158◆異世界携帯ペット『たまとりっぴ』◆
ステラとジョイの成長が目覚ましい。今年で3歳になる2人は、簡単な会話も成立するようになっている。
「リュド、けん、たたかう!」
ウレタン風の柔らか素材でできた剣を2つ持ってステラが駆けてくる。俺はそれを手に取るとステラが振りまわす剣を弾き、さばき、ピシリと打ち込む。柔らか素材ではあるが、しなりもあり少しは痛いはずだ。ステラは涙目で俺を睨み、さらに振り回してくる。本人が飽きるまで、つきあってあげる。ただし、剣や戦い関連では例え嘘でも負けては上げないし、容赦はしない。そして何度もやられているにも関わらず、ステラは何度も挑みかかってくる。将来性を感じるのは、何をすれば俺に勝てるかを一生懸命考えて挑んでくるところだ。
「リュド、しくみ、アララ」
ジョイが持ってきたのは、俺が以前に作った魔石ランプだ。ジョイは、いろいろな物に興味を持ち、その仕組みを知りたがる。アララは、バラバラにしてくれという意味だ。俺が魔石ランプを分解すると、それぞれのパーツが何かを説明させられる。その後、「くぃたてて」と言われ組みなおす。なんというか仕組みに興味をもつのはいいのだけど、同じものを指定するのは止めてほしいなと思う。この魔石ランプはもう3回目だ。何かの拷問かな?ちなみにジョイも剣の闘いごっこをするが、そのときは俺ではなくレイレとする。もちろんレイレも手を抜かないので、よく転がされている。
というか、何故この2人は俺のことを呼び捨てなんだろうか。レイレに対しては、ママとかレレママとか呼んでいるのに。
◇
『たまごっぴ』的なアイテムの開発も、少しずつ進めている。実験と検証を繰り返しながら進めている感じだ。いくら魔石がアバウトさを残したまま、制御機構を組み上げてくれるとは言え、イメージはしっかりとしておかねばならない。考えうる限りの細かいところまで仕様として書き出し、整理して考えるようにしている。
例えば、前世のマイコンにつなぐ部品で水晶振動子、水晶発振器と呼ばれるものがあった。マイコンは時間を自ら測ることができない。水晶発振子は、電圧がかかると、精度の高い安定した周波数を規則正しく出すので、それを利用して時間という概念をマイコンに設定することができるようになる。クォーツ時計などでも使われているし、相当多くの電子部品に使われている。
そして、この水晶発振子にあたるものがない。でも何かしらの時間を測る工夫が必要だ。なので、俺の適当基準で、1秒という基準単位を決めた。この1秒は俺は脳内でカウントしたものを、そのまま魔石に記録させると言うアバウト極まりないものだが、それで動いてしまうのが魔石仕様だ。
ちなみに、この世界の時間は、不定時法だ。不定寺法は、日の出と日沈を基準として、昼と夜をそれぞれ6等分して算出されるもので、季節によって1節の時間の長さも変わってくる。1節ごとに城や町で鐘が鳴らされて、時間が知らされるようになっており、人々はそれを聞いて時間を知り生活をする。本体への時間入力も、季節と何回目の鐘がなったかを確認するタイミングを数回入力して補正できるように組み込んだ。
◇
他にも解決しなければならない問題点は山積みだった。映像と音声のメモリー容量も増やさないといけなかったし、フローチャートが複雑化しすぎてバグって動かなくなったりもした。魔石の出力が下がってきたときにチャージを促す画面を出すための仕組みを入れるの苦労したし、パラメータをセーブするという機能も入れなければいけなかった。ちなみに幾つかの問題は、メインの魔石からつながる外付け魔石パーツを増設することで解決できた。その様子が、前世の基板にどんどん近づいていくのが、何ともおかしかった。
とにかく実験しては行き詰まり、組み込んで検証しては改良するという地味な作業をひたすら重ねていった。……結果、予想はしていたが、前世の『たまごっぴ』のスタイルは受け継ぎつつも、この世界にアレンジされた新アイテムになった。
そしてついに、この世界初めての液晶玩具が完成した。
◇
俺は『スタープレイヤーズ』の皆を集めて、屋敷で食事をした後、完成したばかりのアイテムを披露した。
「皆、みてくれ。今までずっと、これの開発に集中していたんだけど、ついに完成したんだ!」
「リュード殿、これは何ですか?たまご?」
「じゃあ、ハイマンこれ触ってみようか。時間は設定してあるから、ハイマンは四角の下にあるボタンに触ってみて」
ピッピー!
「おぉ、たまごが映し出された!リュード、動いています!」
「ちょっと待ってて」
ピッピー……ピョロロ!
20秒ほど経つと、たまごが割れて中から ボールに目とくちばしをつけたような、何ともかわいらしい謎生物が生まれ出てくる。謎生物は、きょろきょろと周囲を見回すと、画面の正面、ハイマンを見て、ぴゅいいーと嬉しそうに鳴いた。
「おぅ……」
「ハイマン、お肉欲しがっているから、右から2番目のボタンに触れてお肉を上げて」
「う、生まれたばかりでお肉なんていいのでしょうか?」
真剣な目で問われたが、そんな風に考えてなかった。
「だ、大丈夫、そういう生き物だから……」
「リュード、そもそもこれは、何の生き物ですか?」
「と、とり……」
「「「?」」」
「そ、それは『とり』だから!」
「…わ、わかりました」
魔物だと不味そうだったので、俺はこの生き物を『とり』だと押し切ることにした。犬猫のいないこの世界だが、以前に鳥を鳥を飼っている貴族は見たことがあるので、いけると思ったのだ。ただ、画面の中の『とり』は、進化していろんな姿になって育っていくだけだ。一応進化先のグラフィックはくちばしと羽は共通で入っている。ちなみに、前世でいた隠しキャラの「おやじっぴ」に相当するキャラは、皆の不人気ランキング上位のハーピィを可愛くしたものを入れてある。
「リュード、食べてます!一生懸命!!」
ハイマンが嬉しそうに報告をしてくる。俺、ハイマンのこんな顔を見るの初めてなんだけど、キャラ変わっていないだろうか。ピョルル~と一声鳴いた謎生物が、ぷりっとうんちをした。
「「「「~~~!!」」」」
それを見た皆の顔に衝撃が走る。いまだかつて手の中でうんちをするおもちゃがあっただろうか。これは前世でも『たまごっぴ』を買った人が、最初に受けていた衝撃だ。
「う、うんちをしました!しかも、このこ、なんかどうだ!って言わんばかりの顔をしています!ええと、おしめを変えるか、いや、どうすれば!?」
「ハイマン、じゃあ3つめのボタンを押して」
「スライムがでてきて、うんちを消してくれた!!」
皆の反応が面白すぎる。
ピョロロン!ピョロロン!
「お、ハイマン、よく見てて」
「え、何か光って…成長しました!!おぉぉ!」
「ほら育ったから、お肉あげないと」
「ちょっとハイマン私にもやらせて」
「ずるいです、ハイマンさん私にも触らせてください!」
「4つめのボタンに触ったらなでられるよ」
「「「「!!!」」」」
ピュルッポーと喜ぶ謎生物に、皆が目を輝かせている。うん、この反応なら充分いけるだろう。
「という感じで、不思議なとりを育てるおもちゃでした」
「素晴らしいですよ、リュード殿、これは可愛すぎます!」
「なんというか、ちょっとあざとい感じもするけど、それもかわいいわね」
「幾らにしましょうか?これは今までの開発アイテムとは一線を画す新機軸のものになりますね」
「リュードさん、これの名前はなんというの?」
「あー名前か…どうしようかな、よければ今、みんなで考えない?」
皆でネーミング会議を行った結果、この商品は『たまとりっぴ』に決定した。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
次回最終回になります!
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