第6話 温泉

「おお・・・ここがテレビでやってたところ・・・」


「おーい、葵。靴入れたら早く来なって。受付するよー」


土曜日の昼、家族連れが多くいる中で私と葵は電車に揺られながらスーパー銭湯まで足を運んでいた。


「銭湯なんか仙台に暮らしていた時以来かも灯はどう?来た時ってある?」


「いいや。私自身は一回もないかも」


互いに館内着など一式が入った手提げ袋を貰い中へと入っていく。一体なぜ家のお風呂場が壊れていないのにもかかわらず、銭湯に行くことになったのか。

それは昨晩の夕食の後に放送されていたスーパー銭湯特集なんぞの番組を視聴していたことがきっかけであった。


「はぁ・・・チャンネルを変えておけばよかった」


「そんなことを言いつつテレビに釘付けだったの私は知っているからな~」


16年間生きてきて、私自身こういった大衆銭湯に行ったことがない。今では少し良くはなってきたが昔はかなりの潔癖症であった。

だからこそ、家族での旅行以外では足を運ぶことはなく今に至る。そんな中で昨晩のテレビに釘付けになったのは彼女の方で、番組が終わるや否や私の顔を見てすぐに予定を入れてきたのだった。

こういった新しい事には何でも目がない彼女、すぐさまスマホで人気の場所を探し出していたのを思い出す。


「ホント、自分が好きなことにだけは行動早いんだから…」


「あー、ここまで来て説教なんて聞きたくないから~!てか、ほら早く行こうよ!」


そういって少し小走り気味に女湯へと歩いて行く。よっぽど楽しみだったのだろう、いつもよりも行動が幼く感じる。

そんな後ろ姿を追いつつ私も暖簾をくぐっていった。




「おぉ~!!すげぇ~~~!!」


「すごい、、、今の銭湯ってこんな感じになっているんだ」


テレビで見てはいたが実際の目で見てみるとやはり自分の認識との違いに驚く。

何種類もある室内風呂、曇ってはいるものの外の露天風呂も同じような数はあるだろう。サウナも備え付けられており、私が思っていた大衆浴場とはかけ離れていた。


「よ~し、今日は全部入ってコンプリートするぜ!ね!灯?」


「いや、スタンプラリーじゃないんだから。高校生らしく大人な行動をとってよね?」


「ハイハイ。それじゃあ私、サウナとか露天から攻めていくね」


「先ずは身体を洗ってからにしなさい」




「はぁぁぁ~~~、体がほぐれていく~~」



こうして入浴開始してから数十分後私、片倉灯はとてつもなく癒されていた。自分の好きな音楽を聴く時間よりも葵に黙って駅近のドーナッツを食べる時よりも癒されていたのだった。

泡風呂に電気風呂、壺湯と入っていき今は露天風呂の少し熱めのお湯に入っている。最初は潔癖気味な自分に合うのだろうかと心配ではあったのだがそれはすぐに杞憂に終わっていた。


「こんなにいいものだったらもっと早くに来ていればよかったな~」


「でしょ~、私毎回思っていたけどさ灯は何事も考えすぎなんだって」


「うぇ!?あ、葵。いつのまに…」


「ちょうど今さっきだよ~、サウナ入って少し休んでいたら見かけて声を掛けた感じ」


気がつかなかった。それよりも今はだいぶリラックスしているというのだろう。普段ならもう少し張りつめていた感覚が緩くなっているおかげで彼女のことも気がつかなかったのである。

自分の心にある彼女の従者としての感情が素直に今の状況を笑えることができない。確かに彼女の言う通り私は神経質なほどに考えすぎなのかもしれない。


「もうちょっと肩の力でも抜いてみたら?せっかくの温泉なんだからさ。昔から温泉ってのは疲れた心や身体をいやす効果があるって」


「私さ、こっちに居候し始めた灯りを見て少しでも疲れが取れれば、なんて思ったのがきっかけなんだよね」


「だからさ、せっかくなんだし楽しんでよ。私、疲労で倒れるなんて悲しくて嫌だからさ」


そうやってにっこりと笑う彼女。昔も見たことのあるその顔はたとえ性別が変わっていたとしても何度も見たことのある表情。


(あなたはいつもそうですよね・・・)


昔から見ていないと思いつつキチンとその人となりは片目でとらえていた。視野が他人よりも狭かったとしてもそれはしっかりととらえていたんだった。


「ありがと…」


「へへへ、照れてるでしょ~」


温泉のおかげかはたまた大好きな彼女が私のことを見てくれていたおかげか。今の私は身も心も身に覚えがないほどに温まっていた















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生まれ変わっても貴方のおそばで Rod-ルーズ @BFTsinon

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