第35話
「はあ!?なんで私よりも後に来た人の方が、早く料理が出てくるのよ!!」
私は、何故か私よりも後に来た男に先に料理が運ばれてきた事に憤慨し、店員に怒鳴りつける。
店員は申し訳無さそうな表情をして謝ってくるが、あんな事をされたあとでは舐めているとしか思えない。
「なに?見た目で判断してる?私みたいな女よりも、あの怖そうな男に先に料理出したほうが文句言われ無さそうだなぁとか思ってたの?」
「も、申し訳ございません!」
「それしか言えないの?ねえ?私の事舐めてる?」
同じ事しか言わない店員。
どれだけ怒鳴っても無駄だと思い、責任者を呼ばせようとすると、見た目は怖そうな男がこっちにやって来た。
「ぎゃーすか騒ぐなや、女」
「なに?脅し?私は当然の文句を言ってるだけなんだけど?」
「うるせぇ。少しくらい待てや」
………はあ〜!?
「その言葉、そっくりそのまま返す。後に来たんだから、少しくらい待ちなさいよ、この肉ダルマが!!」
「んだと?」
知ってるよ?
さっき店員に催促してたよね?
『時間がない』とか言って、早く料理を持ってこさせようとしてたよね?
時間がないならコンビニにでも行け。
こんな所で悠長にメシ食べようとするな!!
「随分と肝が据わってるじゃねえか、女。表出ろや」
「なんで?どうしてこの私が、お前みたいな分かりやすい反社野郎の言う事聞かないといけないの?私を誰だと思ってんの?」
肩を掴んで睨みつけてくる男を睨み返し、そう言い放つ。
しかし、私が誰なのか分からなかったらしく、強引に渡しを連れて行こうとする。
「離せ!肉ダルマ!!」
「ぐあっ―――!?」
思いっきり股間を蹴りつけてやると、男は私から手を離して股間を押さえ、膝をついた。
その隙に、私はスマホを取り出して電話を掛ける。
もちろん、警察なんて軟弱な奴に電話したりしない。
私が誰か思い知らせてやる。
『もしもし?なんのよう?』
「あ、お姉?ちょっと、お姉の影の人を使わせてくれない?明らかに反社っぽい奴に絡まれてさ〜」
『……はあ。後でお説教ね?』
「はいは〜い」
お姉曰く、もし何かあったら影に声をかけろ、だって?
中に交代で護衛が居るらしく、大抵はその人達でどうにかなるんだとか?
緊急時は、お姉の許可が無くても使って良いらしいけど、緊急でなければ許可を取らないといけない。
だから、一応電話しておいた。
「お姉には許可貰ったから、出てきてくださ〜い」
私がそう言うと、影が大きくなって、そこから忍者のような格好をしたトカゲが現れた。
「なっ!?ば、化け物!?」
「ふふっ、これで私が誰か分かったでしょ?」
忍者トカゲさんを見た男は、腰を抜かして座り込み、そのまま後退りする。
この異形の化け物を見て、私が何者か完全に理解したようだ。
ついでに、他の客や店員にも見せつけてやる。
そのお陰で、全員顔面蒼白になって面白いものが見られた。
「私は魔王の妹、
全国権を掌握する魔王の妹。
それに手を出すということが何を意味するか?
簡単な話だよ。
この、日本という国そのものが敵になるって事だ。
国家権力を操るお姉にかかれば、こんな奴簡単に牢屋にぶち込める。
私はお姉から学んだ。
『取れる時は、取れるだけ他人から取れ』って。
今がその時。
「今回の件、チャラにしてほしい?」
「は、はい!」
「そっか〜。じゃ、私の分の支払いもしてくれる?」
「も、もちろんです!!」
他人の金で食う飯は美味い。
いや〜、まさかこんな所で節約できる機会が来るとは思わなかったよ。
……いや、節約じゃないね。
「あなた急いでるんでしょ?私はしばらくここに残るつもりだからさぁ…支払い用に、3万くらい置いていってくれない?」
「りょ、了解しました!!」
男は急いで3万円を財布から取り出すと、私に差し出してきた。
私は、それを忍者トカゲに受け取らせ、財布に入れさせる。
せっかく呼び出したんだし、何か仕事させたかったからね。
ちょうど良かった。
「あと、店員さん」
「ひゃいっ!!」
「次からは、見た目で人を判断しない事だね。私、一度目でも許さないけど、二度目は絶対に許さないから」
「は、はぃぃぃぃい!!」
店員さんは流れるような動きで土下座を披露してくれた。
その土下座に免じて、今回は許してあげよう。
「レジにあるお札全部持ってきて」
「えっ?」
「何?私の言うことが聞けな―――なんですか?」
レジにあるお札を全部持ってくる事で許そうとしていると、忍者トカゲさんに止められた。
「魔王様のご命令です」
「……あぁ〜ね?」
なんだ、見てたのか。
それなら仕方ない。
あんまり怒られたくないし、今回は何もなしで許してあげよう。
「ふん!やっぱりナシでいいよ。今回は特別だからね?だから、早く私の頼んだ料理持ってきて」
「か、かしこまりましたぁぁぁぁぁぁあ!」
店員さんは、逃げるようにキッチンへと走っていき、すぐに私の料理を出すよう頼んできてくれた。
その後、すぐに料理が運ばれてきて、店長を名乗る男性が土下座してくれた。
が、それは無視して料理を食べていると、お代は結構ですって言われた。
そのお陰で、私は特に何もせずに3万稼げた訳だ。
いや〜、今日はラッキーな日だね?
◆
「全く、このクソ忙しい時期に、何やってるのよあなたは」
「私悪くないもん。今回はアイツが悪いもん」
「良し悪しの話はしてない。余計なトラブルを起こすなって話」
ただでさえ仕事に鏖殺されているのに、面倒なことをしてくれた愚妹を叱る。
仕事に集中したいのに、この愚妹が何かやらかさないか監視するのに意識をそがれ、少し仕事が遅れた。
その上、しっかりと説教しておかなければ調子に乗る。
だから、こうやってわざわざ時間を割いてまで、説教しなければならないのだ。
「私がどれだけ忙しいか分かるか?碌に仕事もせず、そのくせ一般社員よりも給料を貰っているあなたと違って、私は仕事に追われて」
「…じゃあ、説教してる暇ないよね?」
「しないと調子に乗るだろうが!ただでさえ忙しい時期に、あなたが問題を起こして捕まったりでもしたら、その始末もしなきゃいけない」
いざ犯罪を犯して捕まった場合、私は一切助けたりしない。
しかし、私の妹ということで、私が何も言わなければ忖度される可能性もある。
おまけにマスコミ共が集ってくるだろう。
無理矢理散らしてもいいが、あいつ等はしつこい。
簡単には引き下がらないはずだ。
その対応もしないといけないとなると……
「いい?極力問題は起こさい。今の特権階級のような生活を享受するなら、私に迷惑を掛けるな」
「分かってるよ。お
「……今日、私が止めてなければ何をしようとしていたの?」
そう問い詰めると、愚妹は目を逸らして口笛を吹く。
これだから愚妹は…
「私はあの件の後始末に追われてる。少なくとも、一ヶ月は私に迷惑を掛けるなよ?」
「は〜い」
愚妹は気怠げな返事をし、部屋から出ていった。
全く、忙しい時に面倒なことを……
あんな事されたら…その反社を潰さないといけないじゃない。
「クロ、状況は?」
「問題ありません。リストにあった者達はすべて始末しました」
「ご苦労様。害虫は、見つけ次第叩き潰す。あの愚妹が余計なことをしなければ、わざわざ今潰す必要も無かったんだがな」
今回の件で一番面倒なのはそこだ。
こういう連中は、少しでも理由が出来たら潰すようにしている。
例外を作らないためにも、わざわざ構成員のリストを作って、クロの部隊に襲撃させた。
忙しいのにこんな事をしなければいけないのだから、本当にあの愚妹は余計なことをしてくれた。
適当な理由を付けて軟禁したいくらいだ。
だが、それはそれで仕事が増えるのでやらない。
私がすべき事は、これ以上面倒事が起こらないよう祈りながら、仕事をすることだ。
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