第4話 幸運の女神様はエコ贔屓が酷い

「やった!ボスを倒したぞ!」

「ふぅ、危ないところだった…」

「すまない。また助けられた」

「ライ!ヘイオン!2人とも無事?」


 多少の擦り傷はあれ、重傷を負った者は出なかった。


 考える限り最高の結果だ。


「おーい!皆んな、こっちに来てくれ!」


 緊張が解けて座り込んでいるとガガンに呼ばれた。


 見れば、一つ目巨人の姿が消えていた。


 普通の魔物は倒した時に死体が残るが、ボス部屋の魔物は倒すと消えて無くなる。


 魔物の死体から素材を剥ぐことは出来なくなるが、その代わりに特別なアイテムをドロップする。


 ガガンの手には輝く剣が握られていた。


「これがボス部屋のドロップ品か。初めて見る」

「俺もだ。剣なんだな」

「綺麗な剣ね…」

「…いや、ここのドロップ品は棍棒か宝石類のはずだ」

「「「え?」」」


 ボス部屋のドロップアイテムはある程度決まっている。


 事前に調べた限り、ここのドロップは棍棒系の武器がほとんどで、低確率で宝石類が出ることもある。


 しかし、ガガンが握っているのは紛れもなく剣だった。


「…強いて言うなら『宝剣』か?」

「どういうこと?」

「低確率で手に入る宝石類のうち、更に極低確率で『宝剣』が手に入るのかもしれない」


 この迷宮は町から近いため、10層の攻略記録は何例もある。


 しかし、『宝剣』がドロップするという話は聞いたことがない。


 報告を上げていないだけで過去にもドロップされたかもしれないが。


「何にしてもレアドロップなのは間違いない」

「凄いじゃない!流石ガガンね!」

「だが、剣一本では分けられないな…」

「あ…」


 この場には4人いる。


 宝石なら売った金を山分けにすれば良いが、今回はこの超レアドロップ宝剣である。


 売るには惜しい。


「あっ」


 丁度その時、ガガンの使っていた剣が真っ二つに折れた。


 見るからに量産品の安い剣では、度重なる勇者スキルの使用に耐えられなかったようだ。


「…宝剣はガガンが使えよ」

「えっ」

「巨人にトドメ刺したのガガンだしな。勇者には特別な剣が必要そうだし、丁度良いんじゃないか?」

「いや、でも、ヘイオンが一番危険な囮役をやってくれたから勝てたんだし…」

「じゃあ俺が貰うわ」


 俺はガガンの手から宝剣を取り上げた。


「え!?」

「ちょっと!」

「ほらな?俺が貰うと不満が出る。それに、お前も今ガッカリしたろ」

「う…」


 俺は宝剣をガガンに返した。


「せっかく無事にボス倒せたのに仲間割れするのも面倒くさい。お前が持つのが一番丸く収まる」

「いいのか?」

「他の2人が反対しなければな」

「あ、あたしは何もしてないし…別にどっちでも」

「嘘つけ」

「な、何よ!」

「俺が奪ったら『ちょっと!』って言ったじゃねえか」

「言ってないわよ!」

「いや、言ってないは嘘だろ」

「フフッ、私も構わない。剣が折れるほどの活躍もしていないし、ヘイオンにも助けられたからな。どちらかが持つのが良いだろう」

「はい決まり。もう疲れたから早く帰ろうぜ」

「何それ、おじさんみたい」

「あ゛あん!?」

「皆んな…ありがとう!」



▼▼▼▼▼


 こうして俺達の迷宮探索は終わった。


 転送陣で1層に戻ると既に夜になっていたが、事情を知っている冒険者の人が待機していたので、翌日には町に帰ることが出来た。


 学生だけでボスを倒したことは人々の話題になったが、宝剣を手にした勇者に注目が集まったため、巻き込まれただけの一般剣士のことは誰も気にしなかった。


「お兄!」


 学生寮に帰ろうとしたら寮の前で妹に捕まった。


「ただいまー」

「ただいまじゃないよ!お兄無事!?どこも怪我してない!?」

「無事無事。でも疲れたから早く離してくれ」

「うわーん!良かったぁー!お兄まで死んじゃったらどうしようかと思ったよぉー!」

「すまんすまん。でも人目があるから泣くのはやめてくれ」

「お兄の馬鹿ぁー!」

「いや何でだよ」

「もう危ないことしないで…」

「しないしない」


 俺は妹を宥めながら学生寮に入っていった。


 とりあえず、今回の迷宮事件で今年の分のイベントは終わったと思っていいだろう。


 来年まではまた平穏な日々が過ごせる。


 はずだ。

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ハーレムなんて無理だろ。犬ですら多頭飼いキツいんだぞ 犬派兼猫派 @hasky88

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