プロローグ・一章

 似たような顔立ち、そして同じ背格好でかつ白衣を着ているので、どっちが医者でどっちが科学者か分からなくなった。

『……というわけです。おわかりいただけましたか?』

 モニターの向こうで1人の男がこちらに対して聞く。

 いえ、ぜんぜん判りません。それが俺の本音だ。でも俺は何も答えなかった。

 向こうもこちらの反応を気にしてないのか、また説明に戻る。

 ちらりと右を窺うとアクリル板を挟んで向こうにいる真白が無表情でモニター見つめていた。

 あれはもう理解を諦めたな。

 まあ、理解なんて必要ない。俺達にはもうこの選択肢しかないのだから。

『……ゆえに絶対的な安全性を……』

 何回目かの安全という言葉。

 逆に不安になってくるわ。

 医者と科学者の話が終わり、次は肩書きの長い政府関係者の説明が始まった。


  ◯


 白と銀色の無菌室。

 何もかもが清潔の部屋。そしてそれは外界と隔離するための部屋。

「理解できたか?」

 備え付きのテレビ通話機で俺は別室の真白に聞く。

『高一の私にコールドスリープマシンの原理の理解なんて無理よ』

「不安か?」

『そりゃあね。いきなりあなたはオメガ株に感染しているのでコールドスリープマシンで眠って下さいと言われてもね』

 ある日、ただの風邪だと思い検査を受けると俺と真白はフレアウイルスの陽性反応が出た。しかも変異株であるオメガ株という。

 助かる見込みもなく、感染力も高いので俺と真白はこうして無菌室で隔離されている。

 ウイルスと菌は違う。

 ウイルスは細胞壁がなく、そして菌よりも小さい。

 無菌という言葉だけでは少し心許ない。そのため無菌室はあくまで外界と隔離するための完全隔離部屋として使われている。それでも医療スタッフは皆、宇宙服みたいな医療防護服を着て、部屋の前まで訪れ、食事や衣服、その他を運んだり、こちらからの食器、ゴミ等を回収したりしている。しかも隔離エリアのゲートでいつも退出時にはアルコールシャワーを浴びている。

『ま、1人じゃないだけましね。あんたが一緒で良かった』

「嬉しいことを言うね」

『うるさい。バーカ』

 と言い、真白は笑う。

 俺と真白の関係を説明するなら恋人関係である。

 フレアウイルス感染が判明した時は肉体的接触したのかと周りにいじられた。

 言っておくがそんなことはしていない。

 俺と真白はいつの間にかフレアウイルスに感染していたのだ。しかも誰もまだ罹患していないというオメガ株に。

『食事です』という言葉と共にガチャンと音が聞こえた。

 扉の下段に横長の開閉戸がある。今、その前に今日の夕食を入れた箱がある。

『まるで囚人ね』

 真白が溜め息交じりで言う。

「そう言うなよ」

 俺は扉に向かい、箱を拾う。

 箱の隙間から漂う香りでピザと判明。

 箱をテーブルに置き、冷蔵庫からコーラを取り出す。

『ピザだ!』

「まさか病院食でジャンクフードが出るとは意外だな」

『ここ病院じゃないわよ。特殊医療科学施設よ』

「あっ、そっか!」


  ◯


 そしてコールドスリープマシンに入る日がきた。

 俺と真白は上下一体の緑色の検診衣のような服を着せられている。その下にはパンツも何も穿いていないのでスースーして少し落ち着かない。

 そんな検診衣らしき服を着せられ、コールドスリープマシンのある部屋へと音声指示で案内された。

 コールドスリープマシンはいかにもSF映画で見られるよな大型のカプセル状であった。

「大輝、ちゃんと手順書は読んだの?」

 真白が裾を押さえて聞く。なんかエロいな。

「読んだよ。てか、これ検診衣にしてはちょっと変わってないか」

「検診衣ではないわよ。コールドスリープ用の服よ。ずっと凍っても大丈夫なようにだってさ」

「ふうん」

 そこでモニターがき、白衣の男が映し出される。

『お二方、準備はよろしいですか』

「はい」、「ええ」

『では蓋を開けますので、中に仰向けになってください。その後は全てこちらで遠隔で行いますので』

 そしてモニターは消えた。

「冷たいのね」

「コールドだけにね」

「つまんないわよ」

「ごめん、ごめん」

 俺の真白はカプセルに近づく。でも、入る前に俺は真白へと向き合う。

「じゃあな」

 別に最後のお別れというわけではない。むしろ次に起きる時も一緒なのだから。しかもレム睡眠もノンレム睡眠もないので寝ている時間というものを一切感じないらしい。だから寝たらすぐ目覚めさせられる気分だと説明を受けた。

 それでも長い間、眠るとなると長いお別れのように感じる。

「……」

 しかし、真白は何も言わなかった。

「どうした?」

「そうじゃないでしょ!」

 と真白は頬を赤らめさせる。

 ああ! そういうことか。

 俺は真白に近づき、その可愛らしい頬を触れる。すると真白は目を瞑る。

 俺はゆっくりと真白の唇に自身の唇を合わせる。

 数秒後、互いに名残惜しく別れる。

「またな」

「うん」

 俺達がコールドスリープマシンに仰向けになると蓋が自動で閉じる。


  ◇ 一章 ◇


「ね……きて……おき……起きてよ!」

 誰かが俺を強く揺すっている。

「うっ……ん?」

 重い瞼を開けると見知らぬ茶髪の女の子がいた。

「起きた?」

「だ、れ?」

 上手く言葉が発せられない。舌が重いし、喉も何か詰まったかのような感じだ。

 上半身を起き上がらせると体の内と外からミシミシとしたものを感じる。

 あれ? ええと……そうだ! 俺はコールドスリープしてて……え? 終わったってこと?

 しかし、周りを伺うとコールドスリープマシンのあった部屋ではなかった。まるで洞窟のような場所にいる。それに俺はコールドスリープマシンの中ではなく、

「ゲホッ、こ、ここは?」

 俺は一度咳払いして、目の前の少女に聞く。

「ねえ、アンタ、魔王なんでしょ?」

「は?」

「魔王でも何でもいいから、アイツらを殺して!」

 急にこの子は何を言っているんだ?

 魔王? 俺が?

「待って、その前にここはどこ?」

「立って! もうすぐ奴らが来るよ!」

 茶髪少女は俺の腕を掴んで無理やり立たせる。

「ちょっと待って、……まだ脚が」

 コールドスリープから目覚めたら、しばらくは筋肉を動かしてはいけないも言っていた。無理に動かすと筋繊維や筋膜が切れると。最悪、脈、神経が切れたり、皮膚が破けたりするとかも言っていた。

 けど──。

「あれ? 問題ない?」

 脚を動かすこともできるし、声もいつの間にか発声できている。

「そんなことより来るよ!」

 奥の通路を見ていた黒髪の少女が近づいてくる。手には松明を持っていて、唯一この洞窟を照らす光のようだ。

「来るって何? てか、本当にここはどこ?」

「何って魔王墳でしょ」

 茶髪少女が答える。どこか苛立っているようだ。

「さっきから魔王っていうのは俺のこと?」

「アンタ以外に誰がいるって言うのよ!」

「やっぱタチの悪い伝説だったんだよ」

 黒髪少女はしょんぼりする。

「でも、こいつ現れたよ」

 少女2人は俺の体を上から下まで見渡す。

 そして何か失礼な目をする。

 俺も少女達を見て、あることに気づく。

「猫耳?」

 少女の頭に猫耳がある。しかもわずかにぴょこぴょこと動いている。

「何よ?」

 茶髪少女の猫耳を触ってみる。

「ふにゃあーーー!」

 かなりの質感。本物みたいにあったかい。

「ふにゃ、にゃにゃ?」

 どんどんあったかくなる。

「何すんのよー!」

「グフッ!」

 少女から本気の正拳突きをボディにもらった。

「な、何を?」

 腹を抱えてうずくまる俺に対して、

「勝手に耳触るな! てか、アンタ、魔王じゃないの?」

「魔王なわけないだろ。さっきから魔王って何なんだよ」

 その俺の言葉に少女は顔を青くして一歩下がる。

「ど、どど、ど……」

「ど?」

「どうしよう!?」

 と、そこへバタバタと足音が聞こえる。

「やばい来た!」

 茶髪少女は俺と足音の方を交互に見る。

 そして俺の手を掴み、

「逃げるよ!」

 と足音とは反対方角に走り出す。

 そこには洞穴の通路へと続いていた。先頭を黒髪少女、その後に茶髪少女と俺が続く。

 俺は裸足なので石があったりするゴツゴツとした地面は痛い。

 魔王墳とか言ってたっけ。まじで洞窟?

「いねえぞ!」、「こっちに足跡らしきものが三つあるぞ」、「三つ?」、「マジで魔王が?」、「んなわけあるか!」

 先程いた俺達がいたところから男達の声が聞こえる。何かに追いかけられている?

「あいつらは?」

 走りつつ俺は聞く。

「やとうよ!」

 茶髪少女が吐き捨てるように言う。

「やとう?」

 頭の中に漢字に変換すると野党が出た。けど政治家ではなさそうなので、もう一度変換。

「……野盗! 盗人か!」

「それ以外ある?」

「議員の野党」

「ギイン?」

 茶髪少女は何それみたいな顔をする。

「こっちだ!」

 野盗の声が近い。

 俺達は洞窟の道を右に折れ突き進んだが、

「え、嘘! ど、ど、どうしよう?」

 行き止まりだった。

 茶髪少女は左右を見たり、行き止まりの壁を叩いたりする。

 だか、隠し通路もなく。

「戻ろう」

 しかし。

「やっと追いついたぞ」

 野盗達が道を塞ぐ形で現れた。

「くらえ! カグヅチ!」

 黒髪少女は野盗が現れるやすぐに松明を前に突き出し、謎の言葉を発する。

 松明の火が膨らみ、まるで横向きの炎の渦のように野盗達を襲う。

「ぎゃあ!」、「うわっ!」

 野盗達が悲鳴をあげる。

「やっちゃえ!」

 茶髪少女が嬉々として言う。

「何それ?」

「何って、魔法よ。アイシャは魔法使いなの」

 俺の疑問に茶髪少女は何を当然なことをみたいな風に答える。

 ……魔法。え? マジで? 嘘だと思いつつも、目の前で猫耳黒髪少女が魔法を使っているし。

 このまま野盗を焼き殺すのかな。てか、殺すの?

 だが──。

 徐々に炎は小さくなる。追い返させ……いや、蒸発?

「え? 何?」

「魔法使いはお前達だけだと思うな」

 炎の向こうから余裕の声が発せられる。

 そして炎が消え、黒髪少女は地面に片膝と杖を着くかせる。

「アイシャ!」

「大丈夫……ちょっと魔力を消費しただけだから」

「何だもう尽きたのか? 張り合いのない」

 杖を持つ男が野盗達の前に出ている。その後ろで火傷を負った野盗2人がいる。最初に炎をくらった奴だろう。その火傷を負った野盗2人が前に出て、

「さっきはよくもやってくれたな」

 と、襲い掛かる。

 茶髪少女がナイフを抜き出し、俊敏に動く。

「グッ!」

 野盗は最初の一撃をくらい、二撃目をなんとか太刀で防ぐ。

 茶髪少女は死角へと動こうとするも、別の野盗から蹴りをくらい、地面を跳ね回る。

「この野郎!」

 俺は茶髪少女を蹴った野盗に飛びかかろうとするも、「雑魚は引っ込んでな」と殴り飛ばされる。さらに地面に倒れたところを足で踏まれる。

「ぐっ!」

「てかコイツはマジで何だ?」、「魔王?」、「こんなペラペラの服を着た貧相な奴が?」

「ペラペラにしては上質? 変な肌触りだな」

 と、俺を踏む野盗が服の質を調べるようにぐりぐりと足の裏を押す。

「で、どうするこの娘は?」

 野党の1人が茶髪少女の髪を掴み、頭を上げさせる。

「ぶっ殺して村への見せしめにするか?」、「その前に慰めてもらおうぜ?」、「ガキだぞ?」、「いいじゃねえかよ」

「お前ら」

 黒髪少女がふらふらと立ち上がる。そして杖先を向けようとするが、

「余計なことをするなや!」

 と野盗に蹴飛ばされる。

「きゃあ!」

「アイシャ!」

 野盗に蹴飛ばされて黒髪少女は杖を手放してしまい、地面に転がる。

 丁度、俺の近くに転がってたので、俺を踏む野盗が取ろうと動く。その隙に俺は起き上がり、地面に転がる杖を掴む。

「テメエ!」

 急に俺が立ち上がったので、背を踏んでいた野盗はたたらを踏む。

「こんちくしょうが!」

 俺は杖を振り回して、野盗を叩こうとする。

 野盗が太刀を抜き、杖の打撃を防ぐ。

 押し返そうと力を込めると、不思議なことに何か俺の体の内にある別の力が杖へと流れ、注ぎ込む。

「カグヅチ!」

 とっさに俺は黒髪少女が発した呪文を唱えてしまった。

 横向きの炎の渦が前方の野盗を燃やす。

「ぎゃあああ!」

 野盗は全身を炎に包まれ、手で炎を払おうとしつつ後退。そしてぐったりと倒れる。

「コイツ、魔法使いか!」

「ドケ!」

 野盗の魔法使いが前に出て杖を向ける。

 また水の魔法を使うのだろう。火は水に勝てない。なら雷か。でも呪文を知らない。カグヅチは日本の神様だったはず。なら雷も日本の? 雷の神様って……雷神様? 違うな。かみなり……イカヅチ……タケミカヅチ。

「ミカヅチ」

 すると大きな雷の竜が杖先をから現れた。

 俺がミカヅチを出すと同時に野盗の魔法使いも水の魔法を放っていた。雷の竜は水の奔流を掻き消し、野盗の魔法使いへと襲い掛かろうとする。

「ちっ!」

 雷の竜が当たろうとするところで野盗の魔法使いは仲間を引っ張り、盾にする。

「次は炎! カグヅチを放って!」

 黒髪少女が俺に命じる。

「炎?」

 炎は相手の水に消されるんじゃあ?

「信じて!」

「分かった」

「ま、待て!」

 野盗の魔法使いは慌てて手の平を差し出し、止めようとする。

「させるか!」

 茶髪少女の髪を掴んでいた野盗の1人が俺へと太刀を振るおうとするが──。

「死ね!」

 茶髪少女が背後から野盗の首をかっ切る。

「やっちゃえ! 魔王!」

「魔王じゃねえ! カグヅチ!」

 杖先から生まれた炎の渦は野盗の魔法使いを襲う。が、当たる前でした。

「は!?」

「クサナギ!」

 黒髪少女は緑色の石を掲げて呪文を発する。

 爆風により、洞窟の天井や壁は崩れる。

「わ、わーーー!」

「きゃあーーー!」

 そういえば水を電気分解すると水素と酸素に別れるんだった。そしてそこに火を当てると爆発すると小学校で習ったのを思い出した。

 敵の魔法使いが慌てていたのは爆発を知ってのことだったのか。

「離れていたとはいえ、よく無事だったよね」

「風の魔法を使ったので。それで爆風を防ぎました」

 黒髪少女は緑色の石を見せつつ答える。

 それが風を生み出すアイテムなのかな?

「ああなるって知ってたの?」

「魔法使いでは常識です」

「へえ。でも、それって向こうも風魔法を使ってたら……」

「大丈夫です。あの距離だと風魔法を使っても防げません」

「そっか。良かった」

「良くないわよ!」

 黒髪少女だけが憤慨していた。

 まあ、そのわけもわかる。

 だって──。

「どうするのよ。閉じ込められちゃったじゃないの!」

「ここに君達がいることを外の人は?」

「知ってけど。今は助けに来れないかも」

「どうして?」

「野盗よ!」

「倒したじゃないか」

「あれだけじゃないの! もっと他にもいるのよ!」

 ああ、もうと茶髪少女は頭を掻く。

「今、その野盗達が村を攻撃しようと囲んでいるんです。私達はどうせやられるなら魔王を解き放ってやろうって……」

 黒髪少女が答える。

「それがただ使えない奴だなんて!」

「失礼だね」

「そうだよ。ティアナ。魔法使えるんだよ」

「そろそろ自己紹介しない? 俺の名は内田大輝」

 2人の名前はなんとなく流れで知ったけど、とりあへず自己紹介を始めた。

「……ティアナ」

「アイシャです」

「ねえ、猫耳は本物? あと、尻尾もあるよね?」

「本物以外何だっていうのよ」

「日本って知ってる?」

「ニホン?」

「今使っている言葉は日本語だよね」

「言葉は言葉でしょ? 何言ってるの?」

 うーん。魔法があって獣人。言葉は通じるけど日本は知らない。……ここは異世界? もしかして異世界転生しちゃった?

「で、どうするのよ。これから!」

 ティアナは天井の瓦礫で塞がった壁を指す。

「コツコツと手でなんとかするか?」

「ああ! もう!」

 ティアナは怒り肩で瓦礫の壁に向かい、石を後ろへとどける。

 俺とアイシャも石をどけたり、土を掘ったりする。

 黙々と開始続けて1時間ほど経ったくらいか。

「クソが! クソが!」

 全く瓦礫が減らないのでティアナの口が悪くなる。いや、元から悪いかな。

「ティアナ、口が汚いよ!」

 アイシャが言葉遣いを指摘する。

「仕方ないでしょ。魔王墳まで来て、結局は魔王はいないんだし!」

「でもこの人、魔法が使えるよ」

「だけでしょ!」

 だけって、すんごい失礼だな。

「魔法って、皆使えるのか?」

 俺はアイシャに聞く。

「んなわけないでしょ。魔法は才能だけでなく、努力も必要なんだから!」

 なぜかティアナが答える。

「へえ。そういえば土の魔法とかないの?」

「あるにはありますけど……呪文知りませんし」

 アイシャが視線を逸らして答える。

「土魔法使えないの?」

「すみません」

「あのね。簡単なこと言わないで。魔法はおもちゃじゃないのよ」

 ティアナが目クジラを立てる。

「そうかい。てっきり使えるかなと思っただけだよ」

「てか、なんでアンタは魔法使えるのよ」

「知らんがな」

「やんなっちゃう」

 ティアナは石を後ろへと投げる。石は奥の壁に当たり、カーンと甲高い音が鳴り響く。

『…………』

 俺達は手を止め、そして奥の壁を見つめる。

「何かある?」

 ティアナが奥へと向かう。アイシャも地面に刺してた松明代わりの杖を持って後を追う。

「ティアナ、なんかあった?」

「アイシャ、ちょっと光を強くして」

「う、うん」

 しかし、火は強くならない。

「アイシャ?」

「ごめん。魔力が」

「なら、俺がやるよ」

 俺は杖を受け取り、魔力を注ぐ。

 火はぷっくらと膨らむ。

「すごいですね」

「え?」

「あれだけ魔法を使ったのにまだ魔力があるなんて」

「そう? 君の方が魔法をいっぱい使ってたじゃない」

「でもあんなに大きい雷は私には無理です」

「2人とも! 喋ってないで手伝っ……あ! 何かある! 硬い!」

 ティアナが何かを見つけたようだ。

「この壁に何かある!」

 俺とアイシャも壁を削る。確かに土壁とは違う金属のような感触が壁の下にある。

 そして俺達は金属の壁を露わにした。

「スイッチがある」

「すいっち?」

「ええと……つまり、ここに押しボタンらしきものが」

「……何言ってるのかよく分かんないけど、押せばいいのね」

 とティアナは安易にボタンを押した。

「押したけどどうなるの?」

「知らない。まあ、壁が開くんじゃない?」

「何よ! はっきりしないわね!」

「知らねえんだから仕方ないだろ!」

 と、そこでガガガと音が鳴り、地面が、いや天井も壁も揺れた。

「な、何?」

「きゃあ!」

 ティアナとアイシャが抱き合う。

 ここで俺も悲鳴を上げて、2人の抱擁に混ざったらどうなるかな?

 ……アウトだな。と、奥の壁が残りの土をこぼしつつ、上へとスライドする。

 シャッターだったのかな?

 そしてシャッターが天井まで上がり、通路が現れた。


  ◯


「で、出られたーーー!」

 外に出られたことにティアナは嬉しさで両手を上げる。

「駄目だよ。ティアナ、大声を出したら。敵が村の周辺にいるんだよ。ここにもいるかも……」

「そ、そうだね。ごめん、アイシャ」

 そして次に俺達は村へと向かった。

「村って遠い?」

 前を歩くアイシャに俺は聞く。

「そんなに遠くはないですよ」

「そこ! 静かに!」

「さっき馬鹿みたいに喚いていたのは誰だよ」

「何よ!」

「ティアナ、静かに!」

「ごめん」

 1時間程で村に辿り着いた。全然そんなにではない。十分じゅうぶん遠いよ。

 野盗が取り囲んでいるから中へは入るのは難しいと思いきや、すんなり村へと入れた。

 村に入ると櫓から男が降りてきた。背には弓と矢を背負っている。

「ティアナ、アイシャ無事だったか。てか、その男は?」

「兄さん! なんか封印解いたら出てきたわ。てか、野盗は?」

「さあな。何か問題でもあったのかな?」

 ティアナの兄は肩をすくめる。

「とりあへず長老のとこへ行け」

「わかった」

「その前にお前はこっちだ」

 俺はティアナの兄について来いと言われる。

「なんだ?」

「服を着ろ。年頃の子の前でなんていう格好をしているんだ」

 俺は自身の服を見る。今着ているのはコールドスリープ用のビラビラの服。下にはパンツも何も穿いていない。しかも戦闘により服に傷がついている。ただでさえビラビラなのに余計ビラビラになった。

 その時、一陣の風が吹き、服を捲り上げる。

『きゃあーーー!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

③オリジナル・アーカイブ【プロット】 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ