文章を推敲する

ここからは、文章構造の推敲でございます。文章を整理するのと推敲するのは、分けて考えたほうが良いでしょうね。整理するの方は、文章の構造を考え、情報の過不足を考えること。推敲はそれが出来た上で、さらに良い表現にならないかを考えること、でございます。


コトバンクを引き写しにしますと推敲とは、『唐の詩人賈島が「僧推月下門」の句を作ったが、「おす」を「たたく」に改めた方がよいかどうかに苦慮して、韓愈に問い「敲」に決したという故事から』でございます。門を推すと門を敲くでは、そもそも内容が違いますね。


整理・推敲・校正をゴッチャにする人がいますが、これは別に考えるべきでしょう。


情報としては「夜に僧侶がお寺に尋ねてきた」です。朝でも昼でもなく、夜に尋ねてきた。尋ねてきたのはトイレを借りに来たのでもなければ、禅問答をふっかけに来たのでもなく、その寺に泊めてもらいたくて。これが整理できた上で、門を推くか敲すかは、推敲です。校正は、推を堆に書き間違っていないか、誤字脱字などのチェックです。整理と推敲、推敲と校正をゴッチャにしては、議論が混乱します。


■⑤文章構造の推敲■

例えば「ブスだが性格は良い」とか「見た目はグロいが味はいい」とかと同じで、最初のマイナスの印象が、プラスにひっくり返った構造の文章。同じ情報量でも「性格は良いがブスだ」とか「味はいいが見た目がグロい」では、強調したい部分が異なります。


例文では「快適な夜を過ごせた」が一番言いたいことでございます。これを強調するためには、ホテルのマイナス・ポイントを前半にまとめたほうが、読者も読みやすいです。元の文章を分析すると、プラス評価の描写とマイナス評価の描写が、不規則に並んでる感じがして、バラバラな感じがしませんか? 以下にプラス・中立・マイナスなポイントを、書き出しますね。


 ・札幌のホテルにチェックインした。→中立

 ・駅前に位置し、→プラス

 ・観光地へのアクセスはいい。→プラス

 ・1泊4000円の安宿で、→マイナス

 ・部屋にミネラルウォーターも置いてなかったが、→マイナス

 ・快適な夜を過ごせた。→プラス



■⑥ブロックの整理■

「ブスだが性格は良い」とか「見た目はグロいが味はいい」タイプの文章にするため、マイナス評価を中立の状況描写の直後にまとめて、文章のブロックを整理してみみましょうか。こんな感じになります。


→札幌のホテルにチェックインした。1泊4000円の安宿で、部屋にミネラルウォーターも置いてなかったが、駅前に位置し、観光地へのアクセスはいい。快適な夜を過ごせた。



■⑦句点を整理する■

構造的にはだいぶまとまったのですが……。ブロックを入れ替えただけなので、文章の区切りの長短がバラバラで、読点も多くウザい感じがします。そこで読点を整理してみましょう。


→札幌のホテルにチェックインした。1泊4000円の安宿で部屋にミネラルウォーターも置いてなかったが、駅前に位置し観光地へのアクセスはいい。快適な夜を過ごせた。



■⑧接続詞を工夫す■

ここで「安宿で」を「安宿なので」に、「駅前に位置し」を「駅前ゆえに」と変更してみます。なので・だから・ゆえになどの接続詞で、前後の文章をつないであげたほうが、原因と結果の因果関係が明確になり、読者はわかりやすいのです。


ただし、同じ言葉を近い位置で連発すると、稚拙に見えやすいので。その場合、別の言葉に置き換えたほうが無難ではございます。


→札幌のホテルにチェックインした。1泊4000円の安宿なので部屋にミネラルウォーターも置いてなかったが、駅前ゆえに観光地へのアクセスはいい。快適な夜を過ごせた。



■⑨さらに圧縮する■

これで79文字になりました。元が93文字なので14文字、約15%の圧縮に成功しました。ここで妥協せずに、さらに圧縮を試みます。

「部屋にミネラルウォーターも置いてなかったが」を「ミネラルウォーターも部屋になかったが」に修正。これで76文字、19%の圧縮です。

「部屋に」の位置を「なかった」に近づけることで、文章の主語と述語がスッキリし、理解しやすいです。


→札幌のホテルにチェックインした。1泊4000円の安宿なのでミネラルウォーターも部屋になかったが、駅前ゆえに観光地へのアクセスはいい。快適な夜を過ごせた。



■⑩流線型に整える■

⑨の修正文を、句読点ごとに切り分けると、こんな文字数になります。

後半に行くほど文章が短くなり、流線型になります。視覚的な作用って、軽視されがちですが。漫画でも小説でも、こういう視覚的な部分に注意を払うと、読みやすくなるような気がします。


 ・札幌のホテルにチェックインした。→16文字

 ・1泊4000円の安宿なのでミネラルウォーターも部屋になかったが、→32文字

 ・駅前ゆえに観光地へのアクセスはいい。→18文字

 ・快適な夜を過ごせた。→10文字



■⑪スピード感重視■

⑩の修正文を数えてみたら、ほぼ2対4対2対1の文のブロックの長さになっています。

もしもカクヨムのように、ルビ付きの文章が可能な媒体ならば、ミネラルウォーターをMWとかに略し、ルビを振り、さらに短くしたいところでございます。

例文としてではなく、自分の文章として自由に書くのならば、スピード感重視でこんな感じになりましょうか?


→札幌のホテルに到着。1泊4000円の安宿なんで部屋にはMWなしだが、駅前ゆえに観光地へのアクセス良好。快適な夜だった。


これで59文字、63%に圧縮できました。それでも情報量としては、最初の文章からほとんど損なっていないはずです。カクヨムのルビ機能を最大限に使うと、93文字が49文字まで圧縮できます。52.6%です。


→札幌の安宿ホテル到着。1泊4千円で部屋には鉱泉水ミネラルウォーターなしだが、駅前ゆえに観光地への接続アクセス良好。快適な夜だった。


ただし、ルビの多様は、うるさい感じにもなります。上手く使えば、それが個性にもなります。これをさらに50%以下、46文字に圧縮できるか、チャレンジしてみましょう。これが今回の遺題ということで。


■あとがきとして■


文章が上手いとはあまり言われない筆者でも、推敲にはこの程度の手間はかけているんでございますよ(ただし原稿料が発生するもの限定)。

もちろん、今回紹介したのは初歩的なものですので。興味がある方は、拙著『MANZEMI文章表現講座①: ニュアンスを伝える・感じる・創る』をAmazonで検索してみてください。

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文章の整理と推敲の基本 篁千夏 @chinatsu_takamura

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