159◆異世界おもちゃ道◆





 正座をする俺の前に、3辺境伯と国王様が般若の顔をして立っている。


「おい、リュード、お前なぜ俺達が怒っているかわかるか!?」


「わ、わかりません……」


「「「おぉん?」」」


 正直に答えたら、さらに4人の怒りの圧が増した。


「お前は、今年の秋のはじめに、俺達に何を送ってきた?」


「『たまとりっぴ』です」


「そうだ、お前は添えていた手紙に、ペットとなる『とり』を飼うことのできるおもちゃだと書いてあった。できれば女の子達に遊ばせてあげてくださいとも書いてあった」


「はい」


「俺達はそれぞれ、姪や一族の女子を呼んで披露して、俺達も一緒になって遊ばせてもらった。たしかに『とり』は成長し姿を変え、姪達もものすごく嬉しそうに遊んでいた。お世話は大変だったが育っていくのは嬉しかったし、懐いてくるのも、一緒に遊ぶのも楽しかった」


「……それなら、何の問題もないのではないでしょうか?」


「「「「はぁ~~~~っ」」」」


 4人そろってのバカでかいため息をつかれる。俺が何をしたというんだ。


「お前に姪達の泣き声を聞かせてやりたい!姪達の涙に濡れる目を見せてやりたい!とても許せん!」


「な、何がでしょうか?なぜ、泣くのですか!?」


「お前の作ったおもちゃの中の『とり』が、死ぬからだろうが!」


「あ……」


 うん、この問題、前世でもあったわ。『たまごっぴ』の最初のブームのとき、中のたまごっぴが死んでしまい、ペットロス症候群になったという人が多くいたという。それに関するクレームもメーカーに押し寄せたとも聞く。いわく「なぜ死んでしまうような玩具をつくったのだ!」と。


「姪がな。聞くのだ。王様、どうして、たまとりっぴは死んじゃうの?お別れしたくなかったの。王様は生き返らせること、できないの?とな!」


「北は…一族の女の子が1日交替で世話係を決めて世話しておった。10人の女の子達が泣くのだぞ…死んじゃったぁーとな……」


「あぁ、妾も今思い出すだけで目が涙で滲む。トリッピオに一体何の罪があったと言うのだ!妾の悲しみはどうすればいいのだ!」


 あぁ、北は子ども達多かったからな……。そして西辺境伯は自分で遊んでいたのか。しかも名前はトリッピオと付けていたのか。


「東で一番悲しんでいたのは私の孫だ。たまとりっぴが死んだとき、お前を呼びつけて文句を言おうとしたら、お前はこういうときに限って、南によって仕事をしてから王都に向かうので冬に会いましょうだと?私のこの拳の行き場のなさをわからせてやりたい」


「そういうわけで、リュード、一度『たまとりっぴ』を戻すゆえ、死なないものに変えろ」


「……そ、それはできかねます」


「「「なんだと!?」」」


「た、例え作られたおもちゃと言えど……、生き物は生まれ、そしていつか死ぬのです。それをわかってもらうことができたなら、このおもちゃが存在する意味もまたあるでしょう」


「……なまじ正しいことを言うから、余計に腹が立つっ!!」


 しばらく4人が、ぐぬぬとか納得のいかない顔をしていたが、少しして北辺境伯が怒りが収まったのか、俺に提案してきた。


「ふぅ……。貴公、久しぶりに北に来い。そして子ども達に貴公の口から、それを伝えてやってくれ。貴公の口からそれを聞けるのであれば、また子ども達もより深い学びになろう。ついでに北が発展する案の1つでも出してくれればよい」


「北の!それはずるいであろう!リュードよ、西もだ!西にも来い!というかいい加減、精霊合体アニスライザーも3章以降の展開に入らないと不味い。西に来て劇団の指導と新しい劇場フィギュアの詰めを行うのだ!」


「リュード、いい加減、東も『イーストスパランド・ザナドゥ』以外の何かを作る時期ではないのか?もう待ってはおれん、すぐに何か企画するのだ!」


「おい、ちょっと待て、勝手にそれぞれで引っ張っていこうとするんじゃない!まず俺だ!国王からだろう!?リュード、お前『たまとりっぴ』みたいなものが出来上がったんなら、鳴る光るの剣もさらに凄いのが作れるようになったんじゃないのか?俺にそろそろ新しい剣を作れ!」


「それはずるい、ならば我々にもパワーアップした武器を作るべきだろう!」


 そこからは、なし崩し的に、いつものように騒々しい感じになって最終的には許してもらえた。ただ今回泣かしてしまった女の子達の喜ぶものを作れという話になった。女児玩具か……また何か企画を考えなければ。



 北と西に向かう話は、来年レイレ、ステラ、ジョイを連れて家族で巡遊をすることとなった。ステラとジョイもだいぶ大きくなったし、旅をするのもおもしろいだろう。





 この世界で、いろいろなコトを仕掛け、さまざまなモノを作ってきた。だが、まだまだやりたいことは、たくさんある。



 映像と音声の記録が出来たので、次はそれをつなげて動画をとれるようにしたい。まずはデジカメの開発からか。それができたなら、アニメなどを作ってメディアにすれば戦隊もライダーも戦う魔法少女もできる。


 ロボットは…ロボットの概念がないので、うまい具合に落とし込んで普及させないといけないだろう。連邦の白い悪魔的な、前世で国民的人気だったロボみたいなものを流行らせたい。合体変形するロボだって、あれもこれも作りたい。


 自分の手で作ったり改造するという文化がないので、その辺を刷り込んでいければプラモデルやプチ4駆なんかもできるだろう。


 子どもは大人の持つモノなどに憧れる。前世では、スマホや家電や様々なものがおもちゃのモチーフとなった。と考えれば、デジカメや音楽再生できる『サウンドフラワー』をまず流行らせれば、それを模したおもちゃもヒットの可能性が高い。


 育成ぬいぐるみを作りたい。ガチャガチャなんかも設置したい。お菓子と一緒におまけのおもちゃも売りたい。アクションフィギュアもまだまだいろんな種類ができるだろう。


 ラジコンやドローンなどもできたらおもしろい。屋敷の庭に『スタープレイヤーズ』の子どもたちが遊ぶ遊具なんかも作りたいし、乗り物遊具なんかもあっても素敵だと思う。そもそも公園なんてほとんどないから、そこからだろうか。あぁゲーセンとかメダル筐体も欲しいなぁ。パチンコはいらないけど、スマートボールはあってもいいかもしれない。


 身分や地域格差は以前として大きい。階級差や貧富差を無くすことは無理にしても、より多くの人々が楽しめる、遊べるようにしていきたい。辺境の町や村の貧しい人達が、もっと良いおもちゃを手にでき買えるようにしたい。おもちゃとエンタメの以外のアプローチが必要になるが、何から始めたものか。



 将来発生するであろう問題に魔石の枯渇もありそうだ。俺の開発品の全ての基礎と言うか材料は魔石だが、今以上に生産が上がってくると魔物を乱獲しまくって、自分達の首をしめることになるだろう。人を襲う魔物であっても、いなくなったら困ってしまう。主にうちが。魔石に代わるものを研究しつつ、場合によっては種類を選んでだが魔物の生態調査と保護などもしなければならない。


 待てよ?それなら人間が魔石にチャージできるような仕組みが開発できるか研究を初めてもいいかもしれない。かなり長い研究期間が必要そうだし、その果てにできるかどうかもわからないが、挑戦する価値はありそうだ。


 ……あぁ、そのためには人が、人材が必要だ。全国的に告知をして、テストをして大々的に募集することも考えていかねばっ!


 

 俺は、際限なく回り続ける頭を冷やすために、東辺境伯屋敷の庭に出た。ひんやりとする冬の北風が頬をなでていく。見上げた王都の空は高く澄み渡っていた。



 やること、やりたいことは山積みだが、これまでと変わらない。心を燃やしながら、自分が楽しみながら、家族や友達に楽しんでもらい、周りの人間を巻き込みながら、さらに多くの人に楽しんでもらう。



 ぶるりと体が震えた。寒さのせいではない。武者震いだ。


 

 俺はまだまだ歩いていく。



 この異世界おもちゃ道を!





~完~




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いつもお読みいただきありがとうございます。


これにて、異世界おもちゃ道の本編終了です。


長くお付き合いをいただきまして本当にありがとうございました。

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【完結】異世界おもちゃ道!!~転生おもちゃ屋は『たまごっぴ』の夢をみる~ 南星りゅうじ @Rsumi

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