第52話 美月の気持ち

翌朝、俺は寝苦しさで目を覚ました。どうやらまだ明け方のようだ。枕元に置いてあるスマホの時計を見ると朝の5時半。

大いびきをかいて寝ていた川村と田島は部屋に居ない。


「うっ・・・いててて・・・」


起き上がろうとしたとき、後頭部に鈍い痛みが走った。どうやら二日酔いのようだ。


着替えて外に出ると朝のひんやりとした空気が心地良い。


「ちゃんちゃかちゃ~んちゃんちゃんちゃん・・・腕を前から上にあげてぇ~、背伸びの運動ぉ~、はい!」


中庭の端で川村と田島がラジオ体操をしている。ってアンタら自分達で歌ってんのかよ!


「おー!飯田君、起きたか?一緒にやろう!ラジオ体操!一緒にやろう!」


え~~~~・・・まあいいか・・・

俺は川村と田島の横に立って一緒に体操をした。オッサン二人は昨日の酒などまったく残っていない様子で、めちゃめちゃ張り切って体操に励んでいる。

朝っぱらからそのエネルギー、どこから出て来るんだよ・・・


「飯田君っ!朝の清々しい空気の中で身体を動かすと気持ちいいなっ!」


「あー、はい・・そうですね」


「どうした?飯田君、元気無いな!まだ目が覚めてないのか?」


「いえ、ちょっと二日酔いみたいで」


「だらしないな!まだ若いのに!俺なんか一晩寝たら気分爽快だぞ!わははは!」


そりゃいつもガシガシ鍛えまくってる自衛隊員だったら全然平気でしょうが、俺は一般人なんだから、あんなに飲んだら二日酔いにもなるよ・・・


「あの・・・昨日の夜、イーグルの無線でCICと連絡取ったんですけど・・・」


俺の言葉に川村と田島はピタッと体操の動きを止めた。二人とも”ヤバイ”と言った表情で俺を見ている。


「そ、そうか、連絡してくれたんだな、ありがとう。で、大谷は何か言ってたかな?」


「大谷さんは特に何も言ってませんでしたけど、美月が・・・」


「え?美月が?」


「何かスゲー怒ってて・・・自分達5人で頑張って見張りしてるのに、連絡もよこさないで酒飲んでドンチャン騒ぎしてるのは何事かと」


「あ、ああ~、そう・・・ま、美月が怒るのも無理無いな・・・こりゃ美月お嬢さんのご機嫌取らなきゃならんなあ・・・」


「そうですね、美月マジで心配してたみたいで、すごい剣幕で怒ってましたから」


「そうか、じゃあ美月のフォローは、飯田君、キミに任せたぞ」


「えええ?何ですかそれ?」


「だって美月と言えば飯田君、飯田君と言えば美月じゃないか!俺や田島なんかがヘタに機嫌取ってもなぁ・・・田島もそう思うよな」


「そうですね、自分も川村一佐の仰る通りだと思います。ここは当艦が誇るナイスガイ飯田にひと肌脱いでもらうのが最善策であると思います」


「ななな何が”ナイスガイ飯田”ですかっ!初めて聞いた!つーか、何で俺が・・・」


「じゃあ飯田君、頼んだぞ!俺と田島はちょっくらこの屋敷の中を散策してくるわ、それから朝食は7時に大広間だそうだ。じゃ!」


くぅ~~~、クソオヤジどもめ、面倒な事を俺に押し付けやがって、いつか墓地に送ってやる。


俺は離れの脇にある水汲み場で顔を洗い、朝食を摂りに大広間へ向かった。

大広間へ着くと、俺以外の上陸組全員と島津斉彬、秋姫、西郷、大久保、小松が座っており、すでに朝食を食べ始めている。

凛子の隣の空いているお膳の前に座ると給仕の女性が朝食を持ってきてお膳の上に並べてくれた。

野菜の煮物とお新香、白米に味噌汁。思っていたよりも質素な朝食だ。


「ねえ飯田っち、アタシすっごい二日酔いで頭チョー痛いんだけど、飯田っちは大丈夫?」


「ああ、俺も頭いてーよ、昨日は飲み過ぎたよな」


「だよね、でも楽しかったなあ。美月も来させてあげたかったね」


「それがさ、昨日の夜に無線でCICと連絡取ったんだけどさ、美月メチャメチャ怒ってて・・・連絡しなかったから心配してたみたいなんだ」


「あちゃ~、そうだよね、皆酔っ払って連絡忘れてたよね・・・」


「でさ、さっきその事を川村さんと田島さんに話したらさ、”美月のフォローは飯田君が何とかして”だって。ひでーよな、何で俺がそんな役回りなのよ」


「ふーん、でも美月って言ったら飯田っちじゃん、飯田っちって言ったら美月じゃん。適任ですわ」


「はぁ?凛子までそんな事言うんか?昨日一番楽しんでたのは凛子じゃん!凛子も協力してよ!」


「まあねぇ、そう言われるとねぇ、・・・うーん、どうしたらいいかなあ?美月のご機嫌取るのって・・・何か美月が喜びそうな事って・・・やっぱりお土産かなあ。あ、アッキーって美月と同い年だよね?アッキーに相談してみるってのは?」


「おお!凛子たまにはいい事思いつくじゃんか!そうだな、秋姫さんに相談してみるか」


俺が秋姫と話したい旨を女中さんに伝えると、その女中さんが部屋の隅に座っている女中さんの上役と思しきオバサンへ伝え、そのオバサンが横に座っている刀を持った男性に伝え、その男性が西郷に伝え、最後に西郷が秋姫の元へ行って話を伝えている。色々面倒くさそうだな。

西郷から耳打ちされた秋姫はキョトンとした目で俺を一瞥すると、そっと立ち上がって俺の元へ歩いてきて俺と凛子の前に正座した。


「飯田様、ご相談とは」


「あ、すいません、お呼び立てしちゃって」


「いえ、何も問題ございません」


「あのですね、船で留守番している美月って女性が居るんですけど、私達が昨日連絡をしなかったもので怒っちゃいまして・・・なのでご機嫌を取らなきゃならないんですが、何かいい案は無いかと・・・」


「そうですか、船でお留守番をされていたのですね、その美月様は皆さまの事がさぞご心配だったのでしょう・・・美月様はおいくつくらいのご婦人なのですか?」


「秋姫さんと同じ、25歳だったかと」


「まあ!そうなんですか!どのような感じの方でしょうか?」


「うーん、そうですね、背は秋姫さんよりも小さくて、目が大きくて色白で華奢でフワッとした感じかなあ・・・実際の見た目は20歳くらいに見えない事も無い、かな?」


「美月様は愛らしい感じの方なのですね、そうですね・・・少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


秋姫は侍女を呼んで耳打ちすると、侍女はそそくさと大広間を出て行った。


「アッキー、ごめんね、変な事相談しちゃって。私達のせいなのに」


「おい凛子、そのアッキーってのやめろよ、失礼じゃんか!」


「いえいえ、構いませんよ、そのようにお呼びいただいた方が、何と申しましょうか、私と皆様との距離が近くなったような気分になって、私はとても嬉しいのです」


先ほど出て行った侍女が帰って来た。両手で平べったい桐の箱を抱えている。

侍女はその箱を秋姫の傍らに置くと、うやうやしくお辞儀をしたまま後ろへ退いた。


「薩摩は江戸や京都とは違い、田舎なもので・・・お若いご婦人が喜びそうな物が無いのですが」


そう言いながら秋姫が桐の箱をあけると、その中には見事なピンクベージュの振袖が入っていた。


「こちらの着物なのですが、美月様はお喜びになられますでしょうか?」


「え”ーーーっ!この着物、ひょっとして美月にあげちゃうの?マジで?」


「はい、構いませんよ。他にもたくさんありますから。私が持っていてもどうせ1回か2回しか着ないのです。鹿児島と言えば大島紬が有名ですが、大島はお色が地味なので若い方にはこちらの振袖の方がお似合いになるかと。それから、こちらが帯になります。あとは、こちらのかんざしもお持ちくださいませ」


着物の事なんかまったく分からない俺だが、それでも高価な物だということはこの着物を一目見ただけで分かる。何より柄がとても美しく華やかで、女性だったら着てみたいと思うだろう。


「あの・・・私からも飯田様にご相談があるのですが」


秋姫が少し申し訳なさそうに俺の方へ向き直る。本当にこの子は仕草が上品だ。


「はい、何でしょうか?」


「昨日、川村様と兄上との間で、明日に皆様の船へ視察に行く事になったのらしいのです。私も行きたくて兄上にお願いしましたが兄上から同行の許可がいただけません。私はどうしても皆様の船に乗ってみたいのです!あの空飛ぶ鉄の鳥を間近に見たい!未来の文化や技術を見たいのです!ですから・・・どうか飯田様から川村様にお話しいただき、川村様から兄上に私の同行を許可するようにお伝えいただけないかと」


「えーっ!明日来るんですか!そんな話聞いてないですよ・・・まあいいか・・・でも何でお兄さんは秋姫さんを連れて行ってくれないんですか?俺は別に構わないと思うけどなあ」


「兄上が言うには『お前はこれ以上蘭学や洋学にうつつをぬかすと婚期がどんどん遅くなる』からだそうです・・・」


「ふーん、そうなんだー、でもさ、アッキーはまだ結婚したくないんでしょ?あーこのお茶うまいなー」


凛子があぐらをかいてお茶をグビグビ飲みながら秋姫に尋ねる。上品で楚々とした秋姫とはえらい違いだ。


「はい、まだ結婚は・・・それよりも見識を広め、これからの日本を、欧米諸国に負けないような国にしたいのです」


「かーっ、アッキーすごいな!私や飯田っちなんかとはえらい違いだ!だったらさ、いちいちお兄さんの顔色を伺ってないで、勝手に来ちゃえばいいじゃん!どうせあの蒸気船で来るんでしょ?こっそりと船に忍び込んで来ちゃいなよ!大丈夫大丈夫、見つからないって!」


「そ、そんな・・・忍び込むなんて・・・もし兄上に知れたら・・・」


「アッキーさぁ、さっき”これからの日本を、欧米諸国に負けないような国にしたい”って言ってたでしょ?そんなにスゴイ夢があるのにいつまでもお兄さんの顔色を伺ってるの?私ね、男ばかりの兄弟の中で育ったんだけどね、3歳の時に母が出て行っちゃって家族の中で女は私一人になっちゃってさ、ずーっと父や兄弟の言う事を聞いて育ったんだ。でもさ、ある時思ったの『このまま家族の言う事を聞いて結婚して子供産んで・・・それが私の生きたい人生なのかな?』って。それからは家を出て一人で働いて学費を稼いで学校行って就職して・・・お陰で行きたい学校にも行けたし、やりたい仕事にも就けたんだ。だからさ、アッキーも自分のやりたい事や目標があるんだったら、それに向かってなりふり構わず走っちゃうのがいいんじゃないかなあ?」


「お、おい凛子!何言ってんだよ!俺達の世界と秋姫さんの世界では事情が違うんだぞ!そんなに簡単なモノじゃないだろ!」


「いえ、飯田様・・・確かに凛子様の言う通りなのです。私はいつも兄上に助けていただいて、それが故にいつも兄上の顔色を伺っております。今、凛子様のお言葉を聞いて、少し目が覚めたような気分です。わかりました、もう一度兄上に談判してみます!凛子様、飯田様、まるで開眼させていただいたようなお言葉をいただき、秋姫は誠に嬉しく思います」


「い、いや、俺は何も言ってないけどね」


「そーだよ、飯田っちはいつもみたく横でボーっとしてただけじゃん!アッキー、ファイトね!」


「ふぁいと・・・?」


「あ、分からないよね、ゴメン!えーと、頑張ってね!」


「はい!」


俺達は朝食を終えると帰り支度をしてイーグルの横に集まった。燃料漏れの個所は既に田島が応急処置を終え、吉野がエンジンを掛けて調子を見ている。

そして薩摩藩の面々も全員総出で俺達を見送るためにイーグルの周りを取り囲んでいた。


「島津殿、大変お世話になりました。明日は当艦にてお待ちいたしております」


「川村殿、自衛隊の方々、粗末なもてなしで申し訳ございませぬ。明日の訪艦が今から楽しみで仕方ありません。わはは、どうかお気遣いなさらぬよう」


「お待ちしております!それじゃ、出発するか!」


あれ?そう言えば凛子の姿が見当たらない。あいつどこ行ったんだ?


「川村さん、凛子が居ないんですが」


「え?凛子が居ない?」


全員で辺りを見回すが、凛子の姿がどこにも見当たらない。


「ちょっと待ってぇ~~!」


屋敷の右手、中庭へ続く小道から凛子が走って来るのが見えた。が、何だか恰好が変だぞ。


「あー、すいません、ちょっと着替えに手こずっちゃって」


そういう凛子が着ているのは、いかにも粗末な生地で作ったような紺色の小袖着物で足は丸出し。下着の代わりにサラシを巻いている。足元は草履をつっかけており、まるで時代劇に出て来る飛脚みたいだ。


「り、凛子っ!何なんだよその恰好は!」


「いやぁ、タンクトップと短パンさ、もう汗でドロドロで・・・身持ち悪いから服借りてきた。どう?似合う?」


「お前水戸黄門にでも出るつもりかよ・・・」


「いーじゃんいーじゃん、さ、帰ろ!」


俺と凛子が後部ハッチから乗り込むと、吉野がイーグルを発進させた。


「お気をつけてー!」


薩摩藩の皆は俺達の乗ったイーグルが見えなくなるまで手を振っていた。


砂浜に停めてあったエルキャックにイーグルを格納し、田島と川村がエルキャックを操縦して空母へ向かう。

海上に浮かぶ空母が見えてきた。近づくにつれてその姿がどんどん大きくなる。



「こちらエルキャック、CIC感明送れ」

「こちらCIC感明良し、送れ」

「エルキャック、収容軌道に入る、スターンゲート開け、送れ」

「スターンゲート、開きます、送れ」

「スターンゲート開口確認よし、これより収容、収容」


エルキャックは空母の後部ゲートに侵入し、左右の壁に船体をガンガンと当てながら収容庫中ほどまで進んで停止した。

これからエルキャックの水洗いだ。これをしないと海水に侵されてエルキャックが痛んでしまうらしい。

俺達は各自高圧ホースを持ち、そこから噴射される真水でエルキャックの船体を中から外まで洗う。なかなかしんどい。

その時、いきなり俺の足首辺りに噴射された水が当たった。俺は足を取られて転倒し、自分が持っていたホースを自分に向けてしまい、びしょ濡れになってしまった。


「あちゃー、冷てぇ・・・ったく誰だよ」


横を見ると美月が何食わぬ顔でエルキャックを洗っている。お、お前わざとやったな。


「美月!何してんだよ!」


「え?どうかしました?」


「ホースの水、俺に掛かったじゃんかよ!おかげですっ転んだじゃんか!」


「えー?そうなんですか?ひょっとして昨日のお酒がまだ抜けてないんじゃないんですかあ?」


うーー・・・完全に怒ってるな。


エルキャックの洗浄が終わると俺達全員はCICに集合した。

ずっと見張りをしていた留守番組を目の前にして、俺達上陸組は何となく肩身が狭い思いだ。


「朝倉、大谷、森本、美月、石田、本当にスマン!俺としたことが、久々の酒の席で浮かれてしまった、今後はこのような事が無いように肝に銘じる、本当に申し訳ないっ!」


川村が皆の前で頭を下げる。それを見た自衛官の面々は何だか慌てている。

恐らく上官が部下に頭を下げるなんて事はあり得ないのだろう。


「川村一佐、頭を上げてください!取り合えず何も起こりませんでしたし、結果オーライと言う事で」


自衛官達が『まあまあ、いいじゃないですか』みたいな雰囲気になっているその横で、美月だけはムスッとした顔をして横を向いている。

そんな美月を見て、凛子が申し訳なさそうな顔をしてこちらへ寄って来た。


「美月・・・ゴメンネ、心配かけちゃって・・・私も盛り上がって酔っ払っちゃってさ、あの・・・これ、お土産・・・」


凛子が秋姫から貰った振袖の桐の箱をテーブルの上に置く。


「なんですか?これ?」


「あのさ、飯田っちが美月にって。薩摩藩のお姫様に頼んで貰ってきたの」


「ふーん、そうですか。とりあえずありがとうございます」


つっけんどんに美月はお礼を言うと、桐の箱を抱えてCICを出て行ってしまった。


「飯田っち、美月怒ってるね~」


「うん、昨日一晩とは言え、朝倉さんは艦橋で見張りだし、大谷さんは艦の事で忙しいし、森本さんも石田さんも自力じゃ飯も食えないからな・・・その間あいつが一人で色んな事やらなきゃならなかったんだもんなあ、怒るのも無理無いか・・・ほとぼりが冷めるまで時間かかるかなぁ?」


「まあ、本人もあれだけ怒っちゃったから、今更潰しが効かないんじゃないの?ほっといた方がいいかもね」


「そうだな・・・」


俺は自分の部屋へ戻ってシャワーを浴びて着替え、明日の薩摩藩一行の件を川村に聞きに行くためにCICへ向かった。

その途中には美月の部屋があるのだが、美月の部屋の前を通りかかった時に部屋のドアがほんの少し開いているのに気が付いた。

覗くのは少し気が引けたが、やっぱり気になってしまって・・・そーっと部屋の中を遠目から覗いてみた。


部屋の中では先ほど渡した振袖を身体に当て、部屋にある小さな鏡に映った自分の姿を見ている美月が居た。

着物に腕を通し、帯を腰のあたりに当てて嬉しそうに何度も身体をクルクル回転させている。

そして桐の箱の中にあるかんざしを見つけると、”わぁ~”と言うような表情でポニーテールに結んだ髪にかんざしを挿してニヤニヤしながら鏡を見ている。

が、その時、鏡越しに美月と目が合ってしまった。

ヤバイ!見つかった!


「ああっ!飯田さん、ちょ、ちょ、ちょっと何見てるんですか!」


美月は慌ててかんざしを箱の中にしまうとドアの方に駆け寄って来た。


「飯田さん!こっそり覗いてたんですか?」


「いや、あの・・・通りかかったらドアが開いてたからさ、あれ?と思って・・・ゴメン」


「どれくらい前から?どれくらい前から見てたの?」


「えーと、あの、美月が着物を身体に当てて、鏡の前でクルクル回ってたとこらへんから、かな」


美月の顔がパーッと赤くなった。


「ななな、なんで声掛けてくれないの!ハズカシイじゃん!あーもう!死にたい!バカ!」


「ゴメン・・・だって美月が夢中になってるみたいだったから・・・」


「あーっ、もうっ!ホントありえない!めっちゃムカつく!飯田さんなんてだいっきらい!」


「ゴメン!ほんとゴメン、それから、あの・・・昨日の事もゴメン・・・」


俺がそう言うと、美月はいきなり俺の胸に抱き着いてきた。


「お、おい、美月・・・」


胸のあたり、Tシャツ越しに温かい物がじわーっと広がる感覚・・・ひょっとして美月、泣いてるのか?


「心配したんだよ!すっごく心配したんだよ!全然連絡来ないから、何かあったんじゃないかって、飯田さんや凛子さん達ともう会えないんじゃないかって、すごく心配したんだよ!」


「そうか・・・ゴメンな」


「私、いつも飯田さんに助けてもらってばかりで、でも何かあっても私は飯田さんを助けられないんだって思って、自分が何も出来ないのが悔しくて、どうしようどうしようってずっと考えてて」


「うん、ゴメン、もう心配かけるような事は無いから、これが最後だから」


「絶対?」


「うん、絶対だ」


「本当に?」


「本当だ」


「うん・・・じゃあもういい。許してあげる」


美月がそんなふうに思っているとは思わなかった。連絡が無くて心配していた事は分かっていたが、何かあった時に俺を助けてあげたいだなんて・・・

だが・・・ちょっとシリアスな場面であるのだが、実は抱き着いている美月の胸の感触が、俺の薄いTシャツ越しにダイレクトに伝わってきているのだ。

そしてそんな事は意に介さない俺の”ゾンビ”が、微妙にスタンドアップしようとしている気配が・・・これはヤバイ。確実にヤバイ。今すぐそこに危機が迫っている。

でももう少しこのままで居たい。ああ、美月ってイイ匂いがする。もう何年も忘れていたこの匂い・・・

そしてヘソの辺りに感じる美月のおっぱいの感触・・・おっぱいの感触・・・


「飯田さん」


「おっぱい?」


「え?」


「あ、おっぱいなんて言ってません!」


「何言ってるの?・・・無線で言ってた美人のお姫様って誰なんですか?」


「あ?お姫様?あーっ、お姫様ね、秋姫さんって人でね、美月と同い年なんだ、島津藩主の妹さん。その振袖もその秋姫さんから頂いたんだよ」


「そーなんだ。で、その人って美人なんですか?」


「あ?え?ま、まあ、美人さん、かなぁ~」


「飯田さん、その人のこと、好きなんですか?」


「な、な、なにいきなりそんな事聞くの?昨日会ったばかりだよ、好きとかそんなん、あるわけないじゃん」


「ふーん、そうなんだぁ。まぁ別にいいですけどね。ワタシ、飯田さんの彼女じゃありませんから。カ・ノ・ジョ・ジャ・ア・リ・マ・セ・ン・カ・ラ~!」


今度はそれに絡むのかよ・・・なんだかんだ言ってまだ少し怒ってるだろ、キミ。

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パラレルワールド ラプソディ サバ太郎 @SABA-TARO

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