第8話 救援
軋み音を出しながら急旋回する武蔵の後ろで、急旋回時の大きな波を横っ腹に受けたグロワース艦が横転、轟沈した。
「次、行きますよっ」梅川航海士は完全に自分の世界にはいってしまったようだ。
「ハイ。参りましょう、どんどん参りましょう。」艦長は相変わらずケラケラ笑っている。
続けて次のグロワース艦も横転、轟沈。
「敵艦隊、レーダー反応無し。全て轟沈! 護衛艦「あけぼの」、健在デスッ」」ミミがモニターから顔を上げて上擦った声で報告した。
「あら、もうお仕舞ですの? わたくしの艦隊に手を出していらっしゃったお相手が、この程度だったとは。これではちっともわたくしの気持ちが収まりませんわ。 まぁ、仕方がありません。武蔵、戦闘態勢解除、核融合炉定格運転モードへ移行、スラスター停止、両舷停止して下さい。」
艦長は指示し終えると、再び艦橋最前部に立ち、帯刀していた菊花紋章の長剣を脱刀した。
炎のような灼眼が吸い込まれそうな大きな澄んだ黒い瞳に戻り、普段の艦長、いや、生徒会長、富士宮帆華に戻った。
「少しは武蔵の性能テストになったようですわね。皆様、お疲れ様でございました。各部、状況報告、損害報告をお願い致します。」
「えぇ? 性能テストで、敵艦全艦轟沈でスカ…無茶苦茶デス、これが所謂、バーサーカーということデスか…」ミミは艦長の方を見ずに呟いた。
「機関室、機関異常無し。試験チームが念のため、全方位スラスターの点検確認するそうです。」と小林機関長。
続けてミミの報告。「全主砲、副砲、異常なしデス。こちらも試験チームがメンテを開始してるデス。」
「了解致しました。それでは皆さん、友軍の皆様の救助へ向かいましょう。
武蔵反転180度、先程の極東艦隊海域へ向けて第一戦速。 杉下船医は救護者受入れ準備、給食チームは救護者に温かい食べ物の準備をお願いします。」
10分後、油や浮遊物が浮かぶ海域に戻った。大きな煙を上げているが、唯一浮かんでいる艦艇が一隻、こちらへ発光信号を送ってきている。
「護衛艦あけぼのデス! 発光信号は、『我、通信不能、救援求む』デス。」
「了解致しました。武蔵機関停止、あけぼの左舷に接舷して下さい。副長は甲板で救援作業の指揮をお願い出来ますか?」
「艦長、了解デス。行って参りますデス!」
10分後、武蔵はあけぼの左舷に並行して接舷し、あけぼの乗員が次々と武蔵へのタラップを登っている。
ミミが艦橋に戻って来た。
「艦長、あけぼの艦長、きりしま艦長、あまくさ艦長をお連れしたデス。」
あけぼの艦長達が敬礼をし、挨拶と報告を始めようとした所を帆華艦長が笑顔で制して「皆さま、ご無事で何よりで御座います。ご存知の通り、わたくし達は正規軍では無く、周年記念航海中の学生艦ですので、皆さまのご報告を受けるような立場ではございませんの。食堂に温かい食べ物を用意して御座いますので、まずは召し上がって、一息入れた後で、今後の事をお話致しませんか?」と微笑みかけた。
1時間後、会議室で3艦長が説明したのは、極東艦隊は3艦単位でチームを組んでの広域警戒中にグロワース艦隊の襲撃を受けて、きりしま、あまくさが沈没、あけぼのも機関が被弾し航行不能、艦隊の他艦の様子も不明と言う事だった。
「わたくし達も随伴艦の護衛艦2艦が沈められて、1艦が小破、これは自動航行で学園都市へ帰港中でしたが、航行には問題ありませんので、呼び戻して、皆様をお乗せして、武蔵が護衛として同行し、地球連邦政府本部へ向かおうかと思います。」
「あけぼのは既に浸水量が多すぎて、残念ながら沈没は時間の問題です。それは、とてもありがたい提案なのですが、やはり、学生艦に護衛をお願いすると言うのは…まして、富士宮のご令嬢を危険に晒すわけには参りません。護衛艦をお借りすることだけで十分です・」
あけぼの艦長が両手を大きく振りながら説明した。
「なるほど… 承知致しました。それでは、こういうことでは如何で御座いますか? 武蔵は周年記念航海を継続致します。 周辺海域にはグロワース艦の存在が確認されたため、極東艦隊の皆様に武蔵随伴艦に移乗頂いて、護衛について頂く、と。」
極東艦隊3艦長はお互いの顔を見合わせた。
「いや、流石にそれは無理があるかと…」
あけぼの艦長が困惑した表情を浮かべた。
「あら。周年記念航海は、いわばお祭りのパレードだと思いますの。 お祭りは参加者が多い方が楽しゅうございますのよ。 わたくしからもお願いいたします、ご参加いただけませんこと?」
帆華艦長は、いたずらっ子のような表情で3艦長に微笑みかけた。
「ホノカ会長のお願いでは、誰も拒否できないデスよ。。。 会長、キレてなくても怖いです…」
ミミが呟いた。
生徒会長はお嬢様。記念艦武蔵で覚醒発動。大艦巨砲主義は眠らない。 @Sakamoto9
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