いつも読んでいただいてありがとうございます。本編にいれるほどの文量でもなかったのですが、どうせなら!とまとめてみました。
68話の五の村から四の村へと向かう途中の一幕です。
皆さまに感謝を込めて。ありがとうございます。
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ハンスが魔獣の王を倒し、四の村へ向かう森の中で野営をしていたときのこと。
焚火を囲み、三人は寝るまでのわずかな時間を思い思いに過ごしていた。
ネルは香草茶を楽しみ、ハンスは能力の訓練をしている。その様子を、チャンガが興味深そうに眺めていた。目がきらきらと輝いている。
「ハンスはすごいな!」
突然、チャンガが呟いた。
「なんだ急に」
「いや、あたしがハンスに会った時、ハンスはそんな金属をぬるぬる変える能力、持ってなかっただろう? 槍の先を変えて戦っていた。それでも強かった」
「……短槍な。まぁ、そうだな。チャンガに初めて会った時は、能力を失っていたな」
「あんときでも強かったハンスが、その能力を持ったら……なんかもう、ぶわーっと強くなって、すごい怖くなったぞ!」
「なんだ、ぶわーっって」
ハンスが笑う。
「なんか強さが膨れ上がった感じだ! ぶわーってなりすぎて、敵わない感じがする! そんなに変わるのがすごい!」
「膨れ上がるってのはいい表現ね」
ネルも会話に加わってくる。
「ハンスの強さは、精神の強さに確かな技術があって、その上に能力がのっているのよね」
「それだ! 姐さんの言う通りだ!」
「そんな急に褒めても、何も出ないぞ」
「で、そんなハンスは、今何をしているのかしら」
ネルがハンスの手元を指さす。
そこには、ミスリルの板を胴体に、魔法銀で手足を作った、ひどく不格好な人形が立っていた。
「いや、訓練のひとつとしてな。複雑な形態をスムーズに操れるかなと」
ミスリル人形がたどたどしく一歩を踏み出す。よろけながら次の足を出し、ふらつきながら歩く。
「まぁ」
「すごい! 歩いたぞ!」
「……」
集中力を要するのか、ハンスは黙り込んだまま、額に汗を滲ませている。
「ハンス?」
「……なんだ?」
「それは、本当に訓練になってる?」
「ぶはぁ」
ハンスが集中を解くと、魔法銀が溶け、どろりと地面に崩れ落ち、ミスリルの板がコトンと音を立てた。
「……なってないな。これで動きがスムーズになっても、人形が使えるだけだ。というか、そもそも形状を変え続けるという行為自体が、かなりきついな」
「そうよね。なんとなく見ていて、そう思ったわ」
「……でもなんで、ハンスはこんなことができるんだ?」
「結局、俺も自分の能力はよくわからん。ただ俺の血を混ぜたミスリルは、なんていうんだ……力の中継ができる感じなんだ。だからこっちでも、魔法銀を操れる」
そう言いながら、ハンスはミスリル板を魔法銀で覆い、短槍の形に変える。手持ちの短槍を伸ばしながら、離れて浮かべた短槍も伸ばす……が、やはりスピードは遅い。それからハンスは、手持ちと浮かべた分とを、形を変えたり同じにしたりと、ゆっくりいろいろ試していく。
「やった分だけ、わずかずつでも手応えがあるからな。やめられない」
「ハンスはすごいな、よし、あたしもやるぞ!」
チャンガが自分の匂いの能力を試し始める。周囲のあちこちで匂いが立ち上っては動き、ネルが少しばかりめんどくさそうな顔をした。
「あぁ、チャンガ。私の能力の訓練にも付き合ってね」
「姐さんの能力!あたし知らない!」
「私の能力は『魔眼』よ。目があった相手を動かなくできるわ」
信頼関係ができあがっているため、ネルはさらりと自分の能力を告げる。
「姐さん、それって……」
焚火の近くまで戻ってきていた匂いの分身がぶれて霧散する。チャンガは三つ首の化け物にやられた時のことを思い出し、ぶるると身を震わせた。尻尾が少し逆立っている。
「うー、あのシビシビして全身動かなくて、グラグラするの……きつかった……」
「でも、ハンスも何回も受けて、耐性を身につけたのよ」
「そうだな。死なずに体験できるなら悪くない。確かにちょっときついが」
「むー……それも強くなるってことだな。わかった、姐さん頼む」
「ええ。じゃあまずは……」
こうして眠りにつくまでの間、それぞれが能力の訓練を続けていった。
ちなみに、ネルの魔眼を受けて疲弊したチャンガは、この夜の見張り番を免除された。