第42話 けんじゃが残したもの

 中はとても暗かった。

 明かりがないので当たり前なのだが。


「『灯火ライト』」


 指をパチン、と鳴らして手の先に光代わりの火を灯す。

 そして、みんなの手に分け与えた。


 『火魔法』とは言っても、照らすことに特化したもので、熱さはない。

 みんなは手に持っていたが、人型ではないフクマロには頭の上に火をポンと乗せておいた。

 かわいい。


「何もないわね……?」


「ああ、だが油断するなよ」


 明かりを灯して見えてきたのは、道場の中のような風景だった。

 

 特に何かあるわけでもなく、ただ奥へと続く空間で、横も広い。

 というか足元のこれ、たたみじゃね?


 入ることにしたのは、俺たち五人とモグりん。

 コノハ達、化け狐族の皆さんは外で待機してもらうことにした。


 当然、何か危険があるかもしれないからな。


「進もう」


 しかし、その先も予想を大きく裏切ることは無く、ただただ何もない道場。

 予想を裏切ったのはその大きさぐらいで、想定よりかなり広かった。


 それも外から見た大きさとは比べものにならないほどで、魔法で空間を拡張していると思われる。


 が、それなりに進めば奥まで辿り着く。

 ダンジョンとは言っても、モグりんが言った通り本当に宝物庫のようで、特に仕掛けなどはなかった。


 そうして辿り着いた先には、


「うお……!」


 まさに宝の山。 

 多くは袋に入れられていて何が入っているか分からないが、袋の外に飛び出ているものから、目の前のは宝の山だと理解できる。


 宝の山は、大きく分けると三つの区画がある。


 その前に一つ。


「改めて確認だけど、ここの物って持っていって良いんだよね?」


『お好きにどうぞ。何しろ、けんじゃ様はもう……』


「そっか」


 モグりんのその後の回答は聞かない。


 俺が改めて聞いている内に、女子陣は颯爽さっそうと宝の山に寄っていた。

 まったく、気が早いな。


「見てこれ!」

「綺麗です!」

『かわいいわね!』


 そんな中で女子たちが一番に飛びついたのは、一番右側の区画。


 それは金・銀、財宝、まさにこの世の全てとまではいかないが、それなりの量のキラキラに光った装飾品。

 スフィルのペンダントを見てここまで足を運んだ俺たちにとっては、一番想像していた物だ。


 さらには、


「これ、使えそうじゃない!」


「ほう、それはまた……」


 リーシャが手に取ったのは、見事な茶碗。

 魔力関連の恩恵なのか、この『ジンジャ』内にはほこり一つなく、状態がものすごく良い。


 他には、生活雑貨からオシャレ等の物が出てきた。


 ただその全てには、明らかに魔力が通っている。

 異世界仕様ってか?


 魔力の流れは、絶えず中心から外側へと逃げたがっている様。

 その流れから、もしかすると増殖したりする?

 そんな期待をもって収納魔法に入れていった。


「なるほど……」


 色々と眺める中で、この区画の傾向が分かる。

 この区画には、装飾品などに加え、主に“生活的な物”があるらしい。


 中には、色を作り出す(?)魔法道具や、家造りに使えそうな素材。

 俺が行き詰まっていた街づくりが、また一歩進みそうな道具がたくさんあった。


 この区画だけで、俺は来た価値があると思えた区画だった。


 そうして俺は一通り満足したところで、

 

「俺たちはあっちでも見てみるか?」


『うむ、そうしよう』


 女性陣はキラキラに夢中なので、俺とフクマロは先に他の区画を見て回ろう。

 いつまでもこうしていると、日が暮れてしまうしな。





「さて」


 若干距離を取り、二つの区画を比べ見る。


 左は、大きな袋が一つ。

 真ん中は布が被せられている。


「左だな」


『なぜだ?』


「分からん。分からんが……呼ばれた気がした」


 なんて自分でも訳の分からないことを言いつつ、小さな袋の山々を漁る。

 そんな俺の予感はある意味当たったというべきか、


「!?」


 出てきたのは……フィギュアか!?


 手に持てるほどのサイズの、おそらく土魔法で作られたフィギュア。

 というかこれ……。

 俺はちらっと、後方でわいわいする内の一人、スフィルを視界に入れた。


「どうみてもエルフだよな」


『うむ。それも……』


 かなりエッ、いや煽情せんじょう的と言わせてもらおう。

 これは女性陣にはとても──


「ルシオー? そっちは何かあったー?」


「ないですー! まだ何も見てないですー!」


「そう? 早くしてよねー」


「リーシャ達はゆっくりでいいからねー、あははー」


 見せられたもんじゃない。


『黙っておこう』

「うむ」


 口調が反対になってしまったが、それほどに同意見だ。


「さてさて」


 気を取り直して、色々と探ってみる。

 結果、


「けんじゃも人間だったか」


『そのようであるな』


 一言で言えば、趣味の区画。

 それも男の趣味全開。


「……うむ」


 俺は女性陣に見つからないよう、そっと収納しておいた。





 そして、最後の一区画。

 あまりに楽しみ過ぎていたが、探しているのは自分たちの物だけではない。


 化け狐族の姫様、コノハの体調を克服できるようなものがあると良いが。


「開けるぞ」


 覆われていた布をばっと開けると、


「「『!』」」


 出てきたのは、三つの宝箱。

 左から、金、銀、銅……いや、茶色? の宝箱だ。


「粋な演出じゃねえか」

 

 そんな中で一人、真っ直ぐな目で茶色の宝箱を見つめる者が一人。

 モグりんだ。


『ルシオさん、あの……』


「良いよ。持って帰りたいんだろ?」


『え! は、はい! ありがとうございます!』


 いつもは愛くるしいリスちゃん。

 それが、ここに来た時から何かを探しているようだった。


 モグりんがここに来た理由は、この宝箱なのだろう。

 けんじゃ様の贈り物、そんなものを感じ取ったのかもしれない。


 それは、モグりんの手に渡るべきだ。

 モグりんは、宝箱をぎゅううと栗毛色の体で包む。


 では、気を取り直して。


「銀の箱から開けるぞ」


 それほど大きくない宝箱。

 みんなの視線を一心に受けながら、ゆっくりと開く。


「水晶玉?」


 宝箱の中には、ほんの手の平サイズの三つの水晶玉。

 どれも見た目に変わりはない。


「なんだこれ……って、──!」


 その一つに触れようとした瞬間、とてつもない魔力を感じた。

 まるで、小さな水晶玉の中にドラノアの魔力全てが注がれているかのような、そんな信じられない代物。


 そんな水晶玉を前に、俺の中で一つ考えが浮かぶ。


「これなら、コノハを助けられるかもしれない」


「本当!?」


「おそらく」


 水晶玉に触れた瞬間に、そんな可能性を感じた。

 加工する必要はありそうだが、コノハについても希望を持てる代物だ。


 それに、開発途中になっていた夢の魔法にも使えるかもしれない。


 そんな希望を持って、いよいよ


「ラストだ」


 目の前には金色の箱。

 正真正銘、このダンジョン『ジンジャ』の最後の物だ。


 ここまでずっとドキドキしていたのが嘘だったかのように、一転して緊張する。

 何故かは分からない。

 分からないが、何かとんでもないものが入っている気がした。


 そうして……開く。


「!!」


 出てきたのは、ほんの数本の植物。

 黄緑色の筋から、黄金こがね色の粒々が実る。


 現したものに大きな反応を見せたのは、俺だけだった。


「ルシオ、なにこれ?」

『あたしも見たことないわ』

「エルフの里にもありません」

『ウォ?』


 みんなは、さぞかし凄い物が出てくると思ったのだろう。

 がっかり具合は、傍から見て取れる。


 でも、俺は知ってる。

 出てきたものに、俺は感動すら覚えた。


 最後にこれを持ってくるあたり、けんじゃも好きだったのだろう。

 同胞よ、ありがとう。


「これは……いねだ」


 食卓がまた潤う。

 そんな胸の鼓動が鳴った気がした。

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