第3話 妻の巻きずし

 母の巻きずしの話、特に小学校1年生の時、遠足のお弁当で食べた巻きずしの味は忘れられないと妻に語った。長男が小学校に上がった最初の遠足、妻は前夜から巻きずし作りに奮闘、甲斐あって出来上がり、食べると母には到底及ばないが、中々の味だった。弁当箱に、紅生姜も添えて、リュックサックに入れた。

 息子が帰って来るやいなや、「どうだった?お弁当美味しかった?」と訊く。息子半べそで「ばらけてしまって、巻きずしではなかった。食べたけど・・」と答える。

子供のリュックの中では激しく揺らされ、解けたのだろう。「みんなちゃんとしてたよ、恥ずかしかったよ」と云うと、妻、「ばら寿司と思えば、何にも恥ずかしくはないよ」と宣う。


 それから、妻は巻きずしを作らなくなった。子供の遠足にはサンドイッチを持たせた。卵サンドにカツサンド(カツも家で揚げた)、野菜サンドとカラフルに、子供も「ばら寿司」よりこちらの方がいいらしい。

 巻きずしが食べたいと私が云うと、その日の夕食に出て来た。稲荷とセットの奴が、スーパーの容器のママ、食卓に置かれた。お椀には永谷園のお吸い物が袋のママ。私はそれから、巻きずしのマも云わなくなった。

 

 ある日、末の娘が「○○さんちで、海苔巻きのお寿司よばれたの、美味しかったよ」と云った。「そう、お家でも作ろうね。お寿司パーテイしましょうね」と妻が答えた。「巻きずしが食える!」と思った。

 暫くして、お寿司パーテイが我が家で催された。木桶にすし飯、大皿に具材が乗せられている。切り身のマグロ、イカ、卵焼き、納豆に、ツナ、カイワレ、紅生姜もあった。キムチもあった。手巻きずしパーティーであった。自分で巻いて食べる。子供たちは楽しそうにワイワイ、ガヤガヤ。妻も子供たちの笑顔を見て嬉しそう。たしかに「巻きずし」には違いない。しかし、ツナにマヨネーズが寿司と云っていいのだろうか?複雑な思いで手巻きを私は食べた。

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母の巻きずし(食べ物随筆) 北風 嵐 @masaru2355

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