


 皆が汗水流して稼いだ金をそんな簡単に貰える訳が無かったのだ。


 じゃぁどうすんべ? っと、闇中にあったおっさんに光を与えてくれたのが、就労継続支援A型という福祉サービスの存在だった。


 どこへ行っても仕事が長続きしなかったおっさんが、現在では曲がりなりにも社会の一員であると言えるのは、その事業所や、そこにいた人々に出会えたからだ。


 これは、ドン底から這い上がる成り上がりの物語ではなく、ドン底にいたおっさんがやっとこさ自立していく物語である。

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生涯障害 サトノハズキ @satonoha

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