黒い雪が降り続いた後、終わらない夏が始まった。
終末戦争から数年を経た世界の隅で、独りの元パイロットの数奇な運命が幕を開けます。
人類を瀬戸際に追い詰める謎の敵、身に迫る断続的な攻撃。あらゆる希望が潰えていく中で、主人公は不思議な少女と出会い、そして真実を知ります。
彼女は人類側の決戦兵器だった…
序盤、綿密で緊迫感に満ちた戦闘シーンが展開されます。兵器である少女は、血を流し、蒼い幾何学模様がその身体に浮かぶ。一体、何者なのか?
──この辺りで何故か、単館上映された短編アニメーション『ほしのこえ』に似た印象を覚えました。孤独な少女の切ない物語です。
そして、主人公は少女との交流を重ね、学園の日常も丁寧に描写されます。徐々に判明する少女の正体、過去、関係性。落ち着いた場面の会話も巧みで、読者はすんなりと感情移入することでしょう。
「二度と見ることのないだろう満開の桜」(第十一話)
春は巡って来ません。運命は過酷で、取り巻く状況は冷酷です。
訳あって始まる二人の逃避行。その行程の美しい風景描写で物語の印象はまた大きく変化します。
人影の消えた終末感漂う海辺…
──ここでは何故か、特別にヒットもしなかった長編アニメ映画『雲のむこう、約束の場所』がオーバラップしました。近未来のテクノロジーとノスタルジック感の見事な融合です。
終盤、逃避行の果てに大きな仕掛けがあります。ミステリーの謎解きに似た要素もあり、哲学的な考察もあり、ハートを揺さぶる会話もある。そして作品タイトルに秘められた意味も最後に明らかになります。
ラスト二話が絶品で、胸に熱いものが込み上げてきました。手放しで絶賛します。
独りでも多くの読者が、それはジャンルの好みを問わず、最終幕に辿り着き、紡ぎ出されたこの物語のエンディングを目の当たりにすることを希みます。
もしこの物語を3話読めば、理解できるだろう。「これ、エヴァンゲリオンだー!」と。
作者の弐護山さん曰く、「同じだけど……ちがった奴をくれ」とのこと。その試みは成功していると思う。
冒頭のエヴァンゲリオンだー! というのはとある共通点があるからである。セカイ系というジャンルではなく、ストーリーの構造で。
それは何から何まで説明しないこと=十分に考察の余地がある、ということだ。
一言紹介で「爽やかな」という言葉を使用したのはその考察、謎と言い換えてもいいだろう、の量が適度でありよい味を出しているのでそう表現してみた。
丁度文庫本一冊程度の文字数。例えば――直近のGWのお供に是非、いかがだろうか?
おすすめの一作です。