第36話

ようやく後処理が一段落し、失った戦力の穴埋めも終わった頃、私はとある実験をするべく、沢山のフェアリーを用意していた。


「さて…複数の術者で、一つの大きな術を発動する。これが、ようやく日の目を浴びる時が来たな」

「本当に効果はあるのでしょうか?フェアリーなど、今や作るだけ無駄な戦力だと思われますが…」

「結界を張るだけなら、結界に特化したフェアリーを複数用意するだけで良いだろう。わざわざ、高いコストを使ってエルフを作る必要もない」


クロは否定的な意見を述べるが、私はこれが成功すると確信している。

着々と準備が進められ、合計30匹のフェアリーが集まって結界を張り始めた。


強度を重視し、爆撃に強くなるよう調整した結界。

ソレを、30匹のフェアリーが作っている。


「対艦ミサイルですよ?本当に防げるのですか?」

「それを確認するのが今回の実験だ。複数種類の結界を、30匹、40匹、50匹の数で張って、様子を見る。そして、最も効率がいいモノを採用する」


この実験が成功すれば、海軍の大幅な強化に繋がる。

数十のフェアリーを乗せたイージス艦を、結界で守ることで対艦攻撃を防ぎ、こちらからは一方的に攻撃する。

子供が考えるような作戦だが、実現できればそれこそ子供が考えるような、デタラメな戦果を上げることができる。


「さて…準備は整った。――長谷川、始めろ―――」


私は、長谷川に命令を飛ばし、対艦ミサイルを発射させる。

標的は、フェアリーの結界で守られた漁船。

密漁者から没収した、有り余る船の一つだ。


対艦ミサイルは正確な動きで漁船へと向かい、見事に直撃する。

爆煙が上がり、すぐには観測することは出来ない。

なので、魔法で風を発生させ、煙を吹き飛ばす。


「ふむ…30匹では無理だったか」

「そのようですね」


煙が晴れた後に残っていたのは、ボロボロになった漁船。

30匹のフェアリーの結界では、対艦ミサイルから船を守りきれないようだ。


次の船を用意させ、40匹のフェアリーで結界を張る。

そして、同じように対艦ミサイルを撃ち込むと……


「防ぐことが出来たようだな」

「はい。ですが、かなり結界が損傷しています。連続で当てられては、防ぎきれないかと…」


船は結界に守られ、傷一つ付いていなかった。

しかし、結界は烈しく損傷しており、つぎは耐えられない事は明白だった。


「となると、やはり50匹は必要か…再発射の準備をしておけ。そして、結界の修復と10匹追加だ」


残りの10匹も入れ、合計50匹で結界を張る。

修復と追加が終わった事を長谷川に伝えると、対艦ミサイルが発射された。


さて、今回はどうだ?


煙を散らし、船と結界の様子を確認する。


「船に損傷は見られませんし、結界もそこまで傷付いてはいません。この程度なら、即座に修復可能かと?」

「そうだな。フェアリー達の練度が上がれば、ヒビすら入らなくなるだろう。これで、決まりだな」


自衛隊の船に乗せるフェアリーは、一隻につき50匹。

フェアリーの練度が上がれば、減らしていけば良いだろう。

この手法を転用できれば、船以外にも色々と使えそうだ。

考えつくだけでも、輸送車両に付けたり、輸送船に付けたり、戦闘機に付けたりと、色々な所に付けられる。


フェアリーを乗せるだけのスペースがあればいい訳だから、多少の空きスペースにでも詰めておけばいい。

もしくは、エルフに運転の技術を与え、結界張りながら運転させるか。

…いや、それなら結界を纏ったエルフを、単身突撃させたほうが効果的だ。


銃の使い方を教え、敵地に単身突撃させる。

敵から銃を奪い取り、その銃で結界の中から一方的に攻撃すればいいのだ。


敵からすれば、機動力が異常な装甲車両が突っ込んできたようなもの。

前線や基地を掻き乱すには、丁度いいかも知れない。

やはり、量産すべきは力自慢のバカではなく、ある程度知能と学習能力のある、器用なヤツの方が良いな。


特に、魔法が扱えるものであれば尚良し。


「私は仕事に戻る。残りの結果は、映像にでも残しておいてくれたらいい」

「ハッ!」


私は、クロを連れて転移で魔王城へと戻る。

そして、フェアリーとエルフを大量に生み出し、充分に魔法が使える程まで強化する。


(ここでどれ程の魔法が使えるようになるかは、完全にランダム。生み出したフェアリーやエルフの才能に依存する。必ずしも、魔法が使えるとは限らない。…まるで、ゲームのガチャを回しているような気分だ。)


フェアリーは間違いなく魔法が使えるが、私の要求水準を満たすレベルかどうかはランダム。

ましてや、今欲しいのは結界魔法が使えるフェアリー。

私の要求水準を満たす、結界魔法が使えるフェアリーとなると…この中にどれほどいるか。


「まずは…結界魔法が使えるものは、前に出ろ」


私はフェアリーにそう命令を出す。

すると、3分の2が前に出た。


次に、一体のフェアリーを呼び出し、結界魔法を発動させる。


「このレベルの結界魔法が使えるものは残れ。そうでないものは下れ」


すると、3分の1以下に減った。


たったこれだけ…たったこれだけだ。

もう少し要求水準を下げれば、その数は増えるだろう。

そいつ等は、別のモノに乗せて結界を使わせればいい。

残りは…得意な分野を伸ばさせ、攻撃、支援、回復のいずれかで使おう。


一匹くらい、目を見張るほど優秀な奴が居てもいいと思うんだが………ん?


「…そこのお前。こっちにこい」

「は〜い」


私は、沢山のフェアリーの中に、一匹だけ何処か毛色が違うモノを見つけた。

施した強化は全て同じにも関わらず、一匹だけ振れ幅が大きい。


上振れ個体というわけではなく、伸び率が高いのだ。

まさかコイツは…


「……やはり、特殊個体か」


クロと同じ近縁の上位種。

或いは、突然変異に近い異質な個体。


今回の場合は後者だろう。


「お前は何ができる?何が得意だ?」

「ん〜?回復魔法かな〜?あと〜、支援魔法も得意だよ〜?」


……これは、コイツの個性か?

これまた、クセの強いシモベが増えたものだ。


「その態度……貴様、舐めているのか?」

「うわ〜!主様〜、あの犬っころ怖い〜!」

「落ち着けクロ。そして―――お前、今クロを犬と言ったな?どうしてそう思った?」


今のクロは、外見は完全に人間だ。

普通は、その正体を見抜けるとは思えない。

フェアリーだからか?

それとも、コイツは何か特殊な能力を持っているのか?


「え〜?変化の術を使ってるのは見えてるし〜?ちょこっと術を妨害してみたら、見えたよ?」

「なんだと…?」


術を妨害だと?

そんな気配はしなかった……私でも感知できないような使い方をしたのか?

そんなバカな…


「妨害って言っても〜、ボクが見る時はその正体が見破れるようにする術を使っただけだよ〜?その犬っころの術をイジるのは無理だって〜」

「そうか…」


そんな魔法を使えるのか、コイツは。

……問い詰めれば、目玉が飛び出すようなとんでもない魔法が出てきそうだが…まあ、良いだろう。


「回復魔法が得意、だったか?」

「そうだよ〜?あと、支援魔法もね〜?」

「そうか。さて、どんな名前にするか…」


癒やしの妖精か……神話か何かに、そういうモノが居てもおかしくはないとは思うが、生憎とそこまでは知らないな。


「…お前、性別は?」

「妖精だから、性別は無いよ〜?まあ、強いて言うなら男かな〜?」


……確かに男に見えるが、女にも見える。

本人が男だと言うなら、男なんだろう。

というか、性別が無いから男女で名前を変える必要もないか。


「『ナース』これはどうだ?」

「どんな意味〜?」

「看護師だな。回復魔法が得意なお前にはピッタリだろう?」


ナースと言われると、女性のイメージが強いが、別に看護師全てを『ナース』と呼ぶので、男でも女でも関係ない。

だから、まあ問題はないだろう。

それに、この見た目なら違和感は少ないはずだ。


「ナース…ありがとう!主様〜!」

「喜んでもらえたようで良かった。では、これからお前には新人教育を受けてもらおう。クロ」

「はっ!魔王様」

「……え?」


クロに新人教育を任せると、ナースは目をパチクリさせて私とクロを交互に見る。


「魔王軍に所属するうえでのイロハを、しっかりと叩き込んでやれ。……死なない程度にな?」

「仰せのままに」

「え?ちょ、ちょっと―――キャッ!?」


クロは容赦なくナースを掴むと、黒い笑みを浮かべて影の中へ潜る。


「た、助けて主様〜!」

「しっかりと勉強してこい、ナース」


ナースは、影に入る間際に何か言っていたが…私の激励を受けてそのまま影へと飲み込まれていった。

クロならしっかりとした“教育”を受けさせてやるだろう。

次に会うときには、立派で従順なシモベになっているに違いない。


私はその事を確信し、新しく作ったフェアリーとエルフの選別を再開した。

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