第39話
「舟は…無さそうだな」
あたりを見渡し、舟や舟として使えそうなものを探すが、見当たらない。
元々、舟が停められていたであろう桟橋はあるが、おそらくここの守りを固めるための策として、舟は破壊されているみたいだ。
クソッタレ!これじゃあ、泳いで渡るしかねぇじゃねえか!
「泳ぐか……だがなぁ?まさか、何も無いわけじゃないだろうよ」
「海中から、多数の魔物の気配を感じます。泳ぐのは危険かと」
「んなこたぁ分かってる。だが、他に方法がねえのも事実だろ?」
悩んでいる間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。
泳いで渡りたいのは山々だが…いくら俺達といえど、危険過ぎる。
どうにか、舟を使わずに安全に渡る方法はないものか…
「……誰か、海を凍らせられるヤツはいるか?」
『………』
ふと思い立ち、海を凍らせられそうなヤツを探すが、誰も名乗りあげない。
まあ、当然といえば当然だな。
海を凍らせるなんて、そうそう出来ることじゃねぇ。
流石に無茶苦茶だったな。
となると……これしかねぇな。
「おいお前。俺を運びながら飛べるか?」
「わ、私ですか?」
「そうだ。この場にお前以外に、飛べるやつがいるのか?」
俺は、同僚の中でも数少ない、空を飛ぶ事ができる亜人を指名する。
名前は思い出せねぇが…種族は
こいつに運んでもらって、あのコアがあるところまで行く。
舟が破壊されてる以上、これが一番の安全策だ。
「えっと…わた、私はそんなに強くないと思いますけど…」
「んなこた関係ねぇ。もし敵がいても俺が倒す。その間に、お前がコアを回収しろ」
「で、でも…わた、わた、私なんかに…」
……コイツ、こんなに面倒くさいやつだったのか。
こんな性格で、第一部隊の隊員が務まるのか?
「シャキッとしろ!てめぇだって、魔王様に選ばれた第一部隊の一員だろうが!やれば出来る!!」
「ピャッ!ひゃい!!」
「よし行くぞ!それとお前ら、もし俺達に何かあったら、その時は全員で泳いで渡れ。まあ無いとは思うがな!」
念の為、待機させる隊員に指示を出しておき、俺は既に飛んでいた鳥人の脚を、ジャンプして掴む。
「頼むぞ。―――お前、名前は?」
「つ、
「ツバメ?あの渡り鳥のか?」
ツバメって言ったら、春先に家の軒下とかに巣を作ってるあいつだよな?
何でまた、そんな鳥の名前を?
コイツに、ツバメの要素はなさげなんだが…
「えっと……私は、家があって、そこでコアを守ってたので…その、燕だそうです」
「ダンジョンの中に家、か…なるほどな」
面白いダンジョンじゃないか。
是非とも、行ってみたいものだな。
「そうか。ツバメ、もっと速度は出せるか?」
「が、頑張れば出せます!で、でも…その…揺れると思いますが…」
「気にするな。多少揺れたところで、大した問題じゃねぇ。行くぞツバメ!」
「は、はい!」
ツバメに速度を上げるように指示を出すと、確かにさっきよりも速く飛ぶようになった。
そして、確かに多少揺れた。
が、揺れは正直気にならねぇ。
問題は時間だ。
あの島までは、多少距離がある。
宣言した時間までに、あそこまで行けるかどうか…
必死の表情で翼を羽ばたかせるツバメを見やり、俺も顔をしかめる。
このままでは間に合わない。
そう急かしたいところだが…これ以上無理はさせられない。
焦りを必死に抑え込み、ツバメの脚を掴み続けること数分。
手を離しても良さそうな位置まで飛んでくる事ができ、俺は息を荒くしながら飛ぶツバメに話しかける。
「俺は先に行く!お前もマシになったら来い!!」
「えっ!?ちょっ!まっ、待って…!」
ツバメの静止を最後まで聞かず、俺は手を離して飛び降りた。
この高さなら、死にはしねぇはずだ。
持ってくれよ、俺の体!
体を丸め、落下の衝撃に備えながら眼下に広がる海を見つめる。
高い位置から水に落ちるのは危険だと、隊長が言ってたが…まあ、そのまま島に落ちるよりはマシだろ?
全身に力を入れ、筋肉を固めると、俺の体は海面に衝突した。
地面に落下したのと、何ら変わらない衝撃に襲われたが…俺は耐えた!
そして、思いの外浅かったようで、落下してすぐに脚が着いた。
魔物が今の音を聞きつけて、こちらへ迫ってきている。
急いで海底を蹴り浮き上がると、全力で泳いで岸辺へ向かう。
この日に備え、〈迷宮〉の海で泳ぎの練習をしてきたんだ。
激しく水しぶきを上げ、浅瀬を泳ぎ切る。
脚が容易に底に着くようになると、すぐに起きがあって全力で走る。
「くそっ!服が重てぇ!」
服が水を吸って重くなり、少し走る速度が落ちる。
更に、水を吸った服が肌に密着して動きづらい。
だが、俺はそんな事で速度を落とすわけにはいかないんだ!
砂浜へ上がると、砂塵を巻き上げながらコアを目指す。
コアはここからでも見える位置にある。
これは取った。
そう、確信した時だった―――
「キュエエエ!!」
「ギャイアアアアッ!!!」
「グァッ!!グァッ!!」
「なっ!?なんだコイツら!?」
背後から、気色悪いいくつもの叫び声が聞こえ、走りながら振り返る。
すると、そこには手足の生えた魚のような魔物が、海から陸へ上がってきている、異様な光景が広がっていた。
「クソッ!コイツら水陸両用か!!」
図体がデカイくせに、動きが素早い。
このままじゃ追いつかれるな…
となると……あいつに任せるか。
「ツバメェ!!!お前がコアを取れ!!!」
空に向かってそう吠えると、急ブレーキをかけ、切り返す。
拳に魔力を纏わせ、魚型の魔物の群れへと殴りかかった。
「オラァ!!!」
「キェェエエエ!!?」
一番前にいる魔物を殴れば、ソイツは盛大に砂浜を転がり、後続の魔物の障害物となる。
そうなると、進行のスピードがガタ落ちし、かなり時間稼ぎが出来るようになる。
隊長の入れ知恵だ。
アイツは弱いが、その向上心は凄まじい。
第一部隊の隊長という地位を活かし、魔王様の空き時間に、直々に訓練をつけてもらっているほどだからな。
まあ、それでも俺のほうが強いが……訓練の成果か、戦闘中の視野の広さや引き出しの数は俺より上。
お陰で、隊長と戦えば勉強になることが多い。
「お前は空から仲間を潰しとけ!!!」
横から迫ってきていた魔物を蹴り上げ、迫りくる魔物の群に当たるように誘導する。
すると、見事に何体かの魔物に命中し、その魔物達が次の障害物となる。
「脳無しの魚共が!今時、パワーよりも頭のほうが大事なんだよ!!!」
地面を蹴って砂を巻き上げ、一瞬にして奴らの視界から消える。
しかし、やはり奴らは脳無しだ。
砂の目眩ましなんて気にも止めず、無策に突っ込んできやがる。
「フッ!所詮、魚ってな?」
砂を蹴り上げた後、すぐに飛び上がっていた俺は、コイツらが突っ込んでくる事を予想して、踵落としの構えを取っていた。
「脳天かち割ってやるからな。そこ、動くなよッ!!!」
一体の魔物に狙いを定め、全力の踵落としを脳天にぶつける。
硬いものが砕けたような感触とともに、鈍い音が聞こえた俺は、ニヤリと笑い、そいつを踏み台にして魔物がいない方向へ逃げる。
「まずは一体。……って、めちゃくちゃ多いな!?」
よく見ると、既に何十匹も出てきているというのに、まだまだ海から魔物が上がってきている。
倒しても倒してもキリがない。
そんな事は、目に見えてわかる。
「クソッ!ツバメは何をやって……おん?」
仕事の遅いツバメに対し、悪態をつこうとしたその時、突然妙な感じがし、コアの方を見る。
そこには、見覚えのある石板が出現しており、そこに描かれた魔法陣が光を放っていた。
「転移魔法陣!ツバメ!やったのか!!」
魔法陣が一層強く輝き、その光の中からぞろぞろと魔物―――いや、シモベ達が出てきている。
―――鬼羅。良くやったわ―――
「っ!?た、隊長!?」
俺の頭に、確かに魅香隊長の声が響いた。
魔王様ではなく、魅香隊長だ。
―――魔王様は忙しい。代理として、今は私が管理を行っている。そんなことより、あなたは速く外に出て、次の目標地点へ向かいなさい―――
「りょ、了解…?おいツバメ!また運んでくれ!!」
俺は、完全に興味を失った様子で引き返していく魔物を横目に、ツバメを呼ぶ。
そこへ、またもや隊長から念話が飛んできた。
―――入り口付近に出る転移魔法陣を設置してあるわ。ツバメは、既にそれを使ってそこまで行っているし、他の隊員も待機している。あなた待ちよ?―――
「まじかよ…そういう事は、早く言ってくれ…」
隊長以外に誰にも見られていないが、普通に恥をかいちまった。
マジで、誰もいないのが救いだ。
隊長が設置した魔法陣を使い、入り口付近まで転移すると、本当に既に待機していた部隊を率いて、外に出た。
ヒノクニの魔王 〜狂人による世界征服〜 カイン・フォーター @kurooaa
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