#003 「著作権」という概念は、もう古いのでは?

前回、AIを使って先回りして著作権を取られた場合について考えました。

まとめると、クリエイターは自らの著作物としての証拠を残しておいた方がいいけれど、結局パクられる可能性は残るという話でした。


今回はその続きとして、まずは「著作権を管理する組織が必要か」という話をしてみましょう。




JASRACのように、イラストの著作権をクリエイターの代わりに管理する組織が必要なのかも、という意見をTwitter上でちらほら見たことがあります。


しかし私は難しいのではないかと思います。


JASRACの場合は国際的な楽曲利用ネットワークが背景にあります。


海外組織とお互いに海外での利用料を徴収しているのです。


それに国内での利用料も含めた利益を得て運営されています。


分かりやすい例を挙げると、ピノキオピー氏の「神っぽいな」や稲葉曇氏の「ラグトレイン」といったボカロ曲は、動画サイトで無料で視聴できるので特に管理されていないと思われるかもしれませんが、一部の著作権がJASRACで管理されています。


したがって、これらの楽曲を演奏する場合は、海外であっても利用料を払わなければなりません。


しかしイラストの場合、pixivなどで無料で鑑賞できるプロのイラストレーターの作品は、同人活動的なものも多くあります。それに著作権フリーで公開されているなどがなければ、どこかに公開されたイラストが他で再利用されることもありません。


イラスト版JASRACが収益を上げるモデルが無い限り、そうした管理組織は難しいでしょうし、イラストレーターが落書きで公開した作品をいちいちお金をかけて管理するのは手間だと思います。


小説の場合は海外で翻訳されることがあるので、商業出版に限って言えば、そうした組織を作る余地はあるのかもしれません。しかしこれまでそうした組織がなかったことを考えると、課題は多いでしょう。


何にせよ、WEBで無料公開された著作物に関して、そうした管理組織を作ることは難しいと思います。




こうした問題に対する私個人の意見としては、著作権という考え方が古くなってきたのかなと思っています。


その一例として、作家の円城塔さんが、小説の電子上での公開を始められています。


こちらのツイート(

https://twitter.com/EnJoeToh/status/1570961286816747522

)から、以下引用します。


「github.com/EnJoeToh

の目的は、

・書籍は電子に移行するというなら、橋頭堡を築いておくべきなのでは?

・機械は小説を書くことができますかとよく聞かれるけれど、そもそもデータセットをつくってからなのでは?

・そろそろ編集作業を電子だけで閉じませんかね。

の三本です。」


ライセンスは「CC BY-NC 4.0」で公開されています。原作者のクレジットを表示して、非営利での利用であれば、改変や再配布が可能です。円城塔さんは、機械学習用のデータとしての利用も想定されています。


このように、作品自体は非営利の利用に限定してオープンにしてしまい、それ以外の部分で利益を上げるように変わっていくのではないか、と私は考えています。




「でもオープンにする必要はないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。


「AIの学習データにしたくない」とか「AIの学習データに利用するなら料金を払え」という方もいるでしょうが、それらについては別の機会に考えることにしましょう。それらについては、少なくともネット上で公開されている時点で、学習データとして利用することは合法で問題はありません。


それを抜きにしても、自作品をフリーで公開することに抵抗感がある方はいらっしゃるでしょう。


これまで著作権を持っているものをネット上で無料公開できていたのだから、そのままでいいのではと考える方は多いと思います。




しかし、AIによって状況は変わりつつあります。


2022年10月16日現在において、AI単独で商業出版が可能な小説執筆AIは存在しません。


しかし現在の発達速度から推測すると、2、3年以内に高精度な小説執筆AIが登場することは、ほぼ確定的です。


それも有料ではなく、無料で公開されて広く普及するでしょう。


それが商業出版と同程度のものなのかは分かりません。ただし、少なくとも現状で広く使われているAIのべりすとやAI BunChoといった執筆支援AIより精度は上がるでしょう。


そして数年単位で、より人間に近付いていき、見分けがつかなくなっていくでしょう。


その結果、ネット上にはAIが自動生成した作品が溢れます。


そうなった時に予想されるのは、検索が意味をなさなくなる未来です。




検索のアルゴリズムは、簡単に言えば、検索ワードに対する類似度や、ユーザーの行動ログから最適化がなされています。


しかしAIの生成物が増えると、単純にコンテンツあたりのユーザーの行動ログが減ります。


良い作品でも誰もたどり着けない、というケースが増えるでしょう。


そうして行動ログが減ると、検索精度が悪くなるはずです。


その結果、ユーザーは「欲しいものは生成した方が早いな」と判断して検索をしなくなるでしょう。


そうしてさらにログは取れなくなり、検索精度は負のループに陥ります。


先日、MicrosoftのBingが、検索して出てこなかった画像を自動生成する機能を実装したと発表されました。


●Microsoft、検索しても出てこない画像を代わりにAIで生成する技術を「Bing」に実装

https://twitter.com/madonomori/status/1580434307079843840


またGoogleは、画像生成AI「Imagen」を開発しています。当然、近いうちにMicrosoftの動きに追随して、Google上での画像生成ができるようになるでしょう。


●Google、文章から画像を生成するAI「Imagen」 「DALL-E 2より好まれる」

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2205/25/news088.html


こうした動きは、検索から生成へと移行していく可能性を見越したものだと思います。


検索サイトは、検索ワードを元にして、ユーザーがクリックしそうな広告をおすすめして利益を得ています。


検索サイト上で生成ができるようになれば、その行動履歴も元にして広告を出すようになるのでしょう。


あるいはGoogleが自動生成したものを直接売るようになるのかもしれません。


すでに「検索から生成へ」を目指したプラットフォーマーの生存競争は、始まっているのです。




次回は、著作物をオープンにする話の前段階として、「検索から生成へ」と変わった社会をもう少し深掘りしようと思います。


それでは。

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