ウイウイ♪

@tonari0407

これが本能ってやつか?

 うう、ちくしょう……


 もうダメかもしれない。これまで幾度となく苦難を乗り越えて来た俺も、限界を感じ流石に諦めかけていた。


 食べられなくなった時から、もう長くないことなんてわかってた。エネルギーを補給出来なければ、どんなに屈強な生き物だって動けなくなるものだ。

 でも、今回も何とかなるんじゃないかと淡い期待を抱いていた俺が浅はかだったんだ。


 俺の命は、このホコリにまみれた薄汚いアパートの一室で終わるらしい。孤独死する人はこういう気持ちなんだろうか。

 まぁ、俺の他にもここには住んでいる人がいるけれど……。


 動けない。首を動かすことさえできず、シンと静まりかえったフローリングの床の上で俺は微動だにせず冷えていく。

 目の前には醜くうねった髪の毛。これが最後の景色だなんて皮肉なものだ。


 でも、何の感情もわかない。


 俺は身体だけでなく、心も限界なようだ。毎日精一杯頑張ってきた。もう十分だろうか。

 仲間達も褒めてくれるかな? みんなで声を出して笑っていた頃が懐かしい。あのときの俺たちは、未来へ希望を感じ使命感に熱く燃えていた。


 彼等とは墓場で再会できるかもしれない。楽しみだ。キズだらけのこの身体を見て、劣悪な労働環境に耐えた俺を労ってくれるに違いない。

 みんな、俺も使命を終えて今いくよ……。



 ガラッ


 安らかな眠りにつこうとした俺の前に、労働を強いる雇い主が現れる。


 ふっ、遅かったな。もう俺には働くパワーは残ってねぇんだよ。

 いつもいつも乱暴に扱いやがって、俺はもうお前のもんじゃねえ!


 そんな俺の気持ちなど無神経な女に伝わるわけもなく、身体が持ち上げられる。

 そして俺は……


「ウゥん……」とくぐもった声を上げた。いつもの軽快な声ではない。


「あれ?」女は不思議そうに呟き、俺の身体を乱雑にペシペシと叩く。


 おい。マジかよ。それが死にそうになってるやつにすることか? どっかの法律に引っかかって逮捕されたりしないのか。

 もっかい、小学校で道徳の授業を受けてこい!


「ゥん……」今度は先ほどより、悩ましく、か細い声になる。当たり前だ。俺の生命力は心なき暴力で確実に削られた。


 俺をじっと見つめる女。

 何も考えていなさそうだ。嫌な仕事は全部俺に押し付ける怠惰な憎き主人。

 やつは俺を抱き上げて、ごみ箱まで持っていく。


 おい! 不法投棄か。それともアレか? やめろ! 苦手なんだ。静かに仲間のところに行かせてくれ。


 ああー! いやぁぁぁぁぁっ!


 俺は内臓をもぎ取られた。バシバシ叩かれて無理やり嘔吐されられる。苦しい。胃洗浄ってこんな感じだろうか? 


 細かいことはわからない。俺は意識をなくしていたから。何をされたのだろう?



 そして、俺は無理やり起こされた。

 疲れて寝ていた俺に、あの女は再び働くことを強いるのだ。


 嫌だ! もう働くのは嫌だ。

 働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない働きたくないいぃ、ギブあっ……


「ウィィィィン」


 長年の習性なのか、本能か、俺はまたゴミを吸う過酷な労働をしてしまっていた。


 なぜだ? 上手く充電できない俺はもう死んだはずだったのに。

 そうでなくても、人間の醜い汚れをこの身に受けすぎて昔よりたくさん吸えなくなっていたのに……。


 魔法をかけたのか? それとも昔からの知恵か何かがあるのか……? 

 女、お前は何者だ?! なまけものか。


「あっ、復活~。これで何回目だろ? 」


 俺の声に紛れてのん気な女の声が聞こえたが、俺はウイウイしか言えなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウイウイ♪ @tonari0407

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ