第38話
ついにこの時が来た。
魔王様は、私にあの命令を出された。
私が管理する海軍を使い、朝鮮半島を落とす。
その為の第一波として、私が早急に橋頭堡である〈ダンジョン〉或いは〈迷宮〉を確保する。
既に狙いは定まっているし、出撃命令は出した。
後は、私が前線に向かうだけ。
「首尾はどうなっている?」
「既に、第一部隊を乗せた輸送船が、海からはシーサーペント及びマーマン。空からはワイバーンによる護衛の元、目標地点A1に向け出発しております」
目標地点A1。
大韓民国の南東部海岸の、極めて上陸しやすい位置にある〈ダンジョン〉だ。
私は、ここを橋頭堡として制圧する計画を練っていた。
近くに韓国軍の基地が無く、付近の街の規模もそこまで大きくはない。
即座に対応される可能性は低い場所を選んだ。
「海上自衛隊に、例の作戦の実行を指示しろ。彼らには囮になってもらう」
「はっ!」
それに加え、目標地点A1から距離のある海域で、海上自衛隊の艦をふらつかせれば、そちらに注意が向くだろう。
軍全体の注意を引くことは出来ないだろうが…まあ、囮としては少なからず機能してくれるはず。
それに、万が一戦闘になったとしても、その艦には魔王様が用意した、結界用ピクシー部隊が配備されている。
一方的な攻撃が可能で、韓国海軍を少しは沈めてくれる事だろう。
「では、私も出発する。私が不在の間、この国の海は任せたぞ」
「お任せください、長谷川海軍大将殿」
私は、副官に日本の海の守りを任せ、自衛隊から借りた艦に乗り込んだ。
◆
大韓民国 目標地点A1近海
「見えてきたなぁ、目標地点A1」
「随分と嬉しそうなだな?鬼羅」
「当然だとも。銀竜副隊長。いや、今は隊長と言った方がいいかな?」
長い長い船旅を経て、俺達はようやく目標地点A1に辿り着いた。
船の上からそれを眺め、戦意を漲らせるオレに、第一部隊の副隊長である銀竜が、話しかけてきた。
「魔王様の威光を、世界に知らしめる初陣。その先遣部隊の副隊長を任されたんだ。興奮しない方がおかしいさ」
先の基地襲撃作戦の活躍で、魔王様に認知されたオレは、今回の侵攻作戦の先遣部隊副隊長を任された。
元々は、ただの第一部隊所属の亜人だったが、ここまで出世したと考えると……誰もが羨む程の、大出世だろうな。
へっ、船に乗ってる同僚に、羨望の眼差しを向けられる訳だぜ!
「そうだな。だが、だからこそ我々は失敗わ許されない。真剣に取り組むことだ」
「分かってますよぉ。銀竜隊長殿?」
こんなヘラヘラした態度をとっても、銀竜副隊長に何も言われねぇ。
やっぱり、オレは出世したな。
この人は、第一部隊の切り札と比べると見劣りするが、実力は間違いなく最上位の化け物。
竜人という恵まれた種族に、オレを超える才能を持ってる。
更には、魔王様から受けた強化の量も遥かに上。
そんな、実力も然ることながら、地位も第一部隊副隊長という、トップの存在である銀竜副隊長にこんなふざけた態度をとっても、何も言われない。
魔王様に認知されるってのは、マジで良いことだな!
「ん?漁船の連中が気付きやがったか……どうする?攻撃するか?」
「放置でいいだろう。その方が、連中からの反感を買わない」
近くで漁をしていた漁船のいつくかが、俺達に気付きやがった。
ありゃ、通報されたな。
攻撃してもよかったが…銀竜副隊長の指示だ。
無視して、目標地点A1へ向かうとしよう。
命拾いしたな?人間。
そんな事を考えている内に、船が限界まで陸地に近付き、上陸用のよくわからん蓋みたいなのが開いた。
名前は知らん。
というか、興味ない
「行くぞ、我に続けッ!!」
「野郎ども!!魔王様に吉報を届けるぞ!!」
オレと銀竜副隊長は、真っ先に船から飛び降り、分かりやすく岬の上にある目標地点A1に向かって走る。
途中、オレたちの進軍の邪魔になる人間共を突き飛ばし、車は投げ飛ばして破壊しながら進んだせいで、そこら中から悲鳴が聞こえる。
まあ、殺す気は無いんだし、気にする必要もねぇか。
……車を投げたら、その先に人が居たら死ぬって?
それは事故だ。オレたちの領分じゃねぇ。
だから、オレは知らね。
魔王様がなんとかしてくれるさ。
「よし。では、ここで部隊を二分する。対空攻撃能力を持つものは残れ。それ以外は、鬼羅に続け」
『はっ!』
銀竜副隊長の指示に、空を飛べる奴や、高性能な魔法が使える奴は残り、それ以外はオレに着いてくる。
「行くぞお前ら!たかがダンジョンだ!10分で終わらせるッ!!」
『オーー!!』
忠誠が上限値まで達してるような奴らの集まりだ。
老若男女問わず、やる気は十分。
そんな、連中を引き連れて、オレは目標地点A1の〈ダンジョン〉に飛び込んだ。
「雑魚に構うな!邪魔なら適当に蹴散らせ!!」
一団の先頭を走り、雑魚を無視して最奥へ向かう。
どうせ、この〈ダンジョン〉にオレたちの敵になり得るような奴は居ねぇ。
元支配者が出張ってきたとしても、この人数だ。
時間稼ぎは出来ても、止めるまでには至らねぇだろうよ。
「チッ…あと何階層だ?」
「多くても3階層かと…既に、6分経過しています。間に合いますか?」
「間に合う間に合わないじゃねぇ!間に合わせるんだよ!!」
走る速度を上げ、急ぎで最奥を目指す。
あと4分で制圧か…難しいかもな。
だが、ここでやらなければ後に響く。
海軍大将から聞いた話じゃ、理想はここを迅速に制圧した後、この近くにある〈迷宮〉―――目標地点A2の制圧に、オレたちを向かわせたいらしい。
その間、海軍大将率いる後続部隊は別の〈ダンジョン〉――目標地点A3を制圧する。
その3地点を制圧すれば、どれかを奪い返されたとしても、他から部隊を送り込めるし、奪還も容易になるそうだ。
(この後、A2の制圧も控えてる。時間は掛けられねぇ…)
「鬼羅副隊長!階段がありました!」
「なに!?」
後続の隊員の一人が、階段を見つけたらしく、声を上げた。
考え事に頭を使いすぎて、視野狭窄になってたか…
オレとした事が情ねぇ。
「行くぞ!時間は残されていないからな!」
余計なことを考えるのやめ、階段を駆け下りると、何や潮の香りがしてきた。
その時点で嫌な予感はしていたが、速度を落とすこと無く階段を降りると……
「チッ――参ったな。これは、どうしたものか…」
遠くにポツンと1つ島が見えるだけの、だだっ広い海が広がっていやがった。
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