第12話 優しい時間


三上みかみさん」


昼休み、いつもの場所に到着すると常盤さんがなぜかベンチの上で正座をして待っていた。



「ど、どうしたの、常盤ときわさん…?」


いつもはサンドイッチや惣菜パンなのに、その日はお弁当箱を持ってきていた。

その蓋を白くしなやかな手でパカッと開ける。


「今日はおかず交換をしたくて」

武士のようなまっすぐな瞳で言った。


笑ったらだめだ。

本人はめちゃくちゃ真面目なのだから笑ってはいけない。

…そう言い聞かせたけれども我慢の限界であった。


「ふ、ふふふ…」

肩をブルブルと震わせながら笑ってしまった。

当の本人は『なんか変なこと言ったかな』みたいな感じできょとんとしている。




ひとしきり笑って、息を整えてからわたしもベンチの上で正座をした。


「ごめん。大真面目に可笑しなことしてるから笑っちゃった。お弁当、珍しいね。」


可笑しなことと言われて一瞬目を丸くした常盤さんを見て、また笑いだしそうになってしまったが必死でこらえた。


「初めて自分で作ってみたの。お弁当。お姉ちゃんに作り方を教えてもらったの。」


常盤さん、お姉さんいるんだ。

ここでお昼を2人で過ごすようになってから2週間ほど経ったが、あまりお互いに関する話はしないので常盤さんのことはまだ知らないことばかりだ。


なんて思いながら手始めに卵焼きを交換した。


「美味しい…!これ塩?ワタシしょっぱい卵焼き初めて食べた!」

「ううん、出汁。お母さんが関西出身だからうちは出汁派なんだよね。」


「ずっと憧れてたの。おかず交換。」

すごくうれしそうな、あたたかな笑みを浮かべながら常盤さんがわたしの卵焼きを頬張る。


今までで一番表情が豊かだった。


入学当初…というか現在進行形でもあるが、常盤さんは『美人だけど暗くて話しかけづらい人』と生徒の中で認識されているようだ。



でもそれは違う。

昼休みにいつもの場所で会う常盤さんは、口数が少なくてもまっすぐに目を見て話してくれるし、表情も決して豊かではないが、一緒にいると今は喜んでいるとか驚いているとかなんとなくわかるのだ。

天然でちょっと感覚がズレている気もするけれど、予測できない行動も面白い。



もっと常盤さんについて知りたい。

昼休みに会う常盤さんしか、今のわたしはまだ知らないのだ。




「ねえ、常盤さん…」







「今度放課後にパンケーキ食べに行かない?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あえかな羽に 睦月メリク @mutsuki_m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ