第11話 ふたり



ぐうぅ…


さすがは食べ盛りの高校生。

4時間目から…というか、朝学校についた頃から既にお腹は空いているのだ。


いやいや、そうじゃなくて。


わたしのお腹の音はなかなかなボリュームだったらしく、

気づいた先客がこちらに振り向いた。


さらさらの綺麗な黒髪が風になびく。




常盤咲恵ときわさえさんだ。



「邪魔してごめんなさい!わたしは別のところに行くので…」

常盤さんに悪いと思って、そそくさとその場を立ち去ろうとした。



「待って!」


想定していたよりも大きな声で呼び止められて、

驚きのあまり体がびくっと跳ねてしまった。


当の本人も自分の声の大きさに自分で驚いているようだった。

先ほどの大きな声とは打って変わったか細い声で常盤さんが続ける。



「ワタシ、もう用が済んだので…」


顔を真っ赤にさせながら、常盤さんが腰を上げてこちらへ歩いてくる。

そんなことを言いながら、手には未開封のサンドイッチを持っていた。


わたしに気を遣わせまいと嘘を吐いたのだろう。


常盤さんの優しさに気がつき、咄嗟に体が動いた。

両手をバッと大きく横に広げ、通せんぼのポーズ。



1秒ほど遅れて脳の思考が追いついてきた。

…わたしは何をやっているんだ。



一瞬、常盤さんとぱちくりと目を見合わせ、2人同時に吹き出した。




結局、2人ともベンチに座って一緒に昼食を食べることになった。



これと言った会話はなかったのだが、次の日も、その次の日も常盤さんはこの場所に現れた。





「あ、そういえば…」


4日目にして常盤さんが口を開いた。


「お名前、聞いてなかった。ワタシ、A組の常盤咲恵です。」

「あ、B組の三上菜乃みかみなのです。」


横並びで座っているベンチでお互いの方に体を向け、

2人ともぺこぺことお辞儀をした。


今更の自己紹介。


わたしは一方的に常盤さんの名前を知っていたけれど、

よく考えれば常盤さんは、わたしのことを名前すら知らない状態でここ数日隣で昼食をとっていたのか。


不思議な子だ。いや、天然…?





そこからぽつぽつと会話が続くようになった。




ひとりになりたくてこの場所で昼休みを過ごしていたのに、

いつの間にか常盤さんと話すこの時間が楽しみになっていた。


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