第四十一話 そして彼女たちは最強へ一歩進む

 わけもわからず行使した術により、赤き光柱より現出した存在。


 それは、一言で形容するなら輝く朱色の翼を持つ巨大な鳥のような姿だった。しかし生物ではない。WDやWBのような鋼の躯体を持つ存在だ。術式名からして、呼称するならFBフォーミュラビーストといったところか。


 その鳥型の機体が、すんでのところでシャルの〈ヨロイ〉を掴み、白骨の巨人の攻撃から救っていた。


「シャル! 大丈夫!?」

『う、うん。この子が助けてくれたみたい〜』

「え。ソレと意思疎通できているの?」

『なんとなくだけどね〜』


 驚いた。前世でアタシが呼び出した式神や霊魂と話ができる存在はほとんどいなかった。そこまで強い霊力をシャルが持っているのか、あるいは何か魂の縁があるのか。


 炎の鳥だし、関係はあるのかもしれない。だが考察は後回しだ。今はーーー。


「シャル。お願いがあるの」

『うん〜』


 深呼吸し、息を整える。


「あのデカブツに街や都市を襲わせるわけにはいかないわ。今ここにいて戦えるのはアタシたちだけ……。だからね。力を貸して、シャル。一緒にアイツをぶっ飛ばすわよ!」

『うんっ! その言葉を待ってたの〜!』

【pyuyyyyyyyyyyyyy!】


 アタシとシャルの会話に応じるようにして、炎の鳥が高らかに鳴いた。同時に炎のフィールドが展開され、止むことのない白骨の巨人ザッハークからの攻撃を防ぐ盾となる。


『この子もやる気みたい〜。あっ、そうだ〜。名前はどうしよう?』


 名前? そうね……。見た目は火の鳥。陰陽五行に準えるならば、照応するのは太陽。ならば、必然的に名は決まっている。


「〈朱雀〉、なんてどうかしら?」

『スザクかあ。それなら、スーちゃんってことだね〜!』


 そんな気の抜ける呼び方でいいのかしらとツッコミたくなるけど、まあいいか。とにかく朱雀が力を貸してくれるらしい。


『ほえ? ふんふん……。ハルカ〜、スーちゃんが期待を繋ぐから任せて欲しいって〜。がったい?的なことができるって〜』

「合体ですって?」


 異なる機体同士だが、問題ないだろう。組み換え、束ね、そして手繰る。術式と同じだ。ましてや霊獣と呼ぶべき存在が協力してくれるのなら心強い。それになにより、面白そうだ。


「ぶっつけ本番、上等じゃない! やるわよ、シャル、朱雀!」

『了解〜!』

【pyuy!】


 〈朱雀〉がシャルの〈ヨロイ〉ごと空高く舞い上がる。アタシも〈カロン〉でそこに続く。


 機体同士のマニピュレーターを重ねて上昇の軌道を合わせる。重ねた瞬間に〈朱雀〉側から情報を渡されて、それを元に術式を構成。翼から溢れる紅蓮の炎に、アタシの蒼焔を織り交ぜ、そして術式を練り上げて完成させ、行使する。


「黒き鋼と陽光の炎。交わること無き二条の輝きよ。天幕を覆いし大翼携える紅の霊獣、南を守護せし豊穣の耀鳳の力を借りて、今ここに融け合い新たなる姿へと生まれ変わらん! 霊機合体オン・ヨーガ・プラナ・ソワカ!」

『スーちゃん、やるよ〜!』


 二色の螺旋が渦巻き連なる。〈カロン〉の背に〈朱雀〉が取りつき、その爪を肩部ジョイントとして接続完了。さらに物質再構成の術式の効果で〈ヨロイ〉のパーツが、四肢を覆うアーマーと四門の砲塔へと変形し、〈カロン〉の全身に合体していく。


 WD《ウェポンドール》に共通する箱のような形のコクピットブロックが、アタシの背中側ハッチとドッキングして、シャルがそこに滑り込んで完了。


 顕現するのは、大翼をはためかせながら天上より矢をつがえる霊機。大いなる紅蓮に機体を包む破魔の狩人。


「『完成―――、朱焔霊機しゅえんれいき〈カロン=フェニクスアヴァターラ〉ッ!!』」

[どういう冗談だ、それは……!?]


 冗談もなにも大真面目だ。


 これこそが、二つの異なる機体を霊獣を媒介として融合させた機体、陰陽霊機。この世界風に分類するならばF×Dフォーミュラクロスドミネイターといったところか。たった今考えた名称だけど。


「やるわよ、シャル!」

「うんっ!」


 変身した〈カロン〉の全身からスラスターを噴かせて、炎の尾を引きながら空高く上昇。大地を踏み荒らす白骨の巨人を睥睨し、その巨体に照準を合わせる。


「弾は気にしないでねハルカ〜。どんどん撃っちゃって〜!」

「了解!」


 両腕に装着されたロングライフルと、両肩から前に突き出した大口径キャノンが矢継ぎ早に火を吹く。それは文字通り灼熱の熱線となって〈ザッハーク〉に突き刺さり、闇の瘴気ごと装甲を焼き穿った。


 驚くべきことにその一発一発が、〈カロン〉の必殺技である“天ノ逆鉾アース=カロン” と同等の威力を持っているようで、巨人の悲鳴にも似た咆哮が天地を揺るがす。


[馬鹿な……、なんだ、なんなんだこの出鱈目な火力は……! 早く撃ち落とせ〈ザッハーク〉!]


 存分に驚いてもらおう。これこそ五行の応用。全てを塗り潰す陰の属性を持つアタシの魂と、火の属性を持つシャルの魂を響き合わせた結実。如何なる防御すら貫く天よりの槍。


「まだまだいくわよ!」

「気力全開だよ~!」


 〈カロン〉の背から【翼鱗フェザースケイル】が射出され、そこに〈スザク〉の翼から剥離した炎が宿る。矢尻のような形となった遠隔機動砲塔が、縦横無尽に宙を舞い、巨体へ狙いを定めた。


「合わせて、シャル!」

「了解〜!」


 エネルギーが充填された砲口に瞬くのは紅の耀ひかり


「「穿て! “焔雨ブレイズ・レイン”!!」」


 圧倒的な密度で発射した燃え上がるマナ粒子の弾幕が、こちらに迫り来る巨人の手、無数の白骨の槍、そこに胎動する闇すらぶち抜いて焼き尽くした。


[く、こうなれば……]

「そろそろ諦めなさい。もうアンタに勝ち目なんてないわよ」

[黙れだまれ、ダマレ! 図に乗るなよ竜の巫女。貴様も、この歪んだ地も、傲慢なる都も一切合切消し飛ばしてくれる! 〈ブラックキャット〉ォ!!]


 ローブ姿の怪人の呼びかけに応じて、黒い異形のWDがその影から召喚される。それだけでなく、怪人が乗り込んだかと思えば、高く跳び上がって〈ザッハーク〉の頭部付近に着地した。


「何する気?」

[こうするのさ。よく見ておけよイザナ、龍の巫女。これが “ボク” の覚悟。この世を壊すまで、決して止まらぬ怨嗟の闇だ!!]


 〈ザッハーク〉の頭部付近の装甲が開く。それはまるであばら骨のように裂けて黒いWDを包み込み、受け入れた。WDの下半身部分が巨人の頭蓋と一体化して接続される。


 闇の瘴気が一気に増幅し、一段上のプレッシャーが大気を震わせていく。アレが敵の決戦形態というわけか。


「そっちも合体で勝負するっていうのね。なら、決着をつけてやる!」


 きっと次が互いに最後の一撃となるのだろう。大きく開いた髑髏どくろの口腔にドス黒いマナが凝集され、暗黒のエネルギー球が発生していく。


 こちらも機体の全身から全ての銃口と砲塔にマナを回し、翼から吹き荒れる紅蓮のオーラによるバーニアで反動を制御、一撃必殺のトリガーに指をかける。


「ハルカ〜! ありったけを全部、持っていってぇえええええええええええ!」


 後部座席に座るシャルの裂帛の叫びと共に、燃えたぎる “炎” のマナが彼女の握る操縦桿を伝って機体の隅々へ供給されていく。その全ての流れを捉え、機体前面に展開した円状の術式陣へ束ねることで、両腕・両翼の砲口を起点とした術式陣の真ん中に “炎” の矢じりを装填するに至る。


「受け取ったわよシャル! 術式構築、仮想バレル構築……。―――第五門から第九門へ到天。其は必勝を与う灼耀しゃくようの槍、切り拓く大翼の羽ばたき!」

[目障りな仲間もろとも沈め! 冥府の闇、光すら逃れ得ぬ暗黒の嘆きにて!!]


 〈ザッハーク〉が先手を取り、限界まで圧縮されたマナのエネルギー球が放たれる。迫りくるのは掠っただけで大地を侵食し崩壊させるくろい太陽。アタシたちの後ろには街が、王都が在る。


 ここで負けるにはいかない!


想いよ、新たに燃え上がれオン・ジャマダグニ・ナヴァ・ソワカ!! “陽神求連緻グングニール=カロン”ッッッ!!!」


 闇すら貫くほどの熱量をただ一点に、ただ一撃に込める。高速で廻る四肢の駆動炉がマナを滾らせ、解き放つのは燃えるような萌黄色サンライトハートに染め上げられた奔流。万象を焼く槍が、終わりの闇に触れ、そして。


[馬鹿、な。なぜ、どうして……っ]


 闇が弾け、が輝く。威力を落とすことなく真っ直ぐ駆け抜けた炎槍が、白亜の巨人を真正面から撃ち抜いた。


「当然でしょ。アタシは一人じゃない。シャルが横にいてくれる。それだけでなんにだって勝てるわよ!」

「そう、だよ……私たちは二人で『最強』なんだから……!」


 死力を尽くしたシャルの息も絶え絶えな声が、だけど力強く胸を打つ。その言葉に後押され、トドメの一撃とばかりに奔流の槍を押し込んだ。


【Oooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!】


 無限の “炎” をその身に浴びた白亜の巨人は、拮抗したかに見えたのも束の間、巨躯の内から連鎖的に爆発を起こして、断末魔とともに焼け崩れていく。そうして、今度こそその動きを完全に止めたのだった。

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陰陽霊機 〜最強女陰陽師は転生して最強ロボットと共に無双する〜 藤平クレハル @Ikali7744

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