第7話 その名は「武蔵」

極東艦隊、護衛艦「あけぼの」。



艦隊は全滅し、救助した艦隊乗員を満載して撤退の途中、再度グロワース艦隊に補足されてしまった。


レーダー、通信機器が被弾して使用不能。エンジンも出力低下し、追いかけてきたグロワース艦隊の集中砲火を受けている。


(もう一撃直撃を受けたら耐え切れない、総員退艦の覚悟を決めねば)あけぼの艦長が艦内放送のマイクを握ったその時、



「艦長! 左舷後方に船影です!」 航海士が叫んだ。


「なに! 挟まれたか!」あけぼの艦長が双眼鏡で左後方を見る。


確かに艦影があり、艦影が徐々に大きくなっているので、こちらへ向かっているようだ。


しかし、艦影は増えない。単艦での攻撃か? 退路を塞ごうと言うのか?


艦影はどんどん大きくなっていく。



あけぼのの上空をグロワースの航空編隊が艦影へ向かって飛んで行った。


グロワースの航空隊が向かうと言う事は、艦影は友軍なのだろうか?


しかし、近辺海域に派遣中の友軍艦隊はないはずだし、単艦では航空機編隊相手に戦えないだろう。



突然艦影が光った。光ったと言うより、艦影が大きな丸い光の玉に包まれたような感じだ。何が起きているのか?


光が消えると、航空編隊の姿はなく、艦影が更に大きく、近づいて来ていた。


大きい、通常艦とは桁違いの大きさだ。シルエットも違う。横幅が広く、低く、重厚感の塊のようなだ。



艦影から光の筋が発射された。この光は、電磁砲? しかし、そんなものは実戦配備されていないはず。


光の筋はグロワース艦に直撃、続けて2射目も直撃し、グロワース艦は中央から真っ二つに裂けて轟沈した。


続けて隣のグロワース艦、そしてその隣のグロワース艦と立て続けに3艦が光の筋を浴びて轟沈。



何なんだ、これは、何なんだこの艦は・・



轟沈の煙の間から見えたそのは重厚感の塊は、まるで旧世紀時代の大型戦艦のようだ。



しかし大きい、神々しい程の大きさの戦艦が信じられない速度でこちらへ向かって進んでくる。


やはり電磁砲を使っているようだ。 主砲から光を放ちながらグロワース艦隊に向かって突っ込んでいく。


体当たりか? この艦は何をするつもりなのか?


光の筋がグロワース艦に直撃、砲塔部が炎上している。 それでも戦艦はグロワース艦に向かって速力を緩めない。


戦艦がグロワース艦の直前で急旋回すると、グロワース艦は巨艦の急旋回で出来た横波をもろに受けて横転轟沈した。


戦艦はそのまま次のグロワース艦へ向けて主砲から光の筋を撃ちながら突っ込んでいく・・・。


グロワース艦も発砲しているが、戦艦のスピードと動きについていけてないようで、戦艦の航跡に着弾させるのが精一杯のようだ。



巨大戦艦が主砲から光を放ちながらスピードボートのような速度で駆け抜けている。


もしかして、既にあけぼのは沈んで、これは夢でも見ているのだろうか。


「艦長! 戦艦から発光信号です。 『こ・ち・ら・ム・サ・シ シ・エ・ン・ス・ル』 あれは、武蔵! 学生艦の武蔵です!」


「あれが武蔵…」



結局、戦艦はグロワース艦隊の中を縫うように、全艦をなぎ倒して遠方へ去って行ってしまった。



周辺海域には敵グロワース艦の残骸だけが残された。

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