異世界転生のキホン

新巻へもん

とても大事な内容

 やあ。

 いきなりフレンドリーに話しかけられて驚いているかい?

 お前誰だって思っているだろうね。

 それよりもだ。

 君は今さっき死んだ。死にたてのほやほや。見下ろせばまさにフレッシュfreshfleshが転がっているのが見えるはずだ。

 つまらないダジャレを言うなって?

 いやあ、ショックを受けているかと思って和ませてあげようと思ったんだ。

 さて、話を進めようか。

 この際、君の死因はどうでもいい。もう後戻りはできないのだから。

 それで、もうすぐ、異世界の神がスカウトに来ると思う。だから、その時のポイントを教授してあげよう。

 名付けて完全異世界転生マニュアル。

 なんでそんなことが分かるかって?

 私が君の先輩だからだ。

 一応勇者というのをやっていた。

 お、反応が変わったね。

 まず、じゃあ勇者というものについての幻想を砕いておこうか。

 楽じゃないよ。

 ぶっちゃけ、完全歩合制の非正規労働者だから。

 しかも、常に最前線で全体の戦況なんて見えない状況で戦わされるので、ときどき、自分が不在の場所ででかい被害が出たりするわけよ。

 そうなるとどうなると思う?

 恨まれるんだぜ。必要なときに居ない使えねえ奴って。

 まあそういう時は気にすんな。活躍できた場所でなら、それなりに感謝されるから。そこは割り切り大事。さもないと過労死すっからね。労働基準監督署とか無いので。異世界で過労死とか笑えないだろ。

 で、一番大事なポイントを言うぜ。

 転生後の世界は絶対に多神教のところに限る。

 神様が現れたら、最初に聞け。

「恐れ入りますが、あなた様は唯一にして至高な存在であられますか」

 ってな感じで丁寧に質問するんだ。

 返事が肯定だったら、ご愁傷様だ。まあ、頑張ってくれ。

 それなりに虚栄心や自己顕示欲は満たされるから。まあ、今までと比べれば良いんじゃねえの。だけど、期待してんだろ。エッチでハーレムな展開。だが、それはないんだなあ。

 まあ、そういう世界だと、まず婚前交渉とか石投げられるぞ。お前と関係持った相手が。

 魔王に篭絡されて堕落したとか烙印を押されて火あぶり待ったなし。

 まあ、勇者のお前に遠慮して、陰々鬱々としたかび臭い修道院で懺悔の日々を送ることを条件に助命はされるだろうけどな。罪悪感半端ないぞ。もう二度とお前と関係持とうというのも居ないくなるし。

 ハーレムは諦める。世界で一番の美少女と結婚出来ればいい?

 ははっ。分かってねえなあ。

 頑張って活躍しても結婚してもらえないのかって? そうじゃないよ。真剣に求婚すればまあ承諾はしてくれるんじゃないかな。

 だけど、結婚したってやりたい時には出来ないんだよねえ。聖なる祝日は、信仰に捧げる日だから当然ダメ。他の日もなんかの数字が付く日は淫らな感情を刺激するとか適当な理由で禁止。なんだよ数値フェチかよって怒りが湧くこと請け合いだぞ。

 で、やれるのは月に一度ぐらいじゃねえか。

 それでもいい?

 それまで我慢する?

 なるほど。では教えてやるよ。

 期待に胸を膨らませて、新妻と愛を交わそうとする。

 残念だが、そこには甘美さなんて顕微鏡で探してもないぞ。

 どんだけ綺麗な顔をしてようが、蕩けるような声してようが、すんげえおっぱい持ってようが関係なし。

 お前の愛しい奥さんはな、致すときは服を着たまま横たわっている。

 でな、股のところにだけ切れ込みがあるんだわ。そこから出し入れするだけ。奥さんは微動だにしないし、一切声も発しない。

 キスもできないし、手でどこかに触れるのも禁止、体位も固定だからね。

 子作りの為に仕方なくする行為だから、長々とするのもダメ。早ければ早いほどいい。そこは自信があるって? ああ、聞かなかったことにするよ。

 なんの罰ゲームかと思うだろ。

 大体な、唯一にして至高の存在が放置する魔王が居るんだぜ。

 人類には常に試練と努力が必要だからとかいう真面目な神様なんだ。快楽なんか目の敵にしているに決まってるだろ?

 そうじゃなくて、放置せざるを得ないというなら、最悪だ。だって、魔王の方が強いってことだからさ。神様でも勝てない相手を神様が自由に連れて来れる人間が倒せるわけねえだろ。

 その点、多神教なら、神様にも得意不得意がある。戦いの神も、恋愛の神もいるんだ。異世界転生を司る神様が魔王より強くなくても矛盾はない。

 転生時のチートの有無、軽重なんて些細なことさ。ハーレムにはな。

 君の努力次第だ。

 おっと、そろそろ時間のようだ。

 それじゃあ、転生ライフをエンジョイしてくれ。

 じゃあな。


 ***


「ということで宣伝しておきましたから」

「ありがとう」

「まあ、神様が多いと権限も分割するんで、凄いチート能力付与なんて無理ですからね」

「最近は勧誘苦戦していたので助かるわ。チート無いならいいです、このまま死にますって言われることも多くて。今度ゆっくりお礼するわね」

「お役に立てて光栄です」

 ま、転生予定者には言わなかったけど、多神教なら神様も手の届かない存在じゃないってところもいいよな。

 愛と美も司る女神に頭をさげながら、お礼の内容に俺は期待もろもろを膨らませるのだった。

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