第46話 反則する俺たちが


「ちょっと!あなたたち!早く捕まえなさいっ!!」


後ろから文乃さんの声が響いてくる。

おいおい。来賓の前でそんな姿見せていいのかよ。ちょっと引いてるぞ多分。


しかし、警備の男たちはなかなか立つことができない。

周りに人が多いところで転けているのだから、それも仕方がないだろう。

こちらとしても好都合だし!


俺たちはあっという間に避難用の滑り台があるところに着く。

将也さんの言っていた通り、鍵は簡単に開けることができた。



「よし。早く行こう。

念のため俺が先に降りる。」


「うん。わかった!」


文香がうなづいたのを確認して、俺は勢いをつけて滑り台を滑っていった、



〇〇〇〇〇〇〇〇


「━━━ッッ!!

町田!今すぐに門の警備に連絡して!

他の者は急いで彼らを追うように!」


「は、はいっ!」

町田と呼ばれた男はすぐさま無線機を取り出し、警備をしてる者へ連絡を取ろうとする。


そんな時


「━━━何をそんなに騒いでいるんだい?」


どこからともなく、優しそうで男らしい、低い声が会場に響いた。


「…あ、貴方は!」


「桜ヶ崎の……!」


「久々に顔を見たぞ…。」


その者の登場に、会場はもっとざわつき始める。


「………今更何の用ですか。

。」


「おや、私がここにいることは何も問題ないと思うがね?」


「だから、何の用だと聞いているんです…!」


「はは。これは手厳しい。

もう少し喜んでくれてもいいじゃないか。」


「……。」


「…はぁ。君は本当に冷たいな。


何、若葉たちがどのように進んでいくかをこの目で見たくなってね。


少々手を貸させて頂いたよ。」


「……あなただったのね……?

文香をたぶらかす男をここへ入れたのは…!」


怒りを滲ませた声で将也へと問い詰める文乃だが、対する将也は余裕を崩さない。


「いや。私は手を貸したと言ったが、

直接行った訳ではない。

…彼がここに入って、文香を連れて逃げたのは彼の考えあっての行動だ。


…現にそうだろう?君は文香を逃してしまい、彼は文香を連れ戻してみせた。違うかい?」


「……。」


将也からの言葉を聞き、文乃は目を下に向けて

バツが悪そうに俯いた。

それはまるで図星を突かれたようで……。


「……文乃。君は一度彼としっかりと話したほうがいい。

君は覚えていないかもしれないが、

彼は━━━━」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「━━━━うぉぉぉ!!早ぇぇぇ!!!」


6階から続く螺旋状の滑り台をかなり速い速度で滑っていく俺たち。

その分遠心力もものすごい。


いくら避難用とはいえこれだと年寄りの方とか大丈夫かしら。という思いはよそに、ぐんぐん地面が近づいていく。


「━━━っと!

ついた!文香、大丈夫だったか?」


「う、うん。私も、初めて滑ったけどあんなに速いんだね…。」


文香もその速さに驚いていたのか、胸を押さえて ドキドキした…。と呟いた。


「よし。じゃあ早く行こう。

文乃さんのことだ。すぐに無線機で出口を包囲するだろうから。」


「うん!」


避難用ということもあって、ここは出口の門に近い場所にある。


つまりその門を突破すれば外に出られるということだ。

ん?外に出た後のこと?そんなん後から考える。


だが、やはりというかさすがというか。

俺たちが逃げた情報は、すでに門の警備の耳に届いていたようだ。


2人の男がこちらを向いて岩のように立っている。

もし侵入者がきたらどうするんだとも言いたくなるが、彼らは文乃さんの命令に忠実に従おうとしているのだろう。いい部下じゃないか。


「……さーて。どうするかな。」

俺は周囲を確認する。


正直な話、ここまで来ても俺は強行突破しか

できない。

頭使うのは苦手だし、ここを突破するための

道具も持ってない。

それでも諦めたくはないから。


いつまでも同じところに立っていたらまた増援が来るだけだ。

俺は文香に

「合図をしたら━━━して、すぐに駆け抜けて…」

とだけ耳打ちをして、2人の男の前に立つ。


しかし、1人で十分だ。というように、片方が俺に集中し、もう片方は文香の方へ向かって行った。



「…手荒な真似はしたくなかったが、代理の命令とあらば仕方がない。悪く思うなよ。」


そう言うと、警備の男はその大きな体から想像できないような速度で急接近してくる。


俺はそれをギリギリでかわし、足元の砂を蹴り上げた。

しかし腕で目を庇われ目眩しは失敗に終わった。


そのまま俺を捕えようと、長い手が伸びてきたのを逆にこちらが捕まえて三角絞めを仕掛ける。


(よし!上手く決まったっ!!)


だが、それを動きを止めるにはあまりにも体格が違い過ぎた。

意識を奪おうと精一杯の力で締め上げるものの、いとも簡単に持ち上げられ地面に叩きつけられる。


それはもう容赦が無かった。おとな気ないな

こいつ。


それでも何とか堪え、もう一度締め上げる。

その度に硬い地面に叩きつけられた。


流石に4度目で耐えきれずに離してしまったのだが、すかさず足を取って足関節を仕掛ける。


「くそっ!ちょこちょことめんどくさいことしやがって!」


男は明らかにイライラしており、段々と俺を荒々しく引っ剥がそうとしてくる。


……これで足を痛めさせたら良かったんだけどな。

思ったより俺のサブミッションは効かなかったようだ。


俺は敢えて力を抜き、技を解く。


男はそれを好奇と捉えて俺の腕を後ろにさせて拘束した。


文香の方をチラリと見れば、文香も捕まっている。

もう、万事休すか。


誰もがそう思うだろう。

だが、俺はニヤケが止まらなかった。



「文香!今だ!遠慮せずにやれ!」


「っ!」


すると文香は強引に逃げようとする。

それを男は逃すまいと足を広げて踏ん張った。


次の瞬間、文香は


右脚を思いっきり後ろに蹴り上げた。


その脚は、ものの見事に警備の股間に突き刺さり、男は地面にひれ伏した。


「いやー。警備なんだから、こういう攻撃されるって予測しないとだめだよ。」


そう言う俺の後ろには、片方の男と同じ格好をした者が悶えていた。










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