明日(大好きだった幼馴染の妹との)結婚報告に行く

 明日結婚の報告に行く。

 夜中に蘭子が起きたのが気配で分かった。

 慌てた様な勢いで玄関に向かい、俺の靴の有無と玄関の施錠がなされているのかを確認した後リビングに戻り、その後ゆっくりとベランダに顔を出した。


「あっ、またコソッと煙草吸ってる!子作りに向けてやめてって言ってるでしょう」

「分かった。これを最後の一本にするよ。じゃあこいつらの処分は任せる」


 腰に手を当ててぷりぷりと怒る蘭子の姿は可愛くて思わず笑いが溢れそうになった。

 俺は煙草とライターを口を尖らしてる蘭子に手渡した。

 蘭子本人は気付いていない様だから黙っているが蘭子の寝起きにする行動パターンは決まっていた。

 起きて最初に俺の存在を確認する。そして俺の姿が見当たらないとどこかに行ってしまったのではないかと玄関の靴、施錠を確認。その後、ゆっくりと家の中を捜索する。

 未だに俺が自殺するのではないか、どこか遠くへ行くのではないか、そう無自覚に心配させているのが心苦しかった。

 もちろん俺にそんな気は全く無く、心配し過ぎだと言いたい。


 蘭子が家出したと告げ、部屋に押し掛けてきた時は驚いたが、それも自分が見ていない時にふらっと悟史がどこか消えてしまわないかと心配なゆえの行動だった。


 蘭子本人が自覚していないルーティンを目にする度に愛されていると実感させられた。

 何も持っていない俺に出来るのは与えられた以上の愛を蘭子に返す事だけ。


「蘭子、愛してるよ。いつもありがとう、これからもずっと側にいて欲しい」

「えへへ、私もだよ。悟史、愛してるわよ。それじゃあ、身体で示してもらいましょうか!本番に向けて早く感じられる様に練習始めるわよ」

「張り切りすぎは身体に毒だぞ」

「えへへ、一緒に頑張ろうね」


 蘭子を抱き抱えて寝室に戻った。

 蘭子をベッドに優しく降ろし、唇にゆっくりと口づけをすると、蘭子が腕を俺の頭の後ろに回して抱きしめた。


「ふふ、キスって何度しても幸せな気持ちになれるね」

「俺もだよ」

「そんな事言ってると食べちゃうわよ」


 蘭子が顔に当てていた俺の右手を取り中指をペロリと舐めると、他の指も舐め出した。



 蘭子に計画書を提示されたのは蘭子の誕生日三ヶ月前だった。

 男として責任を果たす。好きな女と結婚して幸せにする。それは当然の事だが当時も今も起業の準備でバタバタしていた。

 無事に起業出来るかもわからない。起業出来たとしても果たして存続可能なのか、いつまで存続可能なのかも見通しがついていない。社会情勢の変化なんてあっという間に変わってしまう。油断していると取り残されてしまう。

 そんなリスクだらけの状況に、俺のようなどうしようもない奴を慕ってくれ、愛してくれる蘭子を巻き込みたくない。

 万が一、起業後に倒産となると、下手すると借金まみれになる事もある。それから蘭子を守る為に離婚しても、まだ若いのに蘭子の経歴にバツイチがついてしまう。それなら状況が落ち着くまで結婚するのは引き伸ばしておきたい。それが偽らざる本音だった。


 計画書に書かれていたのは

 ・起業後の然るべきタイミングでの妊活開始(目標は三ヶ月後)

 起業前のバタバタしている時期は我慢してあげる

 ・起業前に入籍

 夫婦は困難も一蓮托生だから逃げるな

 ・蘭子二十歳の誕生日に初夜を迎える事

 絶対に譲れない一線

 ・誕生日三ヶ月前から初夜、妊活に向けて訓練開始

 お互いに初めて同士だから訓練は必要



『多分初めてだから痛みがある。それは仕方ないし我慢する。でも、それをトラウマに情交を避けるようになるのは違うと思う。だから早く気持ち良くなれる様に一杯練習しようね』

 そうして蘭子指導の元に蘭子の性感開発計画はスタートしたのだった。



 ***



 二十歳の誕生日に一つに結ばれる。それはずっと前からの確約で間違いない。問題はその後だ。

 何度求婚しても悟史は頷かない。それこそ何度も何度も求婚した。それでも悟史の意志は変わらなかった。

 悟史の意志の強いのはずっと前から知っている、それこそ、その意志の強さが裏目に出た結果、姉から振られたとも言えた。

 子供の頃に大人とした約束"溺れてる姉を救ったヒーロー"を名乗らない事。それを守った結果、姉は他の男を選んだのだ。

 実家を出て悟史の部屋に押し掛けて、一緒に住む様になっても悟史は私に手を出さなかった。どれだけ挑発しても手を出さなかった。

 将来、私が気変わりして他の男を好きになるかもしれないと変なところに気をつかっているからだ。

 誓って言うが私が悟史以外の男を好きになるわけがない。当時5歳といえ立派な女の子だ。恋に落ちた瞬間の事は今でも鮮明に思い出せる。

 溺れた姉を救い力尽きて池に沈んでいく最中なのに悟史の顔は満足した笑顔だったのだ。

 その笑顔を見た瞬間に私は恋に落ちたのだ。


 私は悟史を頷かせる為にありとあらゆる手段を使った。

 ブラチラから始まり、パンチラ、水着、セクシーなランジェリー、混浴、夜這い。

 男性不能とかそういうこともなく、悟史がビンビンに私を感じてくれている事は分かった。そして信じられない程の自制心で自分を抑えている事も分かった。

 悟史が私に興奮してくれていると感じる度に身体の芯が疼くのを感じて、実は私もエッチだったんだとわからされた。

 頑張った甲斐あって、毎晩一緒に寝る事と二十歳になったら結ばれる事を悟史に約束させた。

 毎晩手を繋いで眠りにつく幸せ。子供が生まれたらおそらく無理だろうから今のうちに堪能しておく。


 それでも私からの求婚に悟史が頷く事はなかった。

 男なら腹括りなさいよ!っと玉を握ろうとしたらビンビンの悟史自身を間違って握ったのは内緒。めちゃくちゃ硬かったのも内緒。あんなのが私の中に入るのか不安になったのも内緒。

 悟史は今起業中。ITベンチャー企業を立ち上げている最中だ。上手くいけば社長だが失敗すれば無傷というわけにはいかない。

 今ならまだ同居人、もしくは同居している恋人で済むが結婚すれば影響は私にまで及ぶ。悟史はそれを心配しているのだ。

 苦楽を共にする。それこそが夫婦の醍醐味。失敗したら離れて、成功したら甘い蜜だけ啜る、そんな女だと思われているなら悲しくなる。

 勿論悟史は純粋に私の事を考えて出した結論だというのは知っているけれど。

 身体の虜にして求婚に承諾させる!

 私は新たに決意を固めるのであった。



 ***



 抱き合う行為は子作りだけの為の行為ではない。

 もちろん快楽を貪るためだけのものでもない。

 二人でコミニュケーションを取る手段の一つでもある。

 それらのバランスが少しでも狂うと歪な関係が出来上がってしまう。

 己のすべてを曝け出し愛を語り合うのだ。


「さあ、観念して諦めなさい」

「そうは言っても少し恥ずかしいよ。蘭子は恥ずかしくないの?」

「全然。全く。最愛の人に見せるのに恥ずかしいとかそんな感覚ないわよ。それとも私の身体、みっともない?」

「素敵だよ、とっても素敵だ。素敵すぎて俺の息子がみっともない事になってる」

「私の身体を見て興奮してくれてるなら光栄な事だわ。諦めて隠してる手を離しなさい」


 二人とも初心者である。

 なにも慌てる必要はない。

 二人のペースで、二人で心を合わせて、進めていけばいい。

 二人の中に上も下もない。

 焦って誰かに学びに行く必要もない。

 慌てる必要はない。

 そうして、二人の練習初日は始まった。


「初めては痛いって言うじゃない?」

「そういう話は聞くね」

「痛くない様に出来る?」

「した事ないから分からないよ」

「どこかで勉強するとか、試して来るとか?」

「そんなのしたくない、というか、行けというのか?俺は嫌だぞ」

「私だって嫌よ。変な病気うつされたらどうするのよ」

「そんな話しじゃ――」

「もちろん、悟史を他の女に指一本触れさせたくないからよ。私が気持ち良くなるまで他の男で練習して来るって言ったらどうするの?」

「他の男がいいなら、それで――」

「しないわよ、そんな事!例え話なんだから本気にしないの。それに止めなさいよ!」


 本気で叩く蘭子のパンチは裸の悟史にとってはかなり痛かった。


「とにかく気持ち良くなるまでこなすしかないみたいよ、回数」

「――どれくらい?」

「人によるから分からないわよ」

「そうなんだ?」

「私は感度良いから早いんじゃないかな?」

「なっ!?」

「あっ、誤解しないでよ。悟史を思って一人エッチしてた時の話よ。悟史の事を考えて触ってるとすぐに気持ち良くなっちゃうから、本番も大丈夫かもよ」


 そして、蘭子の指導の下に蘭子の性感帯及びそれに触れる強さなどを徹底的に教え込まれる悟史であった。


「とにかく受胎するまではひたすら悟史に頑張って貰うからね♡問題は私が痛がってたり嫌がってたらナイーブな悟史は欲情できないと思うの、いくら私がセクシーだとしても」

「そんな事はないぞ」

「えっ?実はむっつりスケベだったんだ?」

「否定はしないけど、ひどい言い方だな」

「まあ、そんなんだから、悟史には子作り本番までに私がエッチで気持ち良くなるまで付き合って貰うからね。それとも一人で器具相手に頑張れって言うの?」

「いや、そんな事はない。頑張らせて貰う。こちらこそ是非」

「うんうん、素直でよろしい」



 ***



「悟史、一つだけ約束して。絶対に途中でやめないで頂戴。私初めてだからきっと痛がるだろし、訳が分からなくなって『やめてくれ』って言うかもしれない。それでもやめないで。絶対にやめないで。途中で止めるのは優しさなんかじゃないからね。私をきっちりと"悟史だけの女"にして頂戴」

「分かったよ、蘭子」

「愛してるわよ、悟史」



 ***



 夜中に目を覚ました蘭子は隣にいるはずの悟史姿を確認したがいなかった。

 それでも今の蘭子は慌てない。悟史がどこにいるか知っているからだ。

 ベビーベットに近づくと赤ん坊を見つめていた悟史が顔を上げた。

「ああ、蘭子か。起こしちゃった?」

「いいえ、ちょっと目が覚めただけよ」

「なら良かった」

「穴が開くほど見つめたって、どこにも行かないわよ」

「まだ実感湧いていないんだよ。こんな可愛い子が僕の子供だなんて、夢みたいだ。僕が父親だよ」

「あらあら、しっかりしてくださいよ、パパ。親バカ全開で早くも嫁には行かさない!って言い出しそうだわ」

「そんな事ないよ。一緒について行くだけだから」

「同じ事よ。それより――」

「それより?」

「産後のケアもバッチリで私は準備万全よ」

「万全?」

「そう準備万全。全力で愛してくれても大丈夫よ、旦那様♡」

「急がなくったって、ゆっくり身体を回復させればいいんだよ」

「だって悟史の横顔見てたら早く次の子供欲しくなっちゃった。『パパ』にはしてあげたから次は『オヤジ』になってもらわなくちゃ」

「『オヤジ』になる事は確定?」

「うん、『オヤジ』になるまで産んであげる。それくらいの甲斐性はあるでしょう、旦那様?」


 妖艶に笑うと蘭子は唇の側をペロリと舐めた。

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大好きだった幼馴染の妹と結婚する 青空のら @aozoranora

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