ついてくる
足元に転がる塊に睨まれた俺は全速力で走った。
夏の蒸し暑さが俺を襲い、汗が吹き出てくる。
普通の汗か冷や汗か分からないほどに、俺の体はあの塊に拒否反応を示していた。
はぁ……はぁ……はぁ……
土地勘のない場所をわけも分からず走ってきたから、自分自身がどこにいるのか分からない。
俺は携帯を取り出そうとズボンのポケットに手を入れた。
そこに携帯は入っておらず、別の小さな硬いものが手に当たった。
俺は恐る恐るそれをポケットから取り出す。
なんだこれ?
一瞬なんだか分からなかったが、俺はそれの正体を理解し投げ捨てた。
人間の歯だ。
血で変色し石のように見えていたその歯はカッと音をたて、大きめの石に当たる。
なんで歯なんか……
『またとれた』
今度は右肩の辺りから声が聞こえた。
うわぁ!
俺は思わず声のした方に振り返ってしまった。
だがそこには誰もいない。
その代わり、さっき走ってきたはずの道が無くなっていた。
あぁ……なんで、こんなこと今まで無かったのに……
俺はこの状況を理解できずに頭を抱えた。
コツン……コツン……
何かが石に当たる音がする。
コツン……コツン……コツン……
その音は俺にどんどんと近づいてくる。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!
俺は昨日以上の恐怖を感じ、目の前にある道を走った。
コツン……コツン……
その音は少しずつ遠くなっていく。
ガン!!
突然走っている方向から大きな音が聞こえた。
俺の体は動きを止め、硬直した。
コツン……コツン……コツン……
後ろからは音が近づいてくる。
まってまってまってまって!
俺は必死に懇願した。
だが無情にもその願いは叶わず、顔面に強い衝撃を受けた。
口の中に血の味が広がり、痛みを我慢できない。
なになになになになになに?!
涙をボロボロ流しながらのたうち回る。
だがその状況から早く抜け出したくて俺はなんとかして、目を開いた。
そこには俺の顔が血だらけになりながらニヤリと笑っていた。
『次はどこかな』
俺の手には、人の眼球が握られていた。
ホテルに潜む影 神木駿 @kamikishun05
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