Afterglow
《🔪》
帰ってきた。オレがここを出る前に起こした癇癪のせいで、部屋の中はバッタバタだ。オレだってこう見えて几帳面な方だ、普段なら気になってしょうがねぇんだろうけど、今はこの粗雑さが痛くて心地いい。
「ねぇ、ダスク、遠慮なんてしなくていいんですよ。いつかの貴方みたいに、私に当たり散らしていいんですよ。私も貴方が欲しいですから」
ベッドの上で、ボタンを外してヤツが誘う。オレはその誘いに乗る。
オマエの白い身体に傷をつけて、腕を縛って、首を絞め上げて。それでも恍惚とした顔で笑うオマエを殴るんだ。
オマエの身体を貪って、血の味に酔いしれて、噛みつくようなキスをする。
ああ、オレの欲望は、オマエへの愛情は、腰を打ち付けることで満たされるような浅はかなモノじゃないのに、このくらいしか、オマエを喰らって、オレのモノにする方法がないんだ。
でもそれだって、埋めちゃくれない。だってそこにあるのはブラックホールみたいなもんだから。
ヤクはいつか切れる。身体を重ねたって、余計虚しさが募るんだ。分かってる、でもその虚しさから逃れたくて、寂しくて、またオマエを求めるんだ。それで、どうにもならないって分かって、毎度絶望するんだ。
その絶望が欲望を駆り立てる。愛したいって。愛されたいって。
生きたい、って。
苦しい。苦しいけど気持ちいい。刹那的なこの快楽に、どうしたって溺れずにはいられないだろ? オマエもそうだろ。笑えよ。喘げよ。もっと震えろよ。
なあ、ファントム。オマエがオレの希望だ。そしてオレの絶望だ。好きだ、好きだ、好きだよ――。
《🌹》
カーテンの合間から差し込む光が、埃のせいでしょうか、ぼんやりとオレンジ色に霞んでいます。
綺麗ですよね、この、えも言われぬあたたかみと、哀愁を含んだ色は。
時は黄昏。私が一番、好きな時間帯です。徐々に忍び寄ってくる薄闇に、残光が呑まれてゆくさまを見つめながら、微睡むのはいいものですよ……もっとも、今は微睡んでなんていられませんけどね。
ああ、ダスク。可愛いダスク……そんなに必死に私の名前を呼んで、そんなに打ちひしがれた顔をしてくれるんですね。
怖いですか。怖いでしょうね。死にたくないでしょうね。ずっと私と一緒にいたいでしょうね。
私だってそうです。でも、終わりがあるからこそ、今この瞬間がより甘美なものになるのも事実です。ええ、嬉しいですよ、私は。手負いの獣のような、貴方の荒々しさが。
ええ、そうですよ。私は貴方のものです。私は貴方の愛と束縛が欲しいんです。そのためなら浮気の真似事くらいしますとも。それに、制裁を受ける私を見て貴方がそんなに心を痛めてくれるのなら、神様万歳ですよ。そう、そうやって貴方はどんどん、私に依存していくんです。
お分かりですかダスク、貴方は――貴方は私のことが好きなんですよ。だって私が、そうなるように仕向けましたからね。貴方は気付いていないでしょうけど、貴方は最初からずっと、私の掌の上なんです。出会った日から、ずっと。
ごめんなさい。私が貴方を壊したんです。こうなることを知りながら。
ああ何て私は罪深いのでしょう! それでも、狂ったように私を求めて、絶望する貴方がどうしようもなく愛しいんです。
ごめんなさい、ダスク。どうぞ私を喰らってください。貴方の絶望も欲望も全部、私にぶつけてください。
さあ、どこまでも、一緒に堕ちましょう。
ああ、本当に可愛い、可愛い私のダスク――。
◇
酷薄な残暉が照らし出す、愛の形。
影の伴わない光があるはずもなく、より深まる闇の中、輝きを増す光に手を伸ばす。
そう、光は闇に。闇は光に。
白は黒に。黒は白に。求め合い、縛り合い、縋り合って犯す、そんな罪の形。
――消えゆく黄昏の光のように、いつか来るその日まで。To be continued🔪🌹
Afterglow 戦ノ白夜 @Ikusano-Byakuya
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