第37話
部隊の再編成。
これには多大な時間を要した。
なにせ、ただシモベを生産するだけでなく、シモベの質を向上させるために、しっかりとした訓練をしておく必要があったからだ。
シモベ強化は、単にシモベのステータスを強化するだけに過ぎず、技術の習得までは出来ない。
そして、経験もないので、見た目だけの虚仮威し部隊が完成する可能性もあった。
そうならない為にも、しっかりとした訓練を施し、練度の高いシモベを量産する為、半年の時間を使用することに。
シモベは私に絶対服従で、クロやナースのような特殊個体でも無い限り、使い捨ての駒。
故に、人間ですれば大炎上待ったなしの行為も、平然と行える。
しかも、当の本人がそれを嫌がらず、むしろ進んで受ける為にたった半年で高い練度を実現できた。
だが、それでも半年は半年だ。
日に日に緩やかな経済制裁は厳しくなり、物価の高騰が続いている。
〈迷宮〉の内部で石油を採掘できるようになり、加工して安く売り出しているものの、需要に対し、供給が追いついていない。
急ピッチで施設を拡張したはいいものの、今度は石油を採掘できるようにするための維持コストが跳ね上がった。
ガソリン等の価格上昇はある程度落ち着いたものの、今度は私の首が締め付けられている。
「これ以上は無理だ。貯蓄もついに危険域に達している」
「では…やはり?」
「ああ。ついに、この時が来たようだ」
三大将を呼び出し、貯蓄しておいたエネルギーの話をする。
彼等にその話をするということは、何をしようとしているかなど、火を見るより明らか。
ついに、計画を実行する時が来たらしい。
「長谷川。もう一度確認するぞ?本当に、すぐにでも動けるのだな?」
「はい。すでに、上陸用の船の用意は出来ております。それに、魔王様からいただいた結界部隊を乗せ、少数精鋭による橋頭堡の確保を、今からでも行えます」
橋頭堡の確保。
戦略において、重要度が非常に高いモノだ。
前線へ兵士を送り込む為の入口であり、兵站を支える土台。
通常であれば、一度に大量の物資を運搬できる、大型船を停泊させることができる港がそれに該当するが…我々の場合は、〈ダンジョン〉か〈迷宮〉。
その内部に転移装置を設置することで、本土から直接兵と物資を送り込める。
おまけに、それ自体がすでに要塞であり、簡単には落とすことができず、制圧されればされるほど不利になる。
なにせ、首都近郊に存在する〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉を1つ制圧するだけで、瞬間的に全軍を敵国の首都に送り込むことも、理論上可能だ。
「よろしい。では、第一部隊を貸し出す。必ず、橋頭堡を確保しろ」
「はっ!」
第一部隊は、魔王軍最強の部隊。
少数精鋭で、一気に〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉を制圧するのであれば、第一部隊が適任だろう。
「第一部隊が〈迷宮〉或いは〈ダンジョン〉を制圧次第、転移装置を設置する。絶え間なく部隊を送り込み、侵攻を開始しろ」
「「はっ!」」
陸空の両大将もいい返事だ。
陸空両軍は、国軍や民間軍事組織、支配者の軍勢と戦うための部隊であり、〈迷宮〉〈ダンジョン〉攻略を念頭に置いた部隊内容はしていない。
それは、第一部隊や個として圧倒的な力を持つモノの仕事だ。
「戦線の広がり具合では、《最後の番人》を使うのもありかも知れんな。アレを使えば、間違いなく《迷宮》を落とせる」
三大将クラスの力を持った支配者でも無い限り、《最後の番人》を倒すのは無理だ。
その上、交代制で番人としての仕事をさせ、それ以外の時間は基本的に鍛錬に使わせている。
休憩?仕事中に寝てるさ。
なにせ、そもそもここまで敵が来ることはない。
それでもここを守ろうとする心意気は感じるが、やはりそれは無駄でしか無い。
威圧感を出しながら、微動だにせず整列しているように見えるが…アレは、ただ単に立って寝ているだけ。
戦意を削ぐという意味では、案山子のようにそこに立たせているだけで十分機能する。
だから、4、5時間休憩だけ与えて、その他の時間は鍛錬に当てたいのだが…それをすると、『我らに番人としての価値は無いのでしょうか?』という、不満を言われたので、適当な理由を付けて、休憩と警備を同時にさせている。
「港に第一部隊を派遣する。指揮は長谷川に任せよう。大原と水島は、長谷川が橋頭堡を確保次第部隊を派遣しろ」
『はっ!』
軍の指揮は彼等に任せ、私は別方向に力を入れよう。
何も、戦うだけが戦争ではないからな。
いかにして、諸外国に敵にせず、味方を増やせるか。
そういった、外交も戦争の一部。
「さて…長年に渡り、我が国を挑発し続けたツケを払ってもらおうか?朝鮮半島の2カ国よ」
朝鮮半島の地図を投影すると、インターネットの情報を元に〈迷宮〉及び〈ダンジョン〉の位置を、地図に記す。
その地図を会議室に表示させると、私は私で最後の準備を開始した。
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