第2話 勇者は子供のうちに始末するべき
この世界には「迷宮」という場所がある。
人里離れた山や森や洞窟のうち、魔物の巣窟になっている場所のことをそう呼ぶ。
一度中に入れば大量の魔物と遭遇する危険区域。
故に、最近までほとんどの迷宮が封鎖されていた。
しかし、飢饉・流行り病と厄災が続き、国が著しく疲弊したため、今年の春先に迷宮は開放された。
迷宮は人の手が入っていないため資源が豊富に残っている。
また、倒した魔物から得られる素材もこの世界では商品として流通している。
リスクは大きいが見返りも大きい。
それが迷宮である。
▼▼▼▼▼
「ハァ…ハァ…もう追ってきてないな…」
「この部屋で少し休もう」
「ライ、大丈夫…?」
「…ああ…すまない…足手まといになって…」
『モンスターハウス』を何とか脱出した俺達は、迷宮を闇雲に走って魔物を撒き、辿り着いた小部屋で休憩を取った。
「で、これからどうする」
「どうするって…とにかく上に行って、迷宮の出口に向かうしかないんじゃない?」
「でも、遭難した時はあんまり動かない方が良いっていうよ。今頃、先生達も探してるだろうし、待っていれば助けがくるかも…」
「うーん、問題は『ここが迷宮の第何層なのか分からない』ってことだな…」
今日、俺達は初めて迷宮に入った。
迷宮攻略は主に冒険者達の仕事であるが、俺達学生も将来的には冒険者になる(者もいる)ので、実地訓練を兼ねて上層の魔物狩りに駆り出されたのだ。
本来なら地下1層で雑魚魔物を狩るだけのはずだったが、ガガンがうっかり転移罠を踏んだ所為でこんな状況に陥ってしまった。
以上、あらすじ終わり。
「ここは多分10層くらいだと思う」
「えっ、何で分かるんだ?」
今いる迷宮は町から最も近い、『東の森の地下迷宮』だ。
迷宮の規模は推定20層。
踏破した者は未だいない。
だが、15層までは探索した冒険者がいる。
「この迷宮は10層までは情報が開示されている。さっきヒュージゴブリンがいたが、あれは10層から出る魔物らしい」
「なるほど。事前にこの迷宮のことを調べてたのか」
「まあ…こんなこともあろうかとってやつだ」
どうせまた何か起こるんだろうと思っていたからな。
「待ってよ、『10層から出る魔物』ってことは10層より深いかもしれないってこと?」
「ああ。でもコボルトみたいな雑魚も混じっていたから、そこまで深い階層でも無いと思う」
「ヘイオン、お前って実は凄い奴だったんだな!さっきも1人で何体も魔物を倒してたし」
「そ、そうね。あたしもヘイオンがあんなに強いとは思わなかったわ」
「あれは俺が強かったんじゃない。お前らが酷過ぎただけだ」
「うっ…」
「な、何よその言い方!」
「特にガガン、お前の動きが一番悪かった。一般職の『剣士』より動きの悪い『勇者』なんて冗談じゃないぞ。ライだってお前を庇った所為でやられたんだからな」
「が、ガガンは悪くないわよ!」
「そうだ…あれは私が未熟だったから…」
「いや、ヘイオンの言う通りだ…。そもそも俺が転移罠に引っ掛からなければ、皆んなを危険に晒すこともなかった」
「全くもってその通りだ」
「ヘイオン!」
まあ、反省しているようだしこの辺にしておくか。
10歳の子供にマウント取っても仕方ないからな。
「話を戻そう。仮にここが迷宮10層だとして。俺は上階へ向かって進んだ方が良いと思う」
「そ、そうだな。10層じゃ助けがいつくるか分からないもんな」
「でも、危なくない?また魔物に囲まれたら…」
普通に考えれば、10歳の学生に迷宮10層の攻略は無理がある。
「だが、俺達は普通のパーティーじゃない。『勇者』と『聖女』と『魔法剣士』がいるんだ。決してやれないことはないと思う」
「自分は入ってないのか…」
「俺はただの『剣士』だぞ。無茶言うな」
「ええ…」
「でも、罠はどうするの?ここには斥候系のジョブがいないわ。また転移罠を踏んだら…」
「それは俺がやる。事前に調べたから罠についてもある程度の知識はある」
「よし!そういうことなら行こう!俺達ならきっと無事に帰れる!」
「待て待て、行くにしてもライの回復を待ってからだ」
「あ、そうか。ごめん…」
「私ならもう大丈夫だ…」
「そんなわけあるか。あれだけ血流したら傷が塞がってもフラフラだろ。干し肉やるから食って安静にしとけ」
「干し肉まであるのか。何か本当に冒険者みたいだな」
「あんたちょっと用意が良過ぎない?あたしにも頂戴」
「ダメだ」
「何でよ!」
「いつ地上に戻れるか分かんねえんだぞ。食料は温存するべきだ」
「ケチ!」
「ケチじゃねえ」
こうして俺達は学生のみのパーティーで迷宮10層の探索に出ることとなった。
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