最終話 大好きな森で自由気ままなスローライフを

 けんじゃが森に残したもの、ダンジョン。

 その一つである『ジンジャ』の探索を終え、大満足のまま帰ってくる。


「どうでしたか!?」


 左右に開く大きな引き戸を開け、帰ってきた俺たちに声を上げたのは、化け狐族の姫様、コノハ。


「すごかった。なんというか、また一つ違う世界が見えた気がする」


「そうなのですか!」


「それに君を助けることができる」


「え……!」


 俺の言葉にはコノハをはじめ、他の化け狐族の皆さんも大きく目を見開いた。

 そうしてすぐに、


「「「本当ですか!!」」」


 一斉に俺に駆け寄ってくる。


 目にした時から水晶玉には可能性を感じた。

 俺には確信があった。


「はい」


 だから、はっきりとコノハに答える。


「では里に戻りましょう。それとも、中を覗いていきますか?」


「いえ、私は結構です。ルシオが解放してくれたので、いつでも見られるかと」


「分かった」





 わいわい、がやがや。


 化け狐族の皆さんと『ジンジャ』や収穫物の話をしながら、コノハの屋敷へと戻って来た。

 そうして早速、収納魔法から取り出した物々を眺める。


「「「すげえー!!」」」


 今まで入ることすら叶わなかった『ジンジャ』から宝を持ち帰ったとなれば、多くの化け狐族の皆さんが集まった。


 ……てか化け狐族、まじでイケメンと美女しかいない。

 ソシャゲにゲーム転生した? ってぐらいに思える程。


 まあそれは一度置いといて、改めて見るとすごい宝だ。


「これが森に伝わる偉人、けんじゃ様の残したものなんですね……」


「そうらしい」


 化け狐族の皆さんと共に、改めてけんじゃの宝を確認する。


 大きく分けると、“生活を豊かにするもの”、“水晶玉”、そして“稲”だ。


 俺とフクマロが見つけた男趣味の物は、収納魔法に隠し持っている。

 コノハや女性陣の前では大変出しづらいので、後で男でこっそりと眺めてみようと思う。


「ルシオ、本当に頂いても良いんですか?」


「ええ、もちろんです」


 『ジンジャ』はこの里に合ったものだし、化け狐族の方が欲しいものがあれば、遠慮なくあげようと思う。


 俺の予想だと、これらは全てからだ。

 それを実証するよう、手始めに俺は、綺麗な皿に手を当てた。


 そうして、


「はッ!」


 魔力を操作すると、見事に隣にポンっと同じ皿が出現。

 あら、本当に出来ちゃった。

 

「「「えええ!?」」」


 もちろんもれなく全員驚いた。


「ルシオ、何したの?」


「魔力操作だよ。でも正直これは、この皿がすごいんだ」


 俺はこの皿の「外に逃げたがっている魔力」を、少し操作しただけ。

 それだけで、見た目が全く同じ皿が生成される。


 この中ではこんな操作、俺にしか出来ないだろうけど、本当にすごいのはこれを作ったけんじゃだ。

 これを作るとなると、悔しいけどさっぱりだ。


 今、俺に出来るのは、けんじゃの叡智えいちを使わせてもらうだけ。


 それでも、持ち帰った生活雑貨には同じような魔力の流れが付与されているので、全てを好きなだけ増やせるのはとてもありがたい。

 見た目のオシャレさも相まって、有効活用していきたい。


「こっちもすごいぞ!」

「本当だ!」


 そうして、皆が違う物へ目を付けた間に、俺はあるものを完成させる。

 それは今回の主たる目的であり、皆さんの願いとなるもの。


「出来た!」


 俺が声を上げると、みんながまた一斉にこちらを向いた。


 手に持つのは、銀の宝箱に入っていた水晶玉。

 それを少し加工し、ネックレスにした物。


「コノハ、ちょっと失礼するよ」

 

「はい」


 コノハの後ろから、首を通して後ろからそのペンダントを授ける。

 

「これ……!」


 コノハはネックレスに手に取り、そのすごさを感じ取ったよう。

 よし、成功みたいだな。


「ルシオ、これはなんなのですか! 元気があふれてきます!」


「それは良かった」


 水晶玉、簡単に言えばそれは魔力の塊だった。

 それもありえないほど膨大な、ね。


 それは、この中では圧倒的なドラノアの総魔力量よりもずっと多く、『神秘の樹』にも匹敵する程の膨大な魔力量だった。


 どうやってこの小さな水晶玉の中に込めているのかは、分からない。

 俺に出来たのは、それを使える形することのみ。


 そして、コノハに授けたペンダント状の水晶玉。

 これは今後、コノハに魔力を供給し続ける。


 推定でしかないけど、生活するだけなら軽く千年は持つだろう。

  

 コノハの事はこれで安心と言える。


「コノハ、君はもう衰弱に悩まされることもない。今まで苦しい思いをしてきた分を、精一杯楽しむと良いよ」


「ルシオ……!」


 コノハは涙を浮かべながら、両手で口元を覆う。

 もはや神聖とも言えるほどの綺麗な黒髪も相まって、本当に美しい。


「「「ありがとうございました!!」」」


「良いですよ、大げさですって」


 コノハに続き、一斉に頭を下げた化け狐族の皆さんの感謝も受け取る。

 気恥ずかしくはあるが、やはり嬉しい。


「ルシオ、本当にありがとうございました!」


「!」


 と思ったら……ぎゅむっ!

 コノハからの突然の抱擁ほうよう


 それには、多方面からの圧。


「なんと、姫様自ら……」

「おお。これで我ら、化け狐族も安泰だ」

「ええ、あの人なら……」


 対してこちらのサイド。


「「『ああん?』」」


「……」


 剛力メイド、ハイエルフ、ドラゴンの睨みつけ。

 ああ、俺の命も今日までか。


 そんなこともありながら、姫様の完治を祝って、里では宴会が開かれた。





 里の中心で大きな焚火を作り、盛り上がる化け狐族の里。

 こんな宴を開けたのも随分と久しぶりらしい。


 そんな光景を、飲み物片手にコノハと並んで眺める。

 みんなも盛り上がっていることだからね。


「本当にありがとうございました。私、なんとお礼を申し上げれば良いか」


「良いんだ。俺たちも利益目的で来たんだしさ」


「うふふ、優しいんですね」


「い、いやあ……」


 コノハのにっこりとした笑顔にドキッとする。

 つくづく俺は美人の笑顔に弱いらしい。

 

「もし良かったら、今後もぜひルシオ達とはお付き合いしたいと思っています。……ですがやはり、遠いですよね」


「あー、そのことなんだけど、今後は一瞬だよ」


「……え?」


「これがあればね」


 俺が取り出したのは、コノハの首から下がっている水晶玉と同じもの。

 宝箱には三つ入っていたので、あと二つ残っているのだ。


 これを見た瞬間、コノハへの贈り物の他に、一つ使い道は決まっていた。

 あの大きな魔力を必要とする魔法『転移魔法』がようやく完成する。


「実はこれで、今後はひとっ飛びだよ」


「そんなことが……」


「出来ちゃうんだなあ」


 自分で言うのもだけど、魔法才能マンですから。


「今後とも定期的に遊びに来てよ。けんじゃの宝もあって、きっとすごい街ができると思うんだ」


「はい、ぜひ……!」


 コツン、と改めて乾杯を交わして、また盛り上がるリーシャ達に合流した。







「よーし、大体こんなもんかな」


「お疲れ様、ルシオ。本当にあっとう間に作り上げちゃったわね」


「ああ、リーシャ。最初から見たら、俺たちすごい頑張ったよな」


「本当にね」 


 目の前に広がるのは、住処を中心として作り上げた見事な街並。


 コノハを救ってからは実に一ヶ月が経っていた。


「わたし達の方も終わりました!」

「ルシオちゃん……はあ、はあ。私を、働かせすぎじゃないかしら」


「みんなありがとう。ゆっくり温泉に浸かってください!」


 スフィル・エルフィオさんをはじめ、エルフの皆さんも大いに助けてくれた。


『ルシオー! でっかい闘技場も完成したわ!』

『我も手伝ったぞ!』

『これでわたくしも少々本気を……』

『モグモグ』


「お前らは好きに暴れたいだけだろ……あとモグモグするな」


 そんなことは言いつつ、ドラノア・フクマロ・精霊さん・モグりんの最強種族(?)達の素晴らしい働きには、本当に感謝している。

 力があるからなあ、こいつら。


「ルシオ、和の街。あんな感じでどうでしょう?」


「おおー! すっごく良いよ! ありがとうコノハ、化け狐族の皆さん!」


「「「恐れ入ります!」」」


 コノハの後ろで膝をつく化け狐族の皆さん。

 姫様を助けたことから、あれから大いに手伝ってくれる。


 今では『転移魔法』で一瞬で来られるからね!


「さて」


 周りをぐるりと見渡す。


 遠くには神聖な森の木々、その中にある不思議な不思議な街。

 豪華な木のコテージ、和風の家々、泉、温泉、娯楽施設などなど……。


 俺たちの街づくりも、ようやく完成したのだ。


 前世の知識と、ここで学んだ多くの事を繋ぎ合わせて、これ以上にない好みの街が出来上がった。

 さらなる発展は目指していくとしても、大満足できる街。


 ここが今の、俺たちの住む場所だ。


 明後日には一度、最寄りの人間の国、トリシェラ国を訪ねようと思っている。

 森を受け入れてくれるかは分からないけど、俺はこれを機にお世話になった人々をいずれ招きたいと思っている。


 トリシェラ国に行くのは、いつか立てたその目標の第一歩だね。


「みんなお疲れ様。じゃあいよいよ、俺からのプレゼントだ!」


「「『……』」」


 皆が一斉に、ごくりとつばを飲んだのが分かる。

 散々焦らしてきたからなあ。


 それでもたった一ヶ月で食べられるまで成長するとは。

 さすがは、けんじゃの残してくれた遺産だ。


「行き渡ったかな? では」


「「「いただきます!」」」


 皆が一同に会せるような、大きな大きな食卓。

 それをみんなで囲んで、米を食べる。

 

 お米そのもの、お寿司、チャーハン風など、色々な物を組み合わせて。


 おかずにはこの森で獲れる素材。

 出し惜しみも全くしない。


「うっまー!」


 美味しくないわけがなかった。

 さすが森の稲。


 それに、


「美味しい! 何これ!」

『ルシオ! おかわり!』

「ドラノアさん、早すぎです!」

「うふふっ」


 みんなも幸せそうな顔をしてくれて良かった。

 騒がしいけど、とても楽しい日常だ。


「……」


 王家を追放されて、俺はこの森にきた。

 平気だったけど、リーシャがいたこともあって、不安がなかったわけじゃない。 


 それが、一歩踏み入れてみれば、友好的な種族。

 思わず拍子抜けするほどに、時におバカで、時に騒がしく、時に頼りになる森の種族。


 俺はこの森が、この森で出会った皆が大好きだ。

 この森に来て、心の底から良かったと思える。


『それが、偉大なる道への第一歩じゃ』


「!?」


 今、どこからか声が?


「ルシオ、どうしたの?」


「……いや」


 そうか、どこかで見守ってくれているのかな。

 あなたがもたらしてくれた全てに感謝します。


 そしていずれ、あなたがこの森に残した全てが分かるように励んでいきたい。


 でも今は。


 この大好きな森で、大好きなみんなと、俺は変わらず自由なスローライフを満喫しようと思う。


「気ままにね」





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いつもこの作品を応援して下さり、ありがとうございます。

本作はこの話で約10万字、大体文庫本一冊になるということで、完結とさせていただきます!


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それでは、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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【完結】魔法才能マンの自由気ままな辺境スローライフ~王族を追放されましたが、前世の知識で未開の森を自分好みに開拓していきます。あれ、なんだか伝説の存在も次々に近づいて来るぞ?〜 むらくも航 @gekiotiwking

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