第3話 2択問題の正答率は体感20%

 探索の結果、やはりここは迷宮10層であることが判明した。


 何故分かったのかといえば、目の前にボス部屋があるからだ。


「ちょっと!何でボス部屋に着いてんのよ!」

「道は皆んなで決めたんだから俺の所為にすんなよ!」

「事前に調べてきたんでしょ!」

「現在地も分かんなかったんだぞ!無茶言うな!」

「まあまあ、2人とも落ち着きなよ」

「そうだぞ。それにこれで少なくとも現在地は分かったはずだろう?」

「ああ、現在地は分かった。…ただ、問題があるとすれば、上層への階段とは完全に逆方向に進んできてしまったってことだな…」

「じゃあまた逆戻りしなきゃいけないってこと!?」


 ここに至るまでに魔物の姿はチラホラ見かけたが、物陰に潜んでやり過ごしたので戦闘にはならなかった。


 しかし、今から逆走して階層の端から端まで行こうと思ったら、今度こそ戦闘は避けられないだろう。


「ちなみに、10層のボスは『一つ目巨人』だ」

「戦うつもり!?勝てるわけないじゃない!」

「俺も無茶だと思うが…」

「そうか!ボス部屋の先には1層への転送陣がある!」


 この転送陣は以前迷宮に入った冒険者が敷設したものだ。


 ボス部屋の魔物はかなり強く、迷宮に入り直す度に相手にしていたら探索が進まないので、通常ボス部屋の先の安全地帯に転送陣が設置される。


 そして、迷宮1層に転送陣があったことは皆んな確認済みである。


「一つ目巨人を倒せればすぐに帰れる…」

「待って、ボス部屋ってボスを倒すまで出られなくなる部屋なんでしょ?き、危険だわ」

「どうする?ガガン」

「な、何で俺に聞くんだ?」

「ボスを倒せるとしたら、お前しかいないからだ」


 一つ目巨人は全長3メートルを超す怪物だ。


 10歳の学生が倒せる魔物ではない。


 それでも、『勇者』ならあるいは…。


「ねえ、やめよう、ガガン。巨人なんて倒せるわけないわ」

「私もそう思う。地道に戻った方が良い」

「……ヘイオンはどう思う?」

「さっき言った通り、俺も無茶だと思ってる。ただ、引き返して上層への階段に向かうのも危険なことに変わりはない」

「……勝てるかな?」

「モンスターハウスの時みたく怯えて震えてたら無理だ。俺達は全滅する。だが、お前がちゃんと戦えるなら、不可能ではない、かもしれない」

「かもしれないって…」

「俺次第か…」

「聞くことないわ!ヘイオンは自分が戦わないからって好き勝手言ってるだけよ!」

「ヒースィ、その言い方は良くない」

「ライ!何でヘイオンの味方するのよ!」

「……行くか」

「ガガン!?」


 ガガンは俺達に向かって頭を下げた。


「皆んなごめん。元は俺が転移罠を踏んだのが原因だ。初めての迷宮で浮かれてたんだ。1層の魔物も弱かったから、調子に乗ってたんだ」

「が、ガガンは悪くないわ!」

「そうだ。罠に気付かなかったのは皆んなの責任だ」

「ヘイオンも巻き込んじゃってごめん」

「まあ…気にするな。俺はたまたま近くにいて巻き込まれただけだからな。俺の運が悪かった」

「皆んなを危険に晒した分、俺は頑張らないといけないと思うんだ。だから、俺が頑張ればボスに勝てるなら、俺は戦いたい」

「が、ガガン…」

「ガガンがそう言うなら、私は信じよう」

「ライ…」

「お前はどうする?ヒースィ」

「…み、皆んな本気?」

「ヒースィ、信じてくれ。俺は今度こそ皆んなを守る。ヒースィには傷一つ付けさせない」

「ガガン…」


 2人はしばらく見つめ合った。


 そして、ヒースィも首を縦に振った。


「よし…皆んな行こう!」



▼▼▼▼▼



 俺達はボス部屋の扉を押し開けた。


 一つ目巨人は部屋の中央で胡座をかいて待ち構えていた。


「まず、俺が出て囮になる。ガガンとライは隙を見て攻撃。ヒースィは後方で怪我人が出るまで待機だ」

「ヘイオン!囮なら俺が…」

「馬鹿か。こういうのは一番弱い奴がやるんだよ。行くぞ!」


 俺が一つ目巨人に向かって走り出すと、巨人は傍に転がしていた棍棒を持って立ち上がった。


「でけえ…!」


 巨人が棍棒を横薙ぎに振るう。


 俺は直進をやめて横っ飛びで逃げた。


(射程の長さが違い過ぎるな)


 俺1人では近づくことも出来ない。


 しかし、こちらは前衛3枚だ。


「うおおおお!!」

「はああああ!!」


 巨人が棍棒を振り切ったところへ、ガガンとライが突っ込んだ。


 巨人はまた棍棒を構えたが、


「ファイアーボール!」


 俺の火球が1つしかない目玉に向かって飛んできたので、それを払うために棍棒を振るった。


「ギガスラッシュ!」

「雷電斬り!」


 ガガンが右足、ライが左足を斬りつける。


 巨人は悲鳴を上げた。


「2人とも退がれ!もう一回俺が隙を作る!」

「分かった!」

「了解!」

「ファイアーボール!」


 今度の火球は巨人の顔に直撃し、巨人のヘイトが再び俺に向く。


「おら、来いよ!クソキモ目玉野郎!でけえだけの雑魚が!ブサイクが場所取ってんじゃねえよ世間様に迷惑だろ邪魔臭え!テメーは一生部屋の隅で縮こまってろ、このカス!」

「口わっる…」


 言葉が通じたかどうかは知らないが、巨人は怒って俺の方へ突っ込んできた。


 縦に振るわれた棍棒は避けやすく、避けざまに腕を斬りつけてやった。


「Gumoooo!!!」

「今だ!」

「はああっ!」


 俺が囮になっている間に背後を取っていた2人が再び巨人の足を攻撃する。


 巨人の足からは大量の血が流れ、巨人は立っていられなくなった。


「退がれ!もう一回だ!」

「うわっ、こっちに倒れてくる!」


 巨人は尻もちをつき、2人は再び距離を取る。


 俺は三度ファイアーボールを放ち、今度も巨人の顔を焼いた。


 『剣士』である俺の魔法なんて大した威力もない。


 しかし、着実にダメージは入っているはずだ。


「行ける!勝てるぞ!」


 しかし、そこで巨人は手に持った棍棒をぶん投げた。


「ライ!伏せろ!」


 棍棒はライの頭上をかすめて行った。


 ギリギリ回避の間に合ったライだが、体勢を崩してその場に転がった。


「ライ!」

「俺が行く!」


 フォローに走る俺の横で、巨人が立ち上がった。


(問題ない。巨人は今足が使えない。距離も十分に離れて…っ!?)


 否。


 十分ではなかった。


 巨人はライに向かって倒れ込んでいったのだ。


 巨人の全長は3メートルを超す。


 腕を伸ばせば5メートル近い。


 ライは倒れていて回避不可能。


 このままでは巨人の手の平に潰されてミンチだ。


「伏せとけ!」


 間一髪のところで、俺はライの前に滑り込んだ。


 横薙ぎに剣を振るい、巨人の薬指と小指を斬り飛ばす。


 巨人の手の平は進路を逸らして、ライのすぐ右にある床を叩き付けるだけに終わった。


「立てるか!」

「ああ!」


 俺はライを起き上がらせて後ろへと退がる。


 巨人は指を失くして呻き声を上げていた。


「ガガン!頭を狙え!」

「うおおおお!!ギガスラァァッシュ!!!」


 無防備な巨人の脳天に勇者の剣が突き刺さった。


 巨人は脳漿をぶち撒けて死んだ。

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