真っ黒なクロ

@A-nennerube

真っ黒なクロ

 ある日、ボクのところにクロが来た。クロと言うのは、そいつにボクが勝手につけた名前だ。人の形をしているが顔には目も口もなく、全身が真っ黒だったのでクロにした。

 その日、ボクは何故か無性に小学校に行くのが嫌になってしまった。学校にはたくさん友達はいたし、勉強がわからないわけでもなかった。本当になぜだか無性に学校に行きたくなくなった。この休みたいという気持を母に伝えても無駄だということは、幼いボクにもすぐにわかった。

 渋々、ベッドから出ようとしたときに目の前にクロがいた。ボクがクロを見たまま固まっていると、声をかけられた。

 けびょうをつかえ

口のないクロからたしかにそう聞こえた。

「きみはだれ?」

 そう聞いてもクロから答えが返ってくることはなかった。クロが何者なのか、なぜここにいるのかは気になったし、少し恐怖もあった。しかし、今のボクにとっては学校を休むことのほうが重要だった。ボクは部屋を出て、母に自分がいかに体調が悪いかを説明した。そのかいあって、学校を休むことができた。

 自分の部屋に戻り、クロにお礼を言った。クロはその時、しゃがんでいて何かをしていた。覗き込んでみようとしたら、クロが振り返った。ボクは驚いた。クロには口があったのだ。クロは何かを食べているようだった。そして、それを食べ終えるとスッと消えてしまった。学校を休ん出できた時間でゲームをしたり、漫画をしたりと自分のやりたいことを自由にやった。クロは不思議な存在だけど悪いやつじゃないと思った。

 次にクロとあったのは、中学生の時だった。ボクはカンナという同じクラスの女の子が好きだった。きっかけは些細な事で、ボクがクラスメイトにちょっかいをかけられていたときに助けてくれたのだ。それ以来、目が意思を持ったかのように彼女の姿を追いかけた。

 ボクは悩んでいた。彼女に、この思いを打ち明けるかどうか。結果は、だいたい想像がついていた。カンナは、美人で人当たりもよくみんなに好かれていた。クラスの男子はもちろん他クラスの男子もカンナが好きだった。それとは、対象的にボクはどこかパッとしない男子生徒だった。

 こんなボクが告白しても意味はあるのか、迷惑に思われるだけなのではないかと、一人放課後の教室で悩んでいたときだった。クロはであった日のように気づいたら目の前にいた。

 告はくするな

 一見口のないようにみえるクロからそう聞こえた。ボクは、少し悩んだ。クロのお陰で、仮病という名の偉大な技を身につけることができたボクは、クロを学校の先生以上に信頼できる恩人だと考えていたからだ。クロが告白するなといった。そこには意味があり、また助けてくれるのではないのかと考えた。目を閉じて考えに集中することにした。どのみち振られると思っていた。自分よりもイケメンな子はクラスにたくさんいるし、運動ができて明るい子もいた。なにより、思いを告げたことで嫌われるのではないかというう考えがあった。よし、やめよう。考えが決まり、一息つき目を開けた。そこにクロはいなかった。あたりを探すと、机の前でしゃがんでいた。また、何かを食べているみたいだ。

 「ありがとう」

 何かを食べ終わる前に、急いであの時の分も含めてお礼をした。その後、何かを食べ終えたクロは消えてしまった。次は、いつ会えるのかな。

 高校3年生のとき、ボクは大学の進路に悩まされていた。

 ボクの高校生活はひどいものだった。自分の気分次第で授業はサボったし、声をかけられるのをただ待つことを続けていたらいつの間にか友達もいなくなっていた。ただ時間だけが過ぎていく感覚はあった。無意味に時間が過ぎている自覚もあった。けど、なぜだか行動することができなかった。自分の友だちが別なやつと話していたら、何もなかったかのように通り過ぎた。好きな子ができたときも声の一つもかけなかった。そうしていると、あっという間に三年生になった。

 机においた進路調査書をみていた。ボクは大学生活にかけることにしようと思った。そこで、少しレベルの高いM大学にいこうと考えた。ボクの成績は悪かったし、勉強も好きではなかった。けど、受験を乗り越えて自分の目標を達成したとき何かが変わるような気がした。そう考えたら毎日の勉強も頑張れそうなきがした。ペンを握り、第一希望の欄にM大学の名前を書こうとした途端腕を掴まれた。驚いて顔を上げたらクロがいた。体の輪郭もはっきりしていた。クロがボクの腕をつかんでいた。

 N大学にいけ

クロは以前より言葉が上手になっていた。N大学とは、今のボクのレベルで行ける大学の名前だ。今までボクが行こうとしていた大学だ。相変わらずクロは不思議なやつだ。

「けど、クロ」

「ボクは、M大に行きたいんだ。」

はじめてクロに言い返した。それくら行きたかった。それくらい今の自分を変えるきっかけが欲しかった。

 だめだ。お前はN大に行くんだ。

今までに聞いたことのないような怖い声でクロは話した。そして、つかんでいる腕に力を込めてN大学の名前を書かせようとした。クロはどんどん力をつけていることに気づいた。

「クロ、やめてくれよ。」

必死に腕に力を込めて抵抗した。けど、クロの方が力が強かった。

 第一希望の欄にN大学の名前が書かれる頃には、ボクの気持ちはもとのダメなものに戻っていた。不思議だった。自分にしては、とても真剣に考えて、やろうと決めたことだった。なのに、N大学の名前を無理やり書かされただけでこんなにも冷めるものなのか。クロの方を見るとまた何かを食べていた。

 よく見るとその何かは、ボクの姿をしていた。すべてを悟った。ボクの中にあるものをクロは食べられていたんだ。自信や自制心みたいな自分を構成するものをボクは食べらていたんだとそのとき気づいた。そして今、クロはボクの決断力を食べたんだと思う。

 クロは、また成長したんだ。もうボクには彼に逆らう力はない。これからはただクロに食べられるだけなんだ。ボクは、これからどんどんボクじゃなくなる。空っぽな入れ物になるだけなんだ。

 三年後、ボクはこの世からいなくなった。

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