この世は事実だけ

@kkawoo

第1話 始まり

『雪が降ってきた。そういえばこの世界に来た時、向こうも冬だったな。今頃向こうはこの世界と同じで冬だろうか?それとも夏だろうか?もうそれもわからない。最初は戻りたいとそう思っていたが、今ではそれを忘れてしまっている自分がいる。それはここに、この世界に置いて行くことのできない思い出、もの、そして、人ができたからだろう。そんな僕の記憶を語ろうと思う、どうか最後まできいていってくれることを願う。そうだな、うん、僕がこの世界に来る少し前から話すことにしよう。』


「ゆき!起きなさい!」

目を開き、毎朝見る光景が目の前に広がる。彼女ができたら毎日が楽しいと聞いていたからこの光景すらも楽しめるのではないかと思っていたがそうではなかったようだ。少し重い体を起こし身支度を整える。階段を降り、リビングに向かうと母が弁当を作ってくれていた。やっと起きたの?という呆れた顔をして、「ん。」とあごで早く朝ごはん食べちゃいなさいとこちらにいってくる。最近はなぜか俺への当たりが強い気がするのだが気のせいだろうか?そんなことを考えながら、昨日の残りの炒飯とスープ、ジャムの塗られたトーストを食べる。気になるだろうがきにすることなかれ、我が母の朝食はいつもこうなのである。今日はスープがあるからまだマシである。先日は白ごはんにジャムの塗られたトーストだけの日があった。いや、うんどうやって食べろというのだろうかと思いながら食した。朝食を食べ終わり、弁当をバックに入れ靴を履き玄関を出る。その時母から、

「ゆき!いってらっしゃい!」

と笑顔で言われれば自然と僕も笑って

「いってきます!」

と言って家を出ていくのだった。

いつもの歩きなれた通学路をヘッドホンで音楽を聴きながら進んでいく。お気に入りは4人組のバンドで、両親が好きだったから子供の時から何気なく聴いていたのだが、今では自分が好きだから聴いている。歌詞が心に響いてくる感じが心地よく、朝からこのバンドの曲を聴いて登校していると、肩を叩かれた。誰だろうと振り返る左の頬に何かが当たった、と同時にまたかとそう思ってしまう。そんなことを思っていると

「おはよう、ゆき。また難しい顔してどうしたの?」

そんな声が聞こえてきた。いや、間違いなくお前のせいで俺はそういう顔をしているんだと思いながら、

「別に、なんでもないよ。」

と答える。この女の子は浅井紫乃といい髪が長く、清楚系に属すると思われる元気な子だ。スポーツが得意だが、勉強はまぁまぁ、人付き合いが上手く友達もそれなりに多い。そんな紫乃は僕の彼女である。一応幼馴染で昔から付き合いがあり、高校に入って僕から告白して付き合うようになった。

「ふーん、そう。」

少し、ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。そんな彼女を見て僕は笑ってしまうのだった。




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