最終話 森の中での弔い

 1802年、8月10日の昼下がり。

 ペイダス王国の首都、カルガラから数キロ離れた場所にある迷奇森林の中で、フェルンは墓石の前に立っていた。

 黒髪黒目の彼女は、水入りバケツと長方形の布、18本のヒエンソウを持っている。

 墓石は2墓あり、左の墓石にはヴィームの名。右の墓石にはカルターナの名が彫られており、双方の名前の上には、誕生年から没年の年数が彫られてあった。


 フェルンは持っていた物を地面に置くと、墓石の前に座り込んだ。しばらくの間それを眺めた後、彼女は墓石に付着した葉や小枝を払い始める。


「ねぇ2人とも。あの日からちょうど10年が経ったね。早いもんだねぇ時の流れは。私なんて26歳になっちゃって、子供も3人生まれて……楽しくやってるよ」


 フェルンは葉っぱなどを払いのけると、使い古された布をバケツの中に入れる。


「あれから私達は大変だったんだよ。国名がフランス共和国に変わるわぁ、隣国から革命防止とかいう言い分で攻められるわぁ。私なんか、日々の不安から逃れに来る客を捌くのに大忙しだよぉ。最近は、焦燥感を抑えるために日記を書き始めたんだ」


 フェルンは、濡らした布でヴィームの墓を拭き始めた。


「ねぇヴィーム。あなたがあの時、私とカルターナを逃がしてくれなかったら、今のわたしたちはいない。感謝してもしきれない……」


 ヴィームの墓を拭き終わると、今度はカルターナの墓を拭き始める。


「ねぇカルターナ。あなたがいなければ王を倒すことはできなかった……最後、不可解な死を遂げたけれど、私は、あなたが世界を救う一助をしたと思ってる。ううん。きっとそうだと思う。だって、そう感じるんだもん。それとね。あなたと一緒に埋めたブレスレット。あれの内側にさ、あんたの家族写真が入ってたよ。カルターナと、お父さんとお母さんらしき人が写っていたんだよ……」


 カルターナの墓を拭き終えると、フェルンは、持ってきたヒエンソウを9本ずつ墓に供えた。


「覚えてる? このお花。革命軍の証の一つのヒエンソウだよ。9には、信頼っていう意味があるんだって。あの後革命軍は解散してさ……ほとんどの人は国の重鎮に着いたよ。私はならなかったけどね」


 墓にヒエンソウを供えると、フェルンはバケツと布を持って立ち上がった。


「ねぇ2人とも。私、思うんだ。どうしてネゾントが死んだ日が、西暦0年なんだろうって。別に、シャカが死んだ日でも、ムハンマドが死んだ日でも、はたまた、人類が爆誕した日でもよかったはずなのに。一体どうしてなんだろうって。残念だけど、今の私にはそれがわからない。多分、一生理解することはないんだろうなと思う。でも、いずれわかる時がくるんじゃんないかなとも思っている。今はわからなくても、きっと、未来の世代が紐解いてくれるわ。私は……そう信じてる。私の残りの人生、全部未来に賭けるわ。2人とも、見守ってくれると嬉しい……そろそろ私もそっちに行くから……」


 そう言うと、フェルンはカルガラに向かって歩き始めた。彼女の後ろ姿は実に雄大で、それまでの歴史とこれからの歴史、そのすべてを背負っているかのようであった。

 太陽は、彼らを暖かな温もりで包み込んでいった。



 それから4年が経った1805年。フェルン・エクセルスは家族に見守られながら、30歳という若さで亡くなった。

 彼女が残した日記の1ページには、「黄金の血は、使うと代償として体力か精神力が削り取られる。使えば使うほど、または一度に使う量が多ければ多いほど、削り取られる量が増え、使いすぎると寿命が縮む」と、書かれてあった。


 フランス共和国はその後、何回も政治体制が変わったり、隣国と戦争したりと、動乱の時代を駆け抜けていった。

 それでも、信念は変わることなく生き続け、未来へと受け継がれていった。


 強い信念は、腐敗した常識を塗り替え続けたのだ。


 歳月は、すべてを巻き込みながらさらに先へと突き進んでいく。






 革命のヒ 終幕

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革命のヒ 〜腐・ネゾント軍VS革命軍〜 リート @fbs

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