「エッチは大人になってから!」と言ってくる彼女がエロすぎる話
環月紅人
本編(3690文字)
「エッチは大人になってから!」
それが僕と彼女が交際するに当たっての〝条件〟であり、僕の一世一代の告白を受け入れてくれた彼女の返事だった。
だった。……んだけど。
「はやとー、あたしコーラ飲みたい」
「う、うん。待ってて」
ごろごろと寝転がり、マリオメーカーのコース作りに勤しむ彼女の、その余りにもな自然体にまだ慣れない。
実家のような居心地かたをしている。ここ僕の家なのに。
いつもは纏めている髪を降ろし、カチューシャなんかで前髪をあげて、見慣れた学生服と変わったオフな私服は、ちょっとはだけてるのがすっごい慣れない。
なんか僕ものすごいアウェイな感じだ。僕のお家なのに。
「何してるの?」
「なっなんでもない! じゃあ持ってくるから、勝手に弄んないでね」
きっとこれも全部あの条件があるせいだ。そのせいで、でも試されているような気がしてならないんだよなー……。
でも僕は彼女のことが大好きなわけで、もちろん失望されたりとか彼女に嫌われたくはないわけで、でも彼女はどんどん一緒にいるほどこの僕に安心してくれてるのかオープンになっていくわけで。
そっ、それ自体は嬉しいんだけど、でもオープン加減がちょっと刺激的って言うか、警戒一切してないというか、嫌なわけじゃないけど舐められている気がしてしまう。
……誰かが恋愛は惚れた方が負けだと言った。
僕は彼女に負けている気がする。
「あ……ちょっと溢しちゃった……」
三ヶ月。エッチはダメという彼女が警戒心なさすぎて、僕の理性は崩壊しそうです。
◆ ◆ ◆
「ん、ありがとっ」
コーラが並々と注がれたコップを受け取ってえへへーっとはにかむような笑顔で僕にそう言った。
かわいいなぁ。
最近、いろいろ隙がありすぎて見えちゃったりしてドキドキしちゃうけど、こういう笑顔を見せてくれるようになったのは素直に嬉しいし、別な意味でドキドキしてしまう。
……たのしい。
「ステージできたよ」
「え、ほんと? じゃあプレイするね」
おぼんを置き、手渡してくれたニンテンドースイッチを受け取って画面に向き合う。なかなか凶悪なステージを作るから大変なんだよなぁ。彼女、ちょっと意地悪で、隠しブロックとか画面外のドッスンとかいっぱい盛り込んでくるんだ。
「はやく、はやくっ」
「う、うん」
……近いなぁ。
携帯モードで遊んでるから、画面を覗くには仕方ないんだけど、振り向いたら息が掛かっちゃいそうなくらいだ。肩なんかもう擦れ合っちゃってるし、ちょっと目線斜め下にしたら、……やめよう。僕我慢できる気がしない。
上着は襟元が広くないやつを着てほしいと思う。あと厚い生地が良い、たまに透けてるから。
なんて考えていると。
「あっ」
デレッデレデレレ。
「はいだめー。あねね、何回まで死んだら罰ゲームにしようよ」
「えぇ……じゃあ十回」
「長すぎ。自信なさすぎでしょ。もっと大胆にならなきゃ、三回で行こう!」
「短すぎだよ! 君基本的に初見殺しでしょ!」
「いくじなしー。やーいやーい。それでも男かー!」
手を回されてぐわんぐわんと揺すられる。密着しすぎだよ、もう色々と距離感詰めすぎだよ、当たってるよもう!!
あと、なれない甘い匂いが頭をクラクラとさせてくる。
安心はしない。なんかずっと落ち着かなくて、女の子の匂いっていうか、彼女のこの匂いが、もうほんと、毎回死んじゃいそうになる。
「ち、ちかいよ」
「んー?」
それでも男かー!っていうくらいなら、もう少しこう……それはそれで寂しいから言えないけども……。
うぅ。
「じゃ、じゃあ始めるよ」
「うんうんっ。それまでにクリアしたらなんでもしてあげるから」
……ん。
うん? うん。
よし、本気でやろう。
いや別に? うん。罰ゲームが嫌なだけだから。うん。
どうせチラッと考えちゃった事とか、僕には実際にお願いする度胸ないだろし……悲しくなってきた。
とりあえず一番はじめのはてなブロックからは敵しか出てこないので無視。ジャンプする場所は頭上に隠しブロックがないか確認しつつ、前方から巨大キラーが来る可能性に備えておく。
なんてそこそこ快調に進んでいたら。
「はむっ」
「うひゃあぁっ!?」
!?
……!?
信じられない! 卑怯だ! ずるだ!
耳の軟骨のわずかに湿るそこを両手で覆い隠しながら信じられないものを見る眼で彼女を見る。
にししと楽しそうに口元を隠して笑う悪魔がいた。
「ほらマリオマリオ」
「あっ、……あー……」
デレッデレデレレ。
ってそれどころじゃないよ!
うぅー、むずむずする。なんだこれ、なんだこれ、耳噛まれるとなんか、なんかこう、表現できない感じになる!
「ごめんって。もうしないもうしない」
「………」
「ほんとだよ?」
信じられない。うー、なんか、じたばたしたくなる。たまんない感覚だ。
もーやだよー、安心できないいー!
◆ ◆ ◆
二回目はわき腹つつき。三回目は裏の裏の裏を掻いたと思いきやの純粋な凡ミスプレイ。
なんだこれは。
「じゃあ、罰ゲームです」
「はい」
スイッチはひとまず置いておき、向き直ることにします。
正座。粛々と。
……こわいなあなんか!
「眼を瞑って」
「ん」
なんだろうか。彼女のことだから変なことはしてこないと思うけど、んー。緊張する。思えば彼女がこういう事してくるのは初めてだ。
がんばろう。なにがんばるのかわかんないけど。
と。
「口ちょっと突きだしてよ」
「んえっ!?」
どどどどどどどどどどういう意味!?
あ、ああ、あれかな!?
あれなのかな!?
期待しちゃってもいいのかな!?
……き、キス、だよね……?
罰じゃないけど、罰じゃないけど、これって、これって絶対、ど、うぇ、お、わあ……。
「は、はやく!」
「ほほ、ほんとに?」
「やめるよ?」
「ぃや、やっ……ん」
きゅっと強く眼を閉じて。
ちょっと、ちょっとだけ細やかながらに、触れ合う感触を待ってしまって、僕の浅ましい人間性にどこか呆れてる自分もいたりして。
すごく居心地が悪いと思っていても、じっと待ってしまう。
目の前の彼女の輪郭が、眼を瞑っていてもその存在感を強くしていた。
「い、いくよ?」
「う、ん……」
「怒らないでね」
ん? うん。
胸がドキドキしてそれどころじゃない。死んじゃいそうだ、ほんと。僕やばいよ。
ちょっと深呼吸したい! けど、ぅうああああ、すぐ目の前に彼女がいる気がする!
ちぉ、ちょっとだけ、ちょっとだけ眼を開けてみようかな……って思ったけどダメだ、僕にそんな度胸はありましぇん! 噛んだ。
なるべく息を吐かないようにして、彼女に嫌な思いをさせないようにー……歯磨きしたいな今更だけど! でも違ったら恥ずかしいし、自意識過剰に思われるのはイヤだ。
「いくよ?」
「うっ、うん」
息が触れ合う。僕と彼女の間で交じりあって、溶けていく。
――ぴと、となにかが唇に触れて、また少しだけ離れていった。
ちょっと僕は名残惜しくなっちゃって、首を前に出してしまうと、その柔らかい何かが押し付けてくるように再び。
がばっと背中へ回り込んでくる両手に、何かが差し込むように入ってきた!
「んんっ!? むごっ、ぁふ」
んんんんんんんん!!
先端と先端が突っつきあって、でも止まらない。輪郭を撫でて、もっと広く這うように蹂躙して、粘着的に。気持ち悪くなるくらいの気持ちよさを共有して。
密着。密着。密着! くっつきあって、抱き合って、口の中に入って暴れるそれを向かい打つ。絡まり、糸を引いて、息ができない。酸素の欠如。頭が回らなくなってくる。
薄目を開ける。開けて確認したけど、考える頭が、脳みそが直接舐められてるような感覚に、思考がまとまらないなかで、飲み込むように喉の音を鳴らす。
「まっ、ぬぁ、ねぇ……いっ!」
さなか押し倒すように彼女が重心を寄せると、僕は受け止めきれなくてその強い勢いのまま後方へ倒れた。
ゴンとフローリングに僕の頭が叩き付けられると、小さな彼女の「あっ」ていう声が聞こえて、僕の口のなかに侵入していたそれは糸を残して引いていく。
甘いコーラの味がした。
「………」
あ……ふ……。
あ、頭が回らない。
うあああああああ。
恥ずかしい。顔を隠したい。彼女の顔なんて見れないよ。
今ものすごくやばい。本当にやばい。ドキドキしちゃう。
手をばってんにして顔を隠して、深呼吸して。でもその度に先程の彼女のアレの感覚が、明瞭になってしまう。
「は、はやと? ご、ごめんね?」
気まずそうに、にへらぁっと口元をぐにゃぐにゃにしながらも笑みを作る彼女が僕の目元を覗いてくる。
一際大きな息を吐いて、恥ずかしいからちょっと涙を拭いつつ。
「さやかぁ……」
「え……」
あ、あれ……? 妙な反応が予想外で、唐突に怖く感じる。先ほどまでと変わったシーンとした空間に、彼女の様子が気になって、僕はぼやける視界を振り払いながら彼女を見た。
「な、なにそれ……」
僕の上で馬乗りになり、口元を両手で抑えながら、嗜虐的な色に染めた眼で僕をじっと見つめる彼女。
「可愛いこと言わないでよ……」
「ふぇ?」
「きゅんきゅんするじゃん……!」
「うぇふぅっ!?」
服剥がれた! 抱っこされた! 僕のベッドに移動した!
その後めちゃくちゃ……何しちゃったんだろうね僕たち……。
エッチは大人になってから。これは全部間違いだ。
「エッチは大人になってから!」と言ってくる彼女がエロすぎる話 環月紅人 @SoLuna0617
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