第70話 新たな時代へ

「ガフォ!」


「え……」


 目の前にいるフェルンは絶句していた。当然だ。触りもしていないのに心臓から血が噴き出しているのだから。


 紫色の靄は、手のようなものを回転させ、僕の心臓を抉りに来た。


 グリグリリィィィィィィィ。


「ゴフォォ!!!」


「カルターナァァァァァ!!!」


 隣からフェルンの絶叫が聞こえる。そして、靄は手のようなものを抜き取ろうとしている。


 それを見た僕は、すかさず手擬もどきを左手で掴む。捕らえるのと同時に、こいつには生身の体があることを確認した。

 靄は顔のようなもので驚愕している。


「僕の生命いのちは……はぁ……はぁ……安くねぇぞ? ……はぁ……はぁ……」


 瞬間、右手に持っていた短剣を額目掛けて振り抜いていく。


「キィィィヤァァァビィィィィィ!!!!!!!」


 刃は見事に命中した。靄は、聞いたことのないような奇叫を発した後、霧散していった。


 真の決着が着いたのだ!!


 僕はそのまま前方に倒れていった。泥水と上からの雨が、僕をゆっくりと包み込んでいく。


「カルターナ!! ねぇってばカルターナァァァ!!!」


 すぐそこからフェルンの泣き声が聞こえてくる。何度も……何度も……絶え間なく聞こえてくる。だけど、その声もだんだんと小さくなってきた。

 フェルンは相変わらず口を大きく開けて叫んでいる。でも、その光景も、だんだんと見えなくなってきた。


 やり切った。僕は、胸張ってそう言える。だって、雲の間から光が差し込んできたんだ……も……の………………。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁあぁぁぁぁぁぁぁカルターナァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」


 王政打倒作戦成功

 作戦参加人数1万1名。内、死者9452名。重症者548名。軽傷者1名。街の損壊、測定不可。


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 1792年8月10日。ここに、国王一家捕縛作戦改め、王政打倒作戦が集結した。この出来事は後に、8月10日事件として後世に語り継がれていくことになった。


 王政を打倒した革命軍かれらは英雄として崇められ、国の各所に記念碑や銅像が建てられていった。

 だが、その碑や像のほとんどは革命軍の団長・副団長で、他の者の碑や像は建てられることはなかった。


 生き残ったフェルンは、カルターナの体を抱えてその場を後にした。その後、正式にカルターナの死亡が確認された。

 カルターナは、革命軍本部跡から見つかったヴィームと共に、迷奇森林に埋葬された。フェルンはしばらくの間、店を閉めて森の中に引きこもっていたそう。


 乳母に預けられていた団長と副団長の子供。コラジュ・フォレスティアは、そのまま乳母の養子として迎え入れられ、9年後には義母の関係でアジアの方へと移住していった。


 事件から1年が経ち、フェルンは、生き残った革命軍の内の1人。サリマーヌ・ドルハムスという名のイギリス人と結婚した。彼らの出会いは黄金の鏡で、当時は店主と客の立場だったという。

 結婚してから3年後、エクセルス家は子供を授かった。その子は元気な男の子で、フェルン達はブリアムと名付けた。

 彼ら一家は、仲睦まじく暮らしていった……。



 そして、事件から10年の歳月が流れた……。



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 次回、最終回&あとがき!!!

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